052 超えてはならない一線のこと。その23
とろり、のしくみ。

今の世の中。
くちどけのよい食べ物があふれています。
特にスイーツ。
スイーツにくちどけの良さを求める
キッカケになった食べ物って、
一体、何だったんだろう‥‥、
って思い返してみると
おそらくそれは「ティラミス」。



時は1990年の後半のコト。
ちょうど高級イタリア料理が
ブームになった時期でもあります。
「イタメシブーム」なんて言われました。
それまでイタリア料理といえば、
スパゲティーやピザが代表的な料理で、
けれどそれらはあくまでも
豊かなイタリア料理文化のほんの一部。
例えば、うどんや蕎麦、お好み焼きだけを取り上げて、
それを日本料理と思い込むのはあまりに極端。
他にもさまざまな料理があるから‥‥、と、
コース仕立てでイタリア料理をたのしむコトが
ブームになった。
コースとなれば当然、
食後の甘いものでしめくくられる。
イタリアらしい甘いものを‥‥、と、
さまざまなモノが試されました。

シチリアの有名なお菓子のカンノーリとかババ。
ノッチョーラなんてヘーゼルナッツを使った焼き菓子。
イタリアの地方、地方には
独特なお菓子がたくさんあって、
けれどそれらのほとんどが、飾り気がなく、
しかも容赦なく甘かったりする。
ゴツゴツとした素朴な食感のものも多くて、
結局お菓子はフランス菓子に尽きるよねぇ‥‥、
とイタリア系のものは不人気。

そのときさっそうと登場したのが「ティラミス」でした。



お皿の上にあって、すでに崩れるようなやわらか。
ナイフなんて必要なくて、
フォークやスプーンですくいあげて食べるお菓子で、
そのなめらかなとろける食感に、日本中が熱狂しました。
イタ飯ブームはそのうち、
ティラミスブームへと変化して、
ティラミスを売らないイタリア料理のお店なんて、
イタリア料理の店じゃない‥‥、って言われる始末。
ついにはフランス料理のレストランや、
ファミレスですらティラミスが売られるようになったほど。

その翌年にはクレームブリュレ。
タピオカ、ナタデココと
クニュクニュ系が続きはするけど、
パンナコッタのくちどけの良いなめらか感が、
スイーツブームの最後を飾るモノだと言われる。
それからしばらく。
1990年台の後半はスイーツ不振の時代と言われ、
当時、お菓子業界が仕掛けたスイーツが
カヌレ、ベルギーワッフル、クイニーアマンと
ガッシリとして顎を使わないといけないお菓子が
不思議と続いた。
ここ数年、流行っているスイーツも
マカロン、チョコレート、パンケーキと
やはりくちどけのよいモノが主流になってる。



口の中のバブル。
それが「口どけ」。
おそらく「贅沢感」を口が感じる、
そのキッカケが「とろけてなめらか」という
食感に行き着くのかもしれません。
マスカルポーネチーズだったり、
カスタードクリームだったり。
あるいはメレンゲをたっぷり含ませ焼き上げた
ふわふわのパンケーキとかが
口溶けよくてやわらかいのは当然として、
本来、これほどやわらかいはずがなかったものまで
なめらかに、とろけるようになってきている。

例えばパンが代表でしょうか。
くちどけの良さを売り物にしている
量販品を食べるとトロリととろけて
口の中がクリーミーになる。
それもすべて乳化剤ゆえ。
あぁ、自然の食感じゃないんだよなぁ‥‥、
って体や頭が身構える。



その不自然に、本当にいろんな場所で出会えます。
例えば飲み物。
緑茶系の飲み物を、飲んだ直後にネットリ、
喉の奥に感じるとろみ。
乳化剤です。
だって、お茶の粉はどんなに細かく粉砕しても
水に溶かしただけでは
いつかは必ず分離して沈殿しちゃう。
水に溶けないはずのものを、
溶けたかのようにふるまわせる効果を
乳化剤はもっているから。
ゆすらなくても、砂糖をそこに混ぜなくても
安定している無糖缶コーヒーも乳化剤があればこそ。
油を使っていないはずなのに、
クリーミーなノンオイルドレッシングも
乳化剤の産物だったりするこの不自然。
体をいたわりたいと思って選んだ
やさしい食感の食品こそが、
乳化剤のたっぷりはいったモノだったりする。
かなりなやましい日本の食。

その一方で、「これは過ぎているんじゃないか」
と訝しさすら覚える料理が、
実は昔ながらの正直の塊だったりすることがある。
来週そういう、日本が誇れる食の話をいたしましょう。


サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
 半径1時間30分のビジネスモデル』

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著者:サカキシンイチロウ
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博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
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手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-03-24-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN