おいしい店とのつきあい方。

065 食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その30
変わらぬ飲食店の悩み。

どんな商売もそうだけれど、
お店の経営が万事うまくいくわけじゃない。
なにか必ず問題や悩みがあって、
それらを解決しようと努力することで
創意工夫が発揮される。
さまざまな人のさまざまな工夫で、お店は多様に進化する。


飲食店の悩みは時代によってかわります。
1970年代。
水商売と言われていた飲食店が、
外食産業に変わろうとする時代に
お店の人たちが悩んだのは、
どうやったら大手レストランチェーンのように
合理的なお店の運営ができるのだろうというコト。
料理も店もサービスもいつも同じ状態を
作り続けるというコト。
それがこれからの飲食店にとって最も大切である、と。

QSCなんて言葉がアメリカからやってきたりもしました。
クオリティ(Quality)。
サービス(Service)。
クレンリネス(Cleanliness)。
この3つの要素をバランスよく提供し続けることが
未来の飲食店のすべきこと。
でもそのやり方がわからないから‥‥、というので悩んだ。
悩むと応援してくれる人がでてくるもの。
コンサルタントと呼ばれる人たちが
飲食店を近代的に経営する方法を仕組みにして売った。
仕組みを買って真面目にそれを実践した人は
必ず繁盛店を手に入れることができた、
チャンスに溢れた時代でもあったのです。

1980年も後半に入ると、
一部の生業店やパパママストアをのぞいて
ほとんどお店が新しい仕組みで
飲食店を経営するようになる。
その仕組みの原理はひとつ。
だから仕組みは似たりよったりで、
経営の仕方という点ではほとんどのお店が同じに見える。
お店も増えてきて、仕組みを正直に運用するだけでは
繁盛しなくなってくる。
みんな、他のお店にない特徴をつけることは
できないものか‥‥、と新たな悩みを持つようになる。

外食産業が「仕組みの時代」から、
「コンセプトの時代」になったのが
1990年前後からと言われています。
珍しくて新しい料理。
テーマ性に溢れた外観。
オシャレで居住性のよいインテリアと、
他のお店にない特徴を手に入れようと
みんな一生懸命になる。
応援したのはコンセプト作りが得意な企画会社や、
店作りが上手な設計事務所。
日本の外食産業は一挙に多様性を増しました。

20世紀から21世紀をまたぎはじめた頃から
お店の悩みは「集客」。
なにしろ飲食店の数は増えました。
数は増えたのに景気は徐々に悪くなり、
消費者の外食をしたい気持ちはどんどん薄れていく。
たのしみの多様化のために
外食が娯楽の王様ではなくなってしまった
という事情もあって、
お客様の奪い合いが日常的に起こるような状況になる。
しかもインターネットの時代です。
そんな悩みを解決して差し上げましょうと、
レストラン用のウェブサービスや
SNS型の評価サイトが次々立ち上がり、
ユーザー数を増やしていった。

ユーザーが少なかった頃には
強力な宣伝ツールになりもしたけれど、
ユーザーが増えると
結局、そこでもお客様の取り合いになる。
その上、ウェブという「比較評価」がしやすい環境の中で、
お店同士のお客様獲得合戦は
熾烈を極めるようになった‥‥、それが今。

お店の悩みはあらたな悩みに変わっています。
それは「人手がどうしようもないほどに足りない」
という悩み。
労働環境をよくしようが、
給与面での待遇をよくしようと努力しようが、
飲食店で働こうとする人の数は一向に増えてくれない。

飲食店が、どの時代も
人手確保に苦労をしなかったことはない。
けれど今ほどその悩みが
深く厳しいことはいまだかつてない。
しかもこの悩みを、誰か助けてくれる人がいるのか‥‥。
お金でなにか、解決方法を買うことができるのかというと、
それができない。
コンサルタントも企画会社も、
設計事務所もネットサービスも、誰も応援できない今。
応援できるのはただお客様だけ‥‥、というのが現状。

また来週。

2019-01-31-THU