おいしい店とのつきあい方。

044  食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その9 不可逆的なる料理パラダイス。

かつてこの連載で、バイキングレストラン、
つまり「バフェ」をたのしむ方法を
紹介したことがありました(*)。

*編集部註 「朝食のバフェ」


ただやみくもにお皿の上に料理を並べるのはもったいない。
料理を取る前に、お皿を持たず
優雅にバフェの料理をながめる。
どれとどれを一緒に盛ればキレイにみえるだろうとか、
料理を食べる順番を観察しながら組み立てて、
自分だけのコース料理を自分で自分にふるまうんだ‥‥、
と思ってたのしむバフェはステキ。
‥‥、というような内容でした。

当時に比べて今やバフェは
街中にあふれるようになりました。
前菜からメイン、デザートまで
すべての料理がたのしめるバフェも増えたし、
サラダバーや一部の料理だけが食べ放題、
メインは厨房から運ばれてくる‥‥、
なんてお店は本当に増えた。
まず自分がこれからたのしもうとしているバフェは
「どんなタイプのバフェ」なのか、
知っておく必要が、かつて以上に出てきます。


まず、構造。
料理が並ぶカウンターやテーブルの
置かれた位置が重要です。

厨房の前にカウンターがしつらえられている店があります。
その厨房がオープンキッチンの場合もあれば、
カウンターの壁の向こう側に
キッチンがある場合もあります。
料理の補充がしやすいです。
当然、作りたての料理をなるべく少量ずつ
並べることができるから、
同じ長さのカウンターでも料理の種類を豊富にできる。
悪くないです。

ところが厨房の位置であったり、
構造上、厨房の前に料理を並べる場所を
確保できない店がある。
そういう店はキッチンのなるべく近く‥‥、
でもちょっと離れた場所に料理を並べる。
そういうところの料理を入れた器は大きい。
遠くの厨房からわざわざ運んでこないといけないから、
一度にたくさん料理を入れておかないと心配だから。
いきおい料理の種類は減ります。
しかも料理を補充するのに、
従業員がお客様の間に割り込み料理を器に移すことになる。
料理をとることに没頭できなくなったりするから、
こういうお店はなるべく避けたい。

次にそのカウンターの形状です。
おそらく一番多いのが料理が一列にならんでいるバフェ。
既存の店に無理やりバフェのカウンターを作った店は
たいていこれです。
あるいは、ランチタイムだけ
バフェやサラダバーをやってるお店も
この形であるのがほとんど。
そしてこれが曲者なのです。


一本のバフェテーブルには自然と
「入り口」と「出口」ができます。
カウンターの片方から徐々に料理をお皿にとって
もう片方へと向かって歩く。
たいてい、サラダや冷たい前菜のようなものから
スタートして、温かい前菜、
ピラフやカレー、パスタのような主食を挟んで
メインディッシュに向かっていく。
場合によっては出口の方には
デザートがおかれていることもあるでしょう。
ちょうどフルコース的に人が食べる順番に合わせて
料理が並べられる。

選びやすいようにという配慮なのでしょうけれど、
一旦列に並んでしまうと前へ前へと進んでいかないと
後ろの人の迷惑になる。
あぁ、取り忘れたと思って後戻りしようとしても、
後ろに人がいてはそれも果たせない。
最初に欲張って料理をお皿にのっけると、
最後の料理が乗り切らなくてお皿の上は大騒ぎ。
なら途中からスタートできるかというと、
人気のあるバフェでは物理的に許されないほど
人が並んで、結局最初から取り直し。
そしたらまた最初の料理から盛り付け始めて、
永遠にメインディッシュにたどり着けない‥‥、
なんてことすら起こってしまう。

「不可逆的なる料理パラダイス」。

それが一本に料理が並んだバフェの正体。
一体、食べに行ったんだか並びに行ったんだか
わからないことになったりするのがなやましい。
サラダバーのようにサラダだけが置かれているような
「短いカウンター」であらばそれもまだ増し。
バフェのカウンターは長さに比例にして
贅沢に多彩になっていくけれど、
その分、行列も長くなる。
だからなるべく避けたいバフェ。
それでもそういう店にいきたくなったときには、
忙しくない時間を選ぶ。
そして最初に入念に、どこに何があるかを観察し
頭の中でお皿の上をイメージする。
そもそもバフェで1番お値打ちな料理は最後にあるもので、
そこにいかにたどり着くかをたのしむ食事。
そのたのしみを心おきなく味わおう‥‥、と思えば
別のバフェを選びましょう。

「アイランド型」のバフェがそれ。
また来週のおたのしみ。

2018-09-06-THU