おいしい店とのつきあい方。

062 食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その27
反応の薄い料理店。

食べることに対して好奇心を失いつつある日本の人に、
外食産業が防衛本能を発揮せざるをえなくなった
去年の日本。
「新商品を開発する」ことが、今ではすっかり
「食べ慣れたものをアレンジ」することになってしまった。
食べることを心から愛する者として
とてもかなしい現実でした。

そしてもうひとつ。
去年一年。
特に年の後半で目立ったのが、閉店、廃業。
東京のみならず日本全国で、
地域の人たちから愛された老舗、名店が
次々閉店していった。
中にはボクの馴染みのお店も数多く、
気持ちが寒くなるようでした。

そういうタイミングなんだ‥‥、
と考えることもできます。
飲食店の出店ラッシュと言われたのが1970年前後。
50年近く前のコトです。
当時20代、30代で創業した人たちは
もう70歳から80歳。
そろそろ引退を考えるタイミングです。

ただ、なぜその引退のタイミングが
去年だったんだろう‥‥、と思うと不思議。
あと2年もがんばれば2020年。
切り良いところまでがんばろうか‥‥、
という気持ちがあってもおかしくない。


でも、もう精一杯がんばったもんなぁと
あきらめがつく出来事がいくつか今年やってくる。
ひとつが消費税があがるということ。
もうひとつは、元号がかわり
新しい時代がやってくるということ。
天皇陛下もご退位召される。
自分もこれ以上がんばらなくてもいいんじゃないかと、
引退を考える経営者はボクの周りにもかなりいる。

ならば次の時代の人たちに
経営をゆだねればいいじゃないかというコトでもある。
確かに経営者のお子さんが
経営を受け継ぐ事例も少なからずある。
でも子供に店を継がせることを
躊躇する人が増えてきている。

2000年くらいまでは、飲食店はやりがいのある商売。
子どもたちが継ぎたくなるようないい店、
いい会社にするんだと自信満々に語り、
仕事をしていた経営者が、
今では「働きがいより苦労が多い仕事」だから、
子供だけには継がせたくないと、
気持ちを変えることも数知れず。
次々、お店がなくなります。

東京や大阪のような大都市圏では、
事業継承と違った理由で店の廃業が相次ぎました。
理由は街の新陳代謝。
耐震基準でビルの建て替えや再開発。
古い建物に入居しているお店が
立ち退きを理由に廃業、閉店を決意する。

そのほとんどがその場所にしかない唯一無二の名店で、
お店をやっている人もまだ
働き盛りの人たちだったりするのが不思議。

立ち退きの場合、移転先をデベロッパーが見つけてくれて、
移転費用付きで店を再開できるはずなのに、
それでも廃業してしまう。

売上が先細っているから
立ち退きの保証金をもらってやめてしまおう‥‥、
という店もある。

ただ大規模再開発の候補地は、
ほとんどの場合、一等立地です。
そういう場所の売上が悪いわけはなく、
にもかかわらず移転がやめるきっかけになる。

先日、ビル建て替えを期に閉店した居酒屋の
気さくな女将さんに、なんでと理由を聞きました。
するとこう言う。

「最近、気苦労することが多くなってネ。
ちょっとしたことで怒られる。
料理を出しても反応がない。
せっかく急いで出した料理が、
テーブルの上にそのまま置かれて
ずっと箸がつかずにいるようなことは日常的で、
残す人も増えてきた。
売れるものは定番ばかりで、
せっかくの今日の仕入れのおいしいものを
勧めがいのない人が増えたから、
やる気がおきなくなっちゃった。
食に対する関心が
今の人達からはうすれはじめているのかもネ」

‥‥、と。

人から関心を持たれぬ仕事をし続けることほど
辛いことはないわけで、
だからしょうがないかと思ったりもする。
でも、しょうがないとあきらめつづけると、
飲食店をやってる人や
やろうと思う人の気持ちがやせて、さみしくなってしまう。
去年の出来事。
これからおそらくしばらく続く出来事だろうと思うのです。

2019-01-10-THU