060 どこでも一緒? その5
店長の仕事。

飲食店の規模を考えるときに、
絶対に忘れてはならないのが、
そこで働いている人たちを養うことができる規模かどうか、
というコト。

飲食店と外食産業のお店の一番の違いは何ですか?
と、そう聞かれれば答えは簡単。
パートやアルバイトを使うことを前提として、
店の経営が作られているかどうかというコト。
昔の飲食店は家業でした。
だから忙しい時には家の人が手伝いに借り出される。
蕎麦屋さんとか定食屋さんで、
週末になると中学生とか高校生の子供が
料理を運んでいたりした風景。
のどかな飲食店の時代の景色で、
今でもたまにみかけるとホッとしたりする。

パートやアルバイトを使うようになった理由は、
飲食業は売上が毎日同じというわけじゃないから。
忙しいときに合わせて人を雇えば
暇なときの分の給料を払うことがむつかしくなる。
家業で経営しているお店の、
忙しいときに手伝ってくれる家族の代わりが
パートやアルバイト。
この工夫でかつての飲食店に比べて、
比較的大きなお店を安心して経営することができた‥‥、
それが外食産業が発展した大きな要因。

けれどどんなにパートやアルバイトを
使うことがうまくなっても、
「店主」や「店長」の給料を払うことができない規模では
飲食店はやっていけない。
逆にどんなに小さなお店でも。
どんなにはやっていないように見える店でも、
そこで働いている店主、
店長分の給料を払うことができれば
経営し続けることができるのです。



例えばスナック。
大抵のスナックはママひとりでやっている。
だからほとんどがひとりでできる大きさの店。
カウンターの周りに8席程度。
カウンターの向こう側に小さなテーブルがひとつか2つ。
15人も入れば一杯という規模で、
お酒だけを売っていれば
原価はたかだか15%くらいですみます。
家賃や水道光熱費を引いても
売上の半分くらいがママの実入りになる仕組み。
定休日を取れば1ヶ月に25日ほどの営業。
もし毎月、30万円の収入を得たいと思えば、
毎日1万2000円も売れば十分というコトになる。
ひとり3000円の客単価だとしたら、
毎日たった4人お客様がくれば経営は大丈夫。
おなじみさんがひさしぶりにきて、
高いブランデーのボトルを1本入れてくれれば
その日は貸し切りでも全然オッケー。
急にグループ客がやってきて、
テーブル席が埋まってしまうと忙しくはなってしまうけど、
そんな時には、今日はボトルを安くしとくから、
1本、買ってよ。あとは自分たちで勝手にやって‥‥、
と甘えてしまえばなんとかなる。

ひとりで仕切る飲食店のほぼほとんどの真髄が、
スナック経営にあるかもしれないって思うほど、
いかに店主、店長の給料を払い切るかというコトに
こだわるならば、飲食店経営は絶対破綻を来さない。



さて、本論です。
外食チェーン、特に郊外ファミリーレストランの店舗が
ほとんど同じ大きさ、形になってしまうワケ。
それは「店長の給料が売上高の3%くらいしかとれない」
というルールから、最低限の売上高が決まってしまう‥‥、
からなんです。

このときの店長というのは、
店舗の管理をとどこおりなくし、
パート、アルバイトの面接やスタッフ全員の教育をして、
現場の状態がいつもよい状態であるよう
監督をするという人のコト。

例えばその店長の給料を30万円としましょうか。
その30万円をひねり出すためには
月に1000万円の売上高が必要になる。
優秀な店長を採用しようと思えば
当然、そのハードルは高くなり、
ファミリーレストランの黄金時代には
最低でも月商1500万円でなくては、
いいチェーンとは言えないと言われていました。
客単価が1500円として月に1万人の来客数。
100軒あれば100万人。
日本を代表するチェーン店にいたっては
1000軒クラスのお店があって、
つまり日本国民の10人に1人が
必ず毎月そこで食事をしていたという、
今となってはなんだか異常な状態だった。

月に1万人ということは毎日300人ほどの来客数。
その人たちが不便を感じぬお店の規模は
席数にして100席ちょっと。
その席数を、入口前にレジをおき、
その後ろ側に厨房作った箱型店舗に収めると、
どこにでもあるチェーンレストランの
形になってしまうのです。



ところで今。
かつてのようにチェーンレストランが売上高を作れぬ時代。
お店によってはかつての半分。
普通の店でも7割程度の売上高しか
作れていないのが現実で、
ならば店長の給料は出せているのか?

例えば700万円くらいのお店が払える
店長の給料と言えば20万円程度で、
それじゃぁ、生活できない。
足りない分は店長の仕事以外の仕事をなさい。
料理を作って、料理を運び、
その分、他のスタッフの数を節約することができれば
みんなあなたの取り分。
それが今のチェーンレストランの現実で、
だからベテラン風のおじさんスタッフが
先頭きって働いている。
それはそれで尊い景色に違いなく、
けれどその分、お店の掃除が行き届かなかったり
他のスタッフを教育する手間や
時間をかけることができなくなっちゃう。
なやましいかな、チェーンストアの現実のこと。

さて来週は、チェーン店のこの100席が満席になる‥‥、
ってどういうことかちょっと考えてみましょうか。


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その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-05-19-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN