パンダの覆面ミュージシャンである
James Panda Jr.さんは、
思いもよらない罪により、
スリランカの刑務所に入れられました。
言葉も通じぬ塀の中では、
いろいろ、めずらしい体験をされ‥‥。
でもそのアンラッキーが、数年後。
幸せとは何だ。不幸せとは、一体何だ。
異聞、ミラクル・パンダ・ストーリー。
Panda さんを紹介してくれた
ニッポン放送アナウンサー、
吉田尚記さんと、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


  • まえへ
  • もくじページへ
  • つぎへ

第5回 越年、そして帰国。

吉田尚記さん
俺、そんなテンション上がってた?
James Panda Jr.さん
めっちゃハイテンションだったよ!

「お楽しみのところ悪いんだけど、
俺、逮捕されちゃったんだ」
って言っても
「何? 捕まっちゃったの?
じゃあ、連絡取れなくなったら、
俺が助ければいいのね?」
みたいな感じでした。
吉田尚記さん
あー‥‥そうだったかもしれない。
――
パンダさんがスリランカで捕まった、
という事実については
電話で、すぐに、理解できましたか。
吉田尚記さん
いや、「スリランカ」も「逮捕」も、
「国家反逆罪」も、
ワードが強すぎて理解不能でしたね。
――
でしょうね‥‥。
吉田尚記さん
そんなこと、急に言われてもねえ。
James Panda Jr.さん
もうひとり、フジテレビの
プロデューサーさんにも電話したら、
「何だかよくわかんないけど、
がんばってね」
と言って、電話は切れました。
吉田尚記さん
まあ、そうなりますよ。
James Panda Jr.さん
たぶん、聞いているほうは、
酔っ払ってんのかなあ‥‥くらいの
感じだったんだと思います。
――
10日間、刑務所で暮らし、
1回目の裁判では決着がつかず、
2回目の裁判が開廷されるまでの間、
どうにか釈放されて‥‥。
James Panda Jr.さん
大使館の人が用意してくれたのは、
政府要人が泊まる五つ星ホテルでした。
――
昨日まで、硬く冷たい
コンクリートの上で寝ていた人が。
吉田尚記さん
住環境の変化がハンパないね。
James Panda Jr.さん
そこから、ようやく、
うちの社員にも国際電話かけました。
――
ああ、そうか、関係者のみなさんに
連絡できたのは、その時点なのか。
James Panda Jr.さん
そうしたら、もう、電話に出るなり
「あんた何やってんの?
いつまでスリランカにいるつもり?」
とブチ切れられて、
どれだけこちらが経緯を説明しても、
いまいち、わかってもらえず。

最後は、あきれ声で、
「逮捕だか反逆罪だか知らないけど、
締切り、今日だから!」
と言われ、
電話はガチャンと切れました。
――
締切り‥‥例の雑誌連載の。
James Panda Jr.さん
しかたなく年末の5つ星ホテルで、
連載の原稿を書きました。

「この年末年始、
わたくしは外国で過ごしており」
という挨拶からはじめました。
吉田尚記さん
事実ではあるけど(笑)。
James Panda Jr.さん
「みなさんのお正月はどうでしたか。
それではさっそく、
新しい音楽作成ソフト、
プロツールズをご説明しましょう」
――
プロですね。
気持ちの切り替えの部分とか(笑)。
吉田尚記さん
なかなか、できるもんじゃない。
――
じゃ、その状態で連載も落とさずに。
James Panda Jr.さん
落としませんでした。

ただ、第2回の裁判が開かれるのは
年明けの1月9日で、
あと2週間くらい、この部屋で
再逮捕に怯えて暮らすのかあ‥‥と
思ったんですけど、
そのホテル、
1泊35000円くらいするんです。
――
五つ星ですもんね。
吉田尚記さん
つまり、その部屋で怯えてるだけで
破産しちゃうってことか。
James Panda Jr.さん
そう、だから
ホテルを変えようとしたんですけど、
パスポートを押収されていて。

なので、逮捕前の安宿になら
パスポート情報が残ってると思って、
「パスポート失くしちゃって」
と、おそるおそる言ったら、
「いいよ、いいよ。
大変だったな、泊めてやるよ」と。
――
スリランカの人たちの親切心に、
ちょいちょい助けられてますね。

2回目の裁判は、どうでしたか。
James Panda Jr.さん
年明けの1月9日に、開かれました。

そのときは、お正月休みで、
大使館のHさんも帰国で不在でした。
――
たったひとりの戦い!
James Panda Jr.さん
メールは見てるからと言われました。
吉田尚記さん
メールで応援!
James Panda Jr.さん
それで、その「1月9日」って日は、
ぼくの誕生日なんです。
――
もう、その星の下に生まれてますね。
James Panda Jr.さん
スリランカで
日本に帰れるかどうかという裁判に
かけられている。

そんなハッピー・バースデイでした。
――
肝心の裁判は‥‥。
James Panda Jr.さん
安ホテルにヒマニさんが迎えに来て、
トゥクトゥクで裁判所に向かい、
「打ち合わせどおりにやれば、
たぶん大丈夫ですから」
と励まされて、
あらためて国旗改変の罪を認め、
前回の裁判で
勝てる試合を落とした弁護士さんも
打ち合わせどおり熱弁をふるい、
ようやく、およそ1ヶ月ぶりに‥‥。
――
ええ。
James Panda Jr.さん
日本に帰れることになりました。
――
おめでとうございます!
James Panda Jr.さん
通訳のヒマニさんは
「これでもう、今日の夜に帰れますよ。
わたし旅行代理店やってるから、
うちの会社でチケット取るといいよ」
とさっそく営業してきました。
吉田尚記さん
いいなあ(笑)。
James Panda Jr.さん
弁護士の人も
「お前、誕生日なのか」と聞いてきて、
「そうだ」と答えたら
「ユー、ラッキーボーイ!」
とかなんかとか言ってきたんですけど。
――
ええ。
James Panda Jr.さん
前回、その人がもっとがんばってりゃ、
とっくに帰れてたんですよ。
吉田尚記さん
たしかに。
James Panda Jr.さん
ともかく、その日の夜の便‥‥
スリランカ航空の日本直行便に乗って、
9時間後には、
ひと月ぶりの日本に到着していました。
――
9時間。
James Panda Jr.さん
あれだけ遠かった祖国・日本も、
着いてしまえば、あっさりしたもので。
吉田尚記さん
でも、逮捕されてたら出国とか入国も、
大変だったんじゃないの?
James Panda Jr.さん
お察しのとおりで、出国のときは
「お前、滞在許可の期間、過ぎてるよ」
と言われ、別室に連行されました。

通訳のヒマニさんに電話をしたら、
「とりあえず、
罰金をいくらか払ってみてください。
それでたぶん、大丈夫です」と。
――
ヒマニさん‥‥豪腕というか。
James Panda Jr.さん
日本に帰れるなら何でもするという
気持ちになってますから、
言われたとおりの罰金を払いました。

ぼくが持っていた滞在許可証って
30日のもので、
入国したのが12月10日だから、
日にちを数えると、
1月8日までは平気だったんです。
吉田尚記さん
ギリギリ、アウトだ。
James Panda Jr.さん
でも、最後まで心配だったので、
日本への出発便のカウンターの前で
4時間以上じっと座り込んで、
「これで帰れる。これで帰れる。
これで帰れる。これで帰れる‥‥」
と、念じ続けていました。
――
わかります。

その気持ち‥‥本当には
絶対にわからないと思うんですが、
わかるような気がします。
James Panda Jr.さん
正月をスリランカで過ごした風の
日本人のおばあちゃんたちが
「スリランカいいとこだったねぇ」
と、隣で、話していました。
――
ええ。
James Panda Jr.さん
その会話を聞いて、
「俺は、ふつうのスリランカ人も
見ないようなところを見てきた」
と、心の中でつぶやきました。
吉田尚記さん
たしかに(笑)。
James Panda Jr.さん
朝の8時に、成田空港に到着して、
遠くのほうに
ぼくの会社の社員が迎えに来てて、
彼らの顔を見た途端‥‥。
――
ええ。
James Panda Jr.さん
もう、大げさじゃなくて、実際に、
ガクーッと膝から崩れ落ちました。
――
無理もないです。
吉田尚記さん
まわりで見ていた人は
「さすが、空港!
それくらいのドラマもあるんだね」
ぐらいに思ってたかも。
James Panda Jr.さん
そのまましばらく、
立ち上がることができませんでした。

<つづきます>

2019-06-01-SAT


  • まえへ
  • もくじページへ
  • つぎへ