パンダの覆面ミュージシャンである
James Panda Jr.さんは、
思いもよらない罪により、
スリランカの刑務所に入れられました。
言葉も通じぬ塀の中では、
いろいろ、めずらしい体験をされ‥‥。
でもそのアンラッキーが、数年後。
幸せとは何だ。不幸せとは、一体何だ。
異聞、ミラクル・パンダ・ストーリー。
Panda さんを紹介してくれた
ニッポン放送アナウンサー、
吉田尚記さんと、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


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第4回「裁きの日。」

――
最良の「スイートルーム」でさえも、
ベッドなしの38人部屋。

その状況、どう耐え切ったんですか。
James Panda Jr.さん
何日かすると‥‥気づいたんです。

「お前に頼めば、
日本行きのビザをもらえるんだろ」
とか聞かれたときに
「まあ、まあ」とか適当に答えると、
その日のおかずの順番が、
少し早くしてもらえたりすることに。
吉田尚記さん
おい(笑)。
James Panda Jr.さん
「あ‥‥これ使える」と思いました。

また別の連中が来たときに、
「俺、日本が大好きなんだ」という
いつもの感じからはじまって、
「お前、日本じゃ社長なんでしょ?」
とかって聞くから。
吉田尚記さん
たしかにそうよね。個人事業主。
James Panda Jr.さん
「まあ、自分で会社をやってるけど」
とかって答えたら、
デザートのミカンとかバナナとかを、
こっそりくれたりもして。
――
なんと。
James Panda Jr.さん
言葉もわからず何も持たない自分が、
この戦場で生き抜くには、
これしかない‥‥と強く思いました。
――
パンダさんのジャパン・カード。
James Panda Jr.さん
入ってから6日目くらいになったら、
食べきれないくらいの
おやつや果物が、
ぼくのお皿に集まるようになりました。
吉田尚記さん
iPhone のことも聞かれたんでしょ。
James Panda Jr.さん
そうそう。

「日本じゃ iPhone4はいくらだ?」
って聞くから
「日本はもう iPhone5だよ」
って言ったら、
「5かよ!」みたいに驚かれて、
こいつ未来から来やがったみたいな。
――
塀の中では時間が止まってる‥‥。
James Panda Jr.さん
そんなことを繰り返していたところ、
例のヒゲモジャ顔の点呼でも、
呼ばれる順番が上がっていきました。

最初は38人中37番目だったのが、
数日後には
10番台くらいで「ジャパニーズ!」
と呼ばれるようになり。
――
先に呼ばれるほうが‥‥。
James Panda Jr.さん
序列が高いんです。
――
スピード出世!
James Panda Jr.さん
最終的には7番まで上り詰めました。
吉田尚記さん
やるなあ(笑)。
――
上から7番‥‥って、
軍隊で言えば大尉くらいでしょうか。
James Panda Jr.さん
企業戦士にたとえれば、
課長代理くらいには昇進してました。

あの日本人と仲良くしていたら、
いつかいいことがあるというムードが
38人部屋をとりまくようになり、
どこで入手したのか
よくわからないパンを持ってきた人が、
「これにカレーつけて食べると、
めっちゃうまいから!」とか、ヒソヒソ声で。
――
手を変え品を変え‥‥。
吉田尚記さん
パンダの気を引こうと。
James Panda Jr.さん
ひとりだけ晩メシがてんこ盛りになって、
あまりにモリモリになりすぎて、
トイレに捨てたこともあります。

もったいないけど、しかたなく。
――
食べきれずに。
James Panda Jr.さん
他の人にあげようとしても
「いらない、いらない。
お前がもらったものなんだから
お前が食え!」
みたいな感じなんですよ。
吉田尚記さん
それ、刑務所に入って、
太って帰ってくる可能性あるよね。
James Panda Jr.さん
実際、太って帰ってきましたから。

毎日カレーを3食、食ってる上に、
Hさんのカツ丼だの、
パンだの、パパイヤだの、
バナナだの、ピーナツだの‥‥と。
――
そんな刑務所生活から、
どうやって、解放されたんですか。
James Panda Jr.さん
投獄から10日後が、裁判でした。

朝、車が迎えに来て、
裁判所に連れて行かれるんですが、
それより前の朝5時に、
イスラム教のみんなに起こされて、
「今日は俺たち全員で、
お前が日本に帰れるように祈る」
と言ってくれて‥‥。
――
うわあ‥‥。
James Panda Jr.さん
イスラム教徒じゃないから
祈りの場所には入れなかったので、
ここまではOKという
ギリギリのところに立って、
イスラムのみんなが、
俺のために祈ってくれている姿を、
ずーっと見ていました。
――
スリランカの受刑者のみなさん!
James Panda Jr.さん
結局、10日もいっしょにいると、
友情めいたものが、
ぼくらの間に生まれていたんです。

イスラムのみんなの祈りが終わり、
朝6時になると、
こんどは、仏教徒の人たちが来て、
「わたしたちも、お前のために、
仏教のお祈りを捧げさせてほしい」って。
吉田尚記さん
各宗教に祈られて。
James Panda Jr.さん
そうやって仲間たちに見送られて、
ぼくは、裁判に臨みました。
――
無罪を勝ち取れば釈放‥‥ですか。
James Panda Jr.さん
罪を認めたら帰れると
日本大使館のHさんから聞いてました。
それもすぐに、その日の夜の便で。

だから「わたしは罪を認めます」と、
すぐさま、
開廷早々に言ったんですが、
なんだか、
裁判長さんがゴニョゴニョ言ってて。
――
ええ。
James Panda Jr.さん
ヒマニさんという通訳の人に
今どうなってんですかって聞いたら、
「なんか話が違う」
と、訳してくれなくなってしまったんです。
――
嫌な予感‥‥。
James Panda Jr.さん
結局、
「年が明けたら裁判をもう1回やる」
という、
よくわからないことになってしまいました。

裁判長が
「あなたの罪は重すぎて、
わたしには裁くことができない」
と言い出したんです。
吉田尚記さん
え‥‥つまり、ひとつ上の裁判所に?
James Panda Jr.さん
地裁では、罪が重すぎて裁けないと。
――
そこまでの罪でしたか!
吉田尚記さん
さすがは国家反逆罪。
James Panda Jr.さん
そうこうしてるうち、裁判所の人に
「こちらへどうぞ」と言われ、
連れて行かれたところに、
護送車がバーン停まってるんですよ。
<後日、パンダさんが事件のことをまとめたパワーポイントより>
――
スイートルームに、逆戻り‥‥。
James Panda Jr.さん
その展開には、さすがに
日本大使館のHさんも強く出てくれて、
「この日本人を渡すわけにはいかない、
身元は大使館が保証するから、
次の裁判までは、
塀の外に出してやってほしい」って。
――
おお!
James Panda Jr.さん
そうやって、すんでのところで
塀の中への逆戻りを逃れたんですけど、
本当は、うまくいけば、もうその時間、
日本へ帰る飛行機に
乗っているはずだったんですよ。
吉田尚記さん
ああ、そうだよね。
James Panda Jr.さん
だから、われながら、
簡単に人を信用できなくなっていて。
――
もう日本に帰れないんじゃないかと。
James Panda Jr.さん
日本大使館の防弾車の中で、
「誰か、電話したい人はいますか?」
と聞かれたので、
すぐ「よっぴーだ!」と思いました。
――
よっぴーとは、ここにいる吉田さん。
吉田尚記さん
俺は俺で、そんなこと知らないので、
すぐには事情が飲み込めなくて‥‥。

マスコミのちからで、
助けてほしいみたいな話だったので。
――
その電話が急に来てもね。
James Panda Jr.さん
ぼくはもう必死でしたから、万が一、
俺が出てこれなかったら、
ラジオのちからで助けてほしいと。
吉田尚記さん
ぼくは会社で電話を取って‥‥。
James Panda Jr.さん
違う違う違う違う違う違う。
あんた、ラスベガスにいたんだよ。
吉田尚記さん
あれ、そうだったっけ。
James Panda Jr.さん
やっと刑務所から這いずり出てきて、
でも、この先
どうなるかわからない状態で
「吉田さん、もしもしパンダです!」
って必死に言ってるのに、
「どうもどうもー。
ラスベガスの吉田でーす!」って。
――
はー‥‥。
James Panda Jr.さん
こっちは、いろいろドン底なのに。
――
ノリノリでウハウハの人が出た。
吉田尚記さん
ええっと‥‥そうだったのかなあ。
James Panda Jr.さん
いやいや、忘れもしませんよ。
あんた、はっきりこう言ってたよ。

「どうもどうもー。
ラスベガスの吉田でーす!」と。

<つづきます>

2019-05-31-FRI


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