おいしい店とのつきあい方。

064 食いしん坊的 外食産業との付き合い方。29
応援するということ。

飲食店に対する一番の応援。
それはお店に行ってあげること。
お店に行って料理を食べて、
おごちそうさまと言ってお金を払う。
それが応援の基本でしょう。

お客様がいなくてはお店は成立しないし、
売り上げがなくてはお店の人の生活がなりたたない。
だからいつも自分たちは
お客様から応援してもらっているんだ‥‥、
と思えればいいのだけれど、
毎日毎日、営業を続けていくと
そういう感謝の気持ちを忘れてしまう。
何しろちょっと人気のある店ならば
毎日100人単位のお客様がくる。
会社として経営する飲食店は
月に1万人のお客様に来ていただいて一人前。
そうでなくては利益を出すコトができない。
1ヶ月に1万人といえば1日平均300人以上です。


郊外の人気のお店の週末。
日曜日のランチタイムは戦場です。
お客様が次々やってくる。
客席は満席。
厨房の中は殺気立って、
出来た料理を早く運べと
無言のプレッシャーがひしひしと伝わってくる。
ウェイティングの人の数も増えるばかりで
一向に客席があく気配はない。
なのに、そろそろ席を立ってくれるのかなぁ‥‥、
と思っていたテーブルのお客様が手をあげ、
追加注文をする。
あぁ、どうしよう。
もうお客様なんか来てくれなくていいのにと、
罰当たりなことを思ってしまう。

ファミリーレストラン全盛の頃には
日常的にあったコトです。
1ヶ月1万人がくるお店の週末には
500名ほどのお客様がくる。
特にランチタイムにお客様は集中して
4時間ほどの間に300人ほど。
それを4名から5名でサービスしますから
1人当たり60名以上のお客様を
担当しなくちゃいけなくなる。
大変でした。

今ではさすがにこれほど極端なことはなくなったけれど、
でも忙しくてお客様がたくさん
来ていただいているときに限って
感謝の気持ちを忘れてしまいがちになる。
暇なときには心待ちにしていたお客様が、
なにか憎らしい存在に思えたりする。
なまやしい現実。

だから「お店に行って食事をしてお金を払う」という
本来、お店に対する応援になるはずのことが
応援にならなくなる。
毎日、深夜までの勉強で疲労困憊の受験生に、
「もっとがんばりなさいね」と応援するようなことが、
飲食店でもおこってしまう。
応援もときに、されるほうにとっての
ストレスになることがあるのです。

さて、応援の真髄。
応援してあげる人がしてほしいことをしてあげること!
自ら走った経験のある人が上手に走る応援ができるのも、
飲食店で働いたコトがある人の応援が
的を射ているのも同じこと。
ただ、ちょっとだけイマジネーションを膨らませ、
もし私がお店の人だったらどう考えるだろう。
どうしてほしいだろうとイメージすることは
誰にでもできる。
それが本当の応援のはじまりなのだろうと思うのです。

家の近所にベトナムから移民で東京にやってきた
働き者の女主人がやっている小さなベトナム料理店がある。
料理を作るのもサービスするのも
ほぼひとりでやってらっしゃる。
今の場所で商売をはじめてもう10余年。
それ以前は地下鉄でひと駅離れた場所で
20年近く営業し続けている、
ベトナム料理の専門店では老舗のひとつ。
ひとりでよく続いたね‥‥、ってマダムにいうと、
「ひとりだから続いたのよ」と笑顔で答える。

それにお客様がいつも応援してくれるから‥‥、と。
さて、どんな応援をずっとしてもらっていたのか。
また来週といたしましょう。

2019-01-24-THU