おいしい店とのつきあい方。
七冊目

084 飲食店の新たな姿。その4
オーストラリアンスタイルのコース料理。

他のお店に真似できないシグニチャーメニュー。
例えばモダングリークの
「THE APPOLO」(アポロ)における
ラムのローストであるとか、
チーズとはちみつのグリルであるとか
写真を見ればひと目で、あぁ、あそこの料理だ、
とわかるほどに独特でしかも人気の料理です。

SNSの時代です。
お客様のかなりの割合がお店にくる目的として、
SNSで拡散されている
シグニチャーメニューを食べに来る。
そうでない人たちにはお店の人がそれらメニューをすすめる。
自信のあるメニューです。
しかもずっと作り続けられ売れ続けている
メニューだから、調理の手際は確実で
堂々とした味になっていて当然。

お客様は感動します。

感動した人が、次にはそのシグニチャーメニューを
友人や家族、恋人に食べさせるために戻ってくる。
その連続で、お客様が増え、繁盛が持続していく。
当然、SNSには次々、同じメニューが投稿されて
拡散していく。
お客様を手放さぬ最良の方法がこれ‥‥、
なんだろうと感心します。

同時にどの店でもほとんどの人がコースを食べる。
だって食べたいものがコースをたのめば
もれなく楽しめるんだから
それ以外のものをたのむ合理的な理由がない。
しかもお得にできていることがほとんどです。
何度も通った「THE APPOLO」において、
ボクは一度だけアラカルトメニューから
料理をいくつかとって、
自分独自のコースのようにして食べたことがありました。

どれもほどよい。
決してまずいわけでなく十分おいしい料理だったのだけど、
ワザワザそれらを食べに来る理由は
どこにもみつからなかった。
それで結局、コースメニューに戻ったのだけど、
お店の人たちが考えるように食べたいものが違っていれば
別のお店に行けばいいだけ。

しかも厨房の中では同じ料理を作り続ければいい。
だから待たせず、クイックな商品提供ができるのですね。
あのコースでなくアラカルトから注文したときは、
料理提供のタイミングがスムーズじゃなかった。
お店の人の都合とお客様との満足の両立がなされる。
それがオーストラリアンスタイルの
コース料理なんだと思った。

コース料理のほぼすべてのメニューが大皿提供。
つまり調理は一人単位でなく1テーブル単位で行われます。
調理効率が良くなります。
盛り付けはダイナミックでよしとなるから、
盛り付けのための時間は短縮できもする。
それをお客様がとりわけて食べるという、
その親密なスタイルがおいしいという気持ちを
ふくらませてくれる役目を果たしていて、
ここでもお店の都合とお客様の満足の
見事なバランスが実現されている。
そうそう。
このスタイルであれば厨房とテーブルの間を
行ったり来たりする回数、
それに要するサービススタッフの人数も
大幅に削減できます。
よい工夫。

当然、サービスの姿はダイナミックでカジュアル。
お取り分けしましょうか‥‥、
と一言かけて取り分けてくれたりすると
「あぁ、いいサービスだ」思わせる。
本来、厨房の中ですべき仕事をお客様の前でする。
調理工程で節約された手間を、
サービスとして補完するだけのことなのだけれど、
あぁ、サービスがいい、ということになるわけです。
とても賢い。
しかも食事が進んでいくに従って、
お店の人に取り分けてもらうより
自分たちで好きに食べたほうがたのしい、
ということに気づいて、
そのうちノーサービスをたのしむようになっていく。
そこで節約された分、お店の人はお客様との会話や、
お酒をすすめるという「本来のサービス」に
費やすことができるようになるというワケ。

オーストラリアは世界でも有数の
「労働者にやさしい国」であるからだろうと思ったりする。
高い人件費をカバーして
余りある経営スタイルを実現しようとすれば、
当然、コンセプト段階から
「生産性の高さ」を考慮しなくちゃいけなくなる。
オーストラリアには日本の未来がすでにある‥‥、
かもしれないなと思います。

2019-06-13-THU

サカキシンイチロウさんの本

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『おいしい店とのつきあい方』

とっておきの店の常連になって
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そんなおいしい店との素敵な関係を
つくる秘密を、こっそり、
でも、丁寧にお教えします。
くわしくはこちらのページからどうぞ。

書籍
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懐石料理で持ち上げていいお皿と
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手でつまむお寿司屋さんで
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お客さんになるコツを
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