おいしい店とのつきあい方。

125 ごきげんな食いしん坊。その19
ハム&チーズサンドのつくり方。

数あるサンドイッチの中で、
一番好きなハムとチーズのサンドイッチ。
試行錯誤の末、おいしい作り方はほぼ決まっています。
もう工夫のしようがないほどそれは完成しちゃってて、
それが「好きなんだけど、作ることに面白みを感じない」
というなやましい状況の理由となっているのです。

おいしいハムとチーズのサンドイッチ作りは、
それを作るのに適した素材を
手に入れることからはじまります。
「おいしい」ハムやチーズやパンがあれば
おいしいサンドイッチになるかというとそうじゃなくって、
「適した」ハムやチーズやパンでなくちゃ
いけないというのが大切なところです。

きめの詰まった食パンをまずは買います。
最近、はやりのふわふわ、やわらかなパンではなくて、
まな板の上、10センチくらいの高さから
ポンッと落としても、まな板の上で揺れずに
じっとしているほどの、硬めの角食。
それを12枚切りに切ってもらいます。
サンドイッチのパンにおいて「厚さ」は大切。
同じ食パンでも厚さが変わると
食べたときの食感がまるで異なる。
特にサンドイッチは「噛んで味わう」料理で、
だからパンの厚さがその噛み心地や歯切れ感、
パンと具材のバランスを決定的に決めてしまうから
こだわりたいところなのです。

ハムはジャンボンブラン。
フランス語で「白いハム」。
加水せず、発色剤も使わず、
だから豚もも肉の色そのままに仕上がったハム。
2ミリ、3ミリ程度の厚さに切ったモノ。
チーズはセミハードのものであれば、
どれもそれぞれ味わい深く、
しかも切り分けやすく扱いやすい。
中でもゴーダチーズが一番、ボクは好きかなぁ‥‥。
熟成をきかせてやると
まるでカラスミみたいなコクや風味がくわわり、
調味料のかわりになってくれておいしい。

そろえるものはほぼこれだけ。
あとはハムの脂のつきかたや、
チーズの熟成具合にあわせて
バターに芥子を混ぜたものを量を加減して使うだけ。

パンは焼きます。
2枚ひと組にして耳を落として、
そのままトースターでこんがりと。
2枚かさねてトースターで焼くと当然、
ヒーターに当たったパンの片面だけが焼きあがる。
重なり合った内側はあったまるだけ。
焦げ目もつかない。
トーストとしてはちょっとなさけない仕上がりなんだけど、
サンドイッチにするにはその出来損ないの状態こそが
ありがたい。

トーストの焦げた香りと、
カサカサした前歯をくすぐるような乾いた食感が
おいしいハムとチーズのサンドイッチには必要不可欠。
かと言って、両面を焼いてしまうと
パン生地の中の水気が蒸発し切る。
クラッカーのように乾いてガリガリに仕上がっちゃうから、
それで片面だけを焼きます。

実は、トーストブレッドでサンドイッチを作るとき、
どんな具材を使うときでも片面だけを焼くと
おいしく仕上がるのです。
だから「片面だけを焼く」というモードがついた
トースターが存在するほど。
ただ、片面だけを焼くモードでも、
パンの中の水気が蒸発しすぎるコトは起こってしまう。
だから二枚重ねで焼いてやる。
耳をとるのは食べたときの食感が均等になること、
それにパンの焼きムラを防ぐため。
勿体無いけど、思い切ってバサッと落とす。

パンは焼けたらトーストスタンドで立たせて
しばらく休ませる。
休む間に焼けたパンは蒸気を吐き出しかわいていきます。
休ませないでサンドイッチを作りはじめると
蒸気がパンとパンの間にたまり、
ベタベタ、湿ったサンドイッチになってしまう。
だからしばらく休ませる。

パンを休ませている間にチーズを削る。
よく切れるピーラーを使って薄く、薄く、削って
それがハムの厚さと同じになったら準備完了。
トーストの焼けていない面に芥子とバターを薄く塗り、
ハムとチーズを挟んで食べる。
両手で掴んでバクリと齧る。
カサカサとしたトーストブレッドの歯ざわりと
ハムやチーズのムッチリとした歯ごたえのコントラストが、
このサンドイッチの醍醐味だから、
なるべくナイフは入れずそのまま齧る。

もっとも縦に切ろうが横に切ろうが、
あるいは斜めに切って三角形に仕上げようが、
トーストの焦げた香りにハムの旨味やチーズのコク、
酸味に渋みと言った味はそれほどかわらない。
しかも口の中での食感までもが均等なのです。
歯切れ感。
噛みごたえ。
口の中での散らかり方やとろけかた。
それはチーズという食材の優秀なるところで、
そのとろけ感を味わいために
チーズは切らず、なるべく薄く削って挟む。

‥‥、と、これがボクの一番好きなサンドイッチの作り方。
こだわりの集大成です。
これ以上、工夫のしようがないほどに完成されてて、
つまり答えがでてしまっているサンドイッチ。
その点、玉子サンドイッチには答えがない。

基本はパンと玉子だけ。
どんなパンでも、どんな玉子でもウェルカムで、
こだわりよりも「工夫」がおいしくしてくれる。
パンの状態と玉子の調理の仕方の組み合わせは無限級。
だから作っていてとてもたのしい。
どうたのしいのか‥‥、来週から紹介しましょう。
今からワクワクしています。

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2017-08-17-THU