おいしい店とのつきあい方。

083飲食店の新たな姿。その3
アメリカとヨーロッパのハイブリッド。

最近、東京で目立ちはじめた
「オーストラリア出身」のレストラン。
新設のビルができたり商業施設のリニューアルに際して、
オーストラリア出身のレストランが
核テナントの一つとして誘致されることも増えてる。
そして人気を獲得している。

例えば、東急プラザ銀座にある
モダングリークの「THE APPOLO」(アポロ)。
鳴り物入りで開業したものの、
インバウンドの人たちからも
銀座を愛する人たちからも
そっぽを向かれてしまったように見える施設のなかで、
開業以来人気が衰えない店のひとつです。
また、シドニーから恵比寿ガーデンプレイスにやってきた
タイ料理の「LONGRAIN」(ロングレイン)、
表参道ヒルズに出店しているイタリア料理の
「Fratelli Paradiso」(フラテリ パラデソ)など、
オーストラリア発のレストランは、料理の種類が多彩で、
料理そのものに「オーストラリア性」は
ほとんどないのが不思議なところ。
にもかかわらずまるで同じチェーンに属しているのか?
と思ってしまうほどに似ている。
その似ているところこそが、
もしかしたら今の日本の外食産業を覆っている
閉塞感を解決するヒントじゃないかと
思わされたりするのです。

シグニチャーメニューと大皿提供。
これが共通する特徴です。

日本のレストランを経営する人たちは
マーケティングが大好きです。
市場調査をしっかりして、
売れる商品をいかに開発し品揃えするか‥‥、
つまりマーケティング。
そもそもマーケティングは自分のお店に来てほしい、
あるいは来てくれるであろうお客様の気持ちを
調査することからはじめるべきこと。
‥‥、なんだけど、それは案外むつかしい。

例えばメニュー作りにおいて。
せっかくやってきてくれたお客様が、
食べたいものが無いというのは申し訳ないコト‥‥、
と考えるからメニューが増える。
しかもそのお客様に
「あっちの店にはあったよ」なんて言われると、
ものすごく申し訳ないような気持ちになって
メニューがどんどん増えていく。
たくさんのメニューを前にして
「どれがおすすめですか?」と聞くと、
どれでもおいしいですよ‥‥、なんて答える。
ライバル店のことばかり気にして、
「自信をもっておすすめできる料理」づくりを
しそこなったツケが、日本のレストランの
不自然なほどに種類豊富なメニューの理由なのです。

アメリカのレストランビジネスは
マーケティングビジネスです。
お客様の意見を聞きながら、
ライバルに負けないようなメニュー作りを心がける。
国の歴史が浅く、地方の食文化が多様ではない国だから
食べたいものをお客様に聞いたとしても
「いつも食べている料理」に必ず集約される。
食べ慣れたメニューにお店独自のアクセントをつけ、
お客様にとって過不足なき種類を揃えてメニューに並べる。
アラカルトが中心で、アクセントの中には
〇〇風というスパイスだったりサイドディッシュだったり、
あるいは値段だったりが含まれる。

一方、ヨーロッパのレストランは
「調理人に主権」のあるビジネスです。
自信をもって作れるもので
お客様に喜んでいただく努力をするのが
レストランを営業するということの本質。
フィレンツェに行ってピッツァがほしいと言っても、
ならばナポリにでも行ったらと言われるし、
せっかくだから焼いた牛肉を食べていけと
自信をもって勧められる。
焼いた牛肉を食べるのならば、
サラダはこれ、付け合せはあれと、
結局、コース料理が出来上がっていく。
歴史が長く、食の文化が多彩で多様であるからでしょう。
お客様もそれでよしとする。

アメリカよりも歴史の短いオーストラリア。
そのレストランはアメリカ型とヨーロッパ型の
ハイブリッドのように見えます。
お客様が食べたいと思う料理が
それほど多様にあるわけじゃない。
だからアラカルトメニューを揃えたとしても、
ほどよき程度のバリエーションで
メニューは整ってくれるから、
アメリカ型の営業をしようと思えばできなくもない。

けれどアメリカと違うところは、
労働人口が圧倒的に少ないこと。
低賃金で働いてくれる層が多くいるアメリカでは、
厨房仕事を分業で仕組み化すれば
多くのアラカルトメニューを同時に作り、
同時に提供することが可能になる。
けれどそういう人たちが不足しているオーストラリア。
お店の人が作りたいものをお客様にたのんでもらう
工夫が必要になるわけで、その部分はヨーロッパ型。
シグニチャーメニューを中心とした
メニュースタイルが生まれたのだろうと思うのです。

2019-06-06-THU