おいしい店とのつきあい方。

112 2019年から2020年へ。その1
おかげさま、おなじみさま。

明けましておめでとうございます。
今年は本を出したり新しい仕事を本格的にはじめる予定。
元気を出すため、今まで以上に食べなくちゃ‥‥、
って思っています。

お正月といえば「おせち料理」の話題から。

縁起物がぎっしり詰まったおせちの重箱。
苦手なものがたくさんあります。
大根のなますに、田作り、
それからクワイの煮物は
なるべくならば食べずに素通りしたい料理。
特にクワイは体が震える。
中華料理なんかに使われる油通ししたクワイは
シャキッとはあんなにおいしいのに、
炊いたクワイのボソボソとした食感の絶望的なこと。
渋くて苦くて喉の奥にどうにも入っていかないのだけど、
食べないと「芽が出ないから」と必死に噛んで、
そして飲み込む。
できれば好きなものばかり食べていたいのに‥‥、
って黒豆ばかり食べて、叱られていた。
おかげでこの歳になっても芽は出ないけど
まめまめしく働けている。
それでよしかな?

ただ歳をとるにしたがって
好きなものばかり食べる傾向が強まってくる。
新しいものに対する関心が薄れていくからだけでなく、
オキニイリの料理や店がどんどん増える。
行ってあげたい店を頻繁に行こうとすれば
新しい店が割って入る余地がなくなる。
それで結局、いつも同じようなものばかり食べてしまう。

それに輪をかけ飲食店の料理が
どんどん個性をなくしていく。
理由はいくつか。
まず売りたい料理を作って売るのにはリスクが伴う。
リスクをとりたくないお店の人たちは
みんな売れる料理を売りたがる。
結局、どこのお店も同じような料理を
売るようになってしまう。

それに輪をかけて、
「どこよりも安く売らなきゃいけない」のじゃないかと
みんな必死になります。
どこにもない料理は売りたい価格で売れる。
そういう料理はお店の厨房の中の試行錯誤から生まれます。
けれど、誰もが売っている料理は、
他のお店より安い値段で売らなくちゃいけなくなる。
安い値段で売るための知恵は
メーカーの工場から生まれることがほとんどで、
特にチェーン店の料理は
食品メーカーの提案で出来上がることが今ではほとんど。
メーカーは「あなただけに」と言いながら、
みんなにヒントとソリューションを
提案するのが仕事だから、
ますます料理はどこも同じになっていく。

そのお店に行かないと食べることができない料理は、
たしかにほとんどなくなった。
料理には著作権のようなものが存在しない。
いいなと思えば真似放題です。
だから「ここにしかない」という料理を売る店は
眉唾だと思って行かないことにした。
かわりに「あの店に行ったらあれを食べなきゃいけない」
料理がある店が行くべきお店‥‥、
と思って店探しをすることにしている。
探せばそういう店は沢山あるものです。

きっかけはほんのちょっとした特徴だったはずです。
他の店よりちょっとだけボリュームがあったり、
ちょっとだけ味に特徴があったりしただけ。
それが、他の料理より
ちょっとだけ多めの注文が入るようになる。
沢山作ると作り方が上手になります。
美味しくなったり、早くできるようになったりするから
人気が高くなる。
人気は注文につながって、
気づけばそれが名物料理になっている。

SNSでブームを作ったわけじゃなく、
長い時間をかけて自然とできた人気の料理は多彩で多様。
目指して行くべき料理が、まだまだあるんだろうなぁ‥‥、
と思うとうれしい。
今年はいくつそういう料理に出会えるんだろう。
そういう料理を作り続け、
今日も磨き続けている人たちとの出会いが
どれだけあるんだろう‥‥、と思うとワクワクしてきます。

来週からまたサービスの話題に戻ります。
テーマは商品提供‥‥、
今一番ゆらぎはじめているサービスです。

2020-01-02-THU

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