048 超えてはならない一線のこと。その19
「濃さ」と「薄さ」のせめぎあい。

今や外食産業はとてもシステマティックな産業。
効率のよいサービスの仕方や厨房機器の配置の仕方。
従業員の教育の仕方に、メニューの作り方。
仕入れの仕方から、売上の管理の仕方に至るまで
経営に関するほとんど全てのことが仕組み化されてる。
その仕組みを買いさえすれば、
飲食店を作ることはとても簡単。

それに飲食店の成功を支えてくれる周辺産業も
昔に比べて充実しました。
特に食品メーカーが、外食産業向けに作り出す
さまざまな調味料や加工済み食品のお陰で
飲食店の料理は劇的においしくなった。
おいしい料理を技術や経験がなくても、
手軽に再現できるようになったコトが、
飲食店が増え、産業化が進んだ
理由のひとつでもあるのでしょう。

かつてはそんなことはなかった。
料理がおいしい店もあれば、
どうやったらこんな味にできるんだ‥‥、
って首をひねるような料理を平気で出す店も沢山あった。
特にファミリーレストラン。
何しろ、見よう見まねで料理を作って、
そのままお客様に出すような店が
多くあったりしましたから。
そんなとあるファミリーレストランに
仕事で行った時のコトです。



プロの観点でうちの料理を食べて
評価してみてください‥‥、と言われて、
とある有名ホテルのメインダイニングのシェフと一緒に
レストランに出向いたとき。
缶詰やレトルト食品を極力使わず、
手作りの味を大切にしているんですというお店。
まずはコーンポタージュをもらって試す。

ボウルを満たすポッテリとした黄色い液体。
香りも豊かで、みじん切りにしたパセリとクルトンが
生クリームで描いた白い渦巻き模様の上に漂う。
なかなか上等の姿形で、食欲そそる。
スプーンも立派なスープスプーンで、一口コクリ。

あぁ、残念。
味が一味足りないのです。
確かにコーンの香りや甘み、
生クリームの風味が混じってポタージュらしき味ではある。
けれど何かひと味分。
試食という仕事とは食べたモノの感想を
即座に言葉にしなくちゃいけない。
なのになかなか言葉が出てこないのですネ。
まずいでもない。
旨いでもない。
ウーッと唸って口をつぐんでいると、
一緒に食べたシェフが一言。

「これは薄い!」

なるほど確かに、言い得て妙。
ポタージュの味がさらりと、
舌の上にとどまることなくなくなっていく。
薄いのです。
薄く感じてしまう理由をシェフが説明します。
ベースになったブイヨンの味の片鱗はたしかに感じる。
ただ濃度がたりない。
もっと煮詰めて、コクと風味を凝縮しないと
他の材料と合わせたときに気配を隠す。
そのブイヨンの足りない風味を補おうと、
コーンはふんだんに使っているけど
それもしっかり火入れしていないから、
コーン自体の青い匂いが残ってしまう。
生クリームの質も決して悪く無い。
けれど、スープの土台がグラグラしているから、
互いが邪魔しあってそれが薄さにつながっている。
‥‥、というのです。



なるほど、確かにそういう薄さ。
この倍ほどの分量の材料を使って、
2時間余分に弱火で炊けば
ブイヨンの旨みがすべての素材の味をまとめてくれる。
ただ、そうすると原価が確実に倍になる。
ガス代だって余分にかかるし、
焦がさぬようにずっと鍋の中をみているための
人件費だって余分にかかる。
つまり「濃さをお金で買う」ということが必要なんだね。
多分、彼らはそこまでできない。
できないからこのままこうして売ってるんだろう。

ただ、ほとんどの店ではおいしくするための
時間とコストを省略するため、
化学調味料を使うんだけど、
彼らはそれをしない勇気をもっている。
そう思ったら、これも価値ある薄さなんだネ‥‥、とも。

それじゃぁ、おいしいスープを食べるためには、
コストをかけるか、
化学調味料を使うかしかないんですね‥‥、と聞くと、
「いやいや、そんなことはないんだよ」と。
このテーブルの上にあるモノを使って、
このコーンポタージュは劇的においしくなってくるんだ。
なんだと思う?
ファミリーレストランのテーブルの上に、
普通に置かれているとある調味料が、実は魔法の調味料。
答えは来週。
一週間のおたのしみ。


サカキシンイチロウさん
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東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
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博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。






2016-02-25-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN