おいしい店とのつきあい方。

072食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その37 とんかつが全国規模になるまでに。

男性が好むとんかつは日本中に昔からあって、
地域の料理として認知されていました。
地域の料理ということは、
各地それぞれに独特な料理が
独自の進化を遂げてあるということ。
調味料ひとつとっても、
とんかつソース、デミグラスソース。
味噌ダレ、出汁のきいた醤油ダレととっても多彩。
肉の切り方、パン粉の状態。
揚げる油の種類も違って、その仕上がりは千差万別。
それぞれの地方で育った人たちにとって、
一番おいしいとんかつは
やはり食べ慣れたとんかつ‥‥、
ということになる。

日本中に店を作らなくちゃいけないのが
チェーン店の宿命で、
彼らにとって都合の悪いのは「地域の料理」と戦うコト。
だって、必ず負けますもん。
だからチェーン作りを目指す人たちは、
地方料理が存在しない料理分野を必死で探す。

例えば中国料理の世界。
日本において大衆的な中国料理で
チェーン化をするのは不可能だ‥‥、
とずっと言われていました。
なぜならかつて日本で中国料理と言えば
広東料理がメインストリーム。
ところが古くからある料理、同じ料理でも
地域が変わると味が違って、全国共通の味がない。
西日本の広東料理のあんかけは塩味、
ところが関東以北では醤油味。
西の天津飯は塩味だけど
関東にくると甘酢味‥‥、
とレシピの統一ができないのだからしょうがない。

ところが1990年代。
激辛ブームが日本におこって、四川料理が人気を呼んだ。
日本において比較的あたらしい中国料理の分野です。
だから地域の味が確立されてはいなくて、
それで担々麺や麻婆豆腐を主力商品にした
気軽なチェーン店が日本全国を舞台に店を次々作った。

ラーメンにおいても
風味の基本が醤油でできあがっていた頃は、
全国チェーンを作ることはむつかしかった。
だって醤油ほど地方の味を色濃く反映させる調味料は
他にないから。
日本を制覇するパワーをもっていたのは
白濁させた豚スープ。
つまり「とんこつスープ」で、
それは日本の一地域の一握りの人だけが味わっていた、
日本の大多数の人にとっては未知の味わいだったから。

ハンバーグなんて料理も
外食産業が生まれる以前にはポピュラーでなく、
地方の味が存在しなかった。
だからこそ洋風ファミリーレストランは
日本全国に店を広げることができた。

外食産業ができる前から
日本中に独自のスタイルが存在したとんかつを、
第二のハンバーグにするため
とあるコンサルティング会社が工夫をします。

目標は「女性や子供においしいと言われ、
大量生産に適したとんかつ」。

まず、各地のとんかつの特徴を
削ぎ落とすことからはじめます。
地域、あるいはお店によって
とんかつの味の特徴の最大の部分は油。
動物の脂と植物油のブレンドの仕方、
状態でとんかつの味は決まります。

そこで揚げる油は100%の植物油。
動物性の脂がもつ旨味やコク、風味をなくするかわりに、
健康的なイメージを演出できて、
男の料理が一気に「性別をもたない料理」に変わります。
植物油でサクッと仕上がり揚がった姿もうつくしいよう、
パン粉の形は大きく粗めに。
甘みをもたせたパンで作ったパン粉であれば、
糖分のために揚がった色もおいしげに見え、
焦げた香りがこうばしい。
脂のコクが足りない分を、
パン粉の風味でおぎなう工夫。
それでも足りない甘みや旨味を
野菜の旨味をとじこめたとんかつソースを使って
味をととのえる、
新しいとんかつ専門店。

今では当たり前となってしまったやり方を作って
日本中に売って歩いたのが実はボクの会社でした。

そのときの最大の武器がフライヤー。
揚げる最中、浮かんでくれて
掃除するのが簡単な天かすと違って、
沈んで油を汚しがちのパン粉を使うとんかつは
大量生産に向かぬ料理であった問題。
それを解決する魔法の道具の話を、
来週、いたしましょう。

2019-03-21-THU