あの会社のお仕事。福音館書店 篇 あの会社のお仕事。福音館書店 篇
ラインナップに、うわあと思いました。
だって知ってる絵本ばっかりなんです。
たとえば『ぐりとぐら』。
たとえば『ぐるんぱのようちえん』。
たとえば『おおきなかぶ』。
福音館書店さんの絵本、
誰しも一冊は、読んでいると思います。
児童書といえばの老舗出版社は、
どんな気持ちで子どもたちに向き合い、
絵本をつくってきたのでしょうか。
子ども向けだから、襟を正すこと。
子ども向けだから、手加減しないこと。
月刊「こどものとも」編集長の
関根里江さんに、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第3回 絵本だから、手加減できない。
写真
──
福音館書店さんのつくる物語や絵本は、
やっぱり明るかったり、
楽しい話が多いんでしょうか、総じて。
関根
基本的には、
子どもたちを応援したい気持ちなので、
最初は、ちょっと
くるしかったり、つらかったりしても、
最後に成功したり、
ハッピーエンドで終わるようなお話が
多いかなとは思いますね。
──
なるほど。
関根
ただ、子どもたちの様子を見ていたり、
読み聞かせしてださる方に
話を聞いたりすると、
子どもって、
もっといろいろな感情を体験したいと
思っているみたいなんです。
──
いろいろ?
関根
なかには「こわいお話を読んで」とか、
「悲しいお話を読んで」とか、
言ってくる子もたくさんいるようです。
写真
──
ああ、明るく楽しいだけじゃなくって。



せなけいこさんの絵本とか、
すこしこわい感じ、あったりしますね。
関根
そうですね。



でも、こわい‥‥って、案外難しくて、
こわさにも種類がありますし、
年齢や個人差で受け止め方もさまざま。
ギリギリどのへんまでなら大丈夫かは、
編集者も慎重になるところです。
──
そのさじ加減、ほんと難しそう。
関根
でも、ひとつ言えることは、
お父さんとかお母さんとか先生とか、
だいすきな大人と一緒に読むのなら、
多少こわくたって平気なんです。
──
ああー、なるほど。たしかに。



てことは、福音館書店の絵本って、
大人と子どもが一緒に読むのが、
前提になっているってことですか。
関根
そうですね。絵本って、
大人が子どもに読んであげるものと
考えています。



子どもが、信頼を寄せている大人に
読んでもらうことで、
たとえ、こわいお話だったとしても、
安心して
お話のなかに入っていけるんですね。
写真
──
絶対に戻ってこれる安心感があれば、
怖い世界にも足を踏み入れられると。
関根
そう。
──
逆に、信頼できない大人に
絵本を読んであげるって言われても、
嫌というか‥‥不安でしょうね。
関根
そうですね。とにかく、
わたしたちが絵本をつくるときには、
大人が読む前提で考えています。



耳から聞くことで、
そうとうボリュームのあるお話も、
楽しめますし。
──
ああ、子どもが自分で「読む」より。
関根
このお話を大人が声に出して読んで、
子どもが耳から聞いたとき、
どんなふうに絵が動いていくだろう、
破綻しているところはないか、
子どもがどんなふうに楽しむだろう、
ということは、
いつもイメージしていますね。
──
絵本というのは、
「子どもがひとりで読むものじゃない」
と、明確に思ってらっしゃる。
関根
絵本によっては、ひとりでながめる、
絵を楽しむものもありますけど。



でも、基本は「読んでもらう」です。
──
なるほど。
写真
関根
たとえば、さっきのイランの話では
ヤギが殺されてしまう、
そういうシーンが出てくるんですね。
──
ええ。
関根
そんなシーンは残酷だという意見も
あるかもしれませんけど、
でも、わたしたちは、
そこを、へんに「無難」なものには
したくないんです。
──
なぜですか。
関根
その場面では、ヤギは、
無闇に殺されてしまうわけじゃなく、
物語の展開に対して、
きちんと意味を持っているんですね。



昔話には残酷なところもありますが、
「残虐」には描いていないので、
へんな残りかたはしないと思います。
──
なるほど。残酷と、残虐のちがい。
関根
何より、子どもたちは、
物語の「表層的な部分」ではなくて、
その世界に入り込んでいくから、
物語の本質を見ていると思うんです。
──
本質。
関根
はい。読み取ってくれる、というか。
写真
──
関根さんたちは、
そのことを信じて本をつくっている。
関根
はい。子どもは主人公に共感したり、
主人公になりきって楽しみますから、
よけいなことは、気にしていません。



物語に触れた子どもたちは、
さまざまな思いを、心に抱くんです。
──
ええ。
関根
ですから、大人がへんに先回りして、
「これは子どもによくないのでは?」
と思ってしまったら
かえって、よくないと思っています。
──
子どもたちが、
昔話や物語から感じているものって、
もっと計り知れないものだし、
もっと豊かなもの、なんでしょうね。
関根
そうですね。絵本のつくり手としては、
「子ども向け」だからこそ、
へんな手加減のない、
本当の物語を届けたいと思っています。



たとえば『三びきのこぶた』なんかも
「いろいろあったけど、
 最後は狼さんと仲良くなりました」
みたいな結末じゃなく、
狼は、きちんと、痛い目にあうんです。
──
ええ。
関根
『おおかみと七ひきのこやぎ』でも、
狼は、最後、井戸に落ちて
死んでしまうのですが、
そういうシーンをごまかさないことが、
ほんとうの物語だと考えています。



子どもにとっては、狼と子山羊って
「食う食われる」の関係ですから、
狼が死ぬラストシーンは、
「やったー」というシーンなんです。
──
たしかに、そこをまるめちゃうのは、
大人の価値観かもしれない。
関根
こわい話には「フタ」をしないと、
いじめを助長してしまうんじゃないか。



そんなふうに考えているのは、
いつでも大人のほうなんだと思います。
写真
──
ある意味で、
子どもはもっと「大人」なんですよね。
関根
物語を、そのまま受け止めてくれます。



だから、子どもたちのほうを
きちんと見て本をつくろうってことは、
つねに考えています。
──
大人の顔色をうかがっていたら、
子どものための本にならないですよね。



ちなみに、絵本をつくるとき、
「教育的な視点、学習的な視点」には
配慮したりされてるんですか。
関根
それは、ないです。まったく。
──
あ、そうなんですか。明確に、ノー?
関根
はい。わたしたちのつくる絵本は、
「正解」だとか、
「いいわるい」だとか、
「何らかの価値観」を
一方的に教えるものではないかなあと
思っていますので。
──
ようするに、その物語を読んだあとに、
どんなふうに感じても、
どんなふうに感想を抱いてもいい、と。
写真
関根
もちろんです。
何を感じても、感じたままでいいです。



絵本を楽しむと、結果的には
聞く力がついたり、言葉に興味を持ったり、
想像力が豊かになったりと、
たしかに教育的効果はあるとは思いますが、
直接的に、絵本の中で何かを教えることは、
考えてはいません。
──
そうなんですか。
関根
それより、一緒に絵本を楽しむことで、
親子のつながりが深まること、
そのことが、大切だと思っています。



絵本を読んでもらうことで、
愛されていることを
実感してもらえたらいいなと思います。
──
でも、しつけの絵本とか、
仮におともだちとケンカしちゃっても
やっぱり仲よしがいいよね、
みたいな、メッセージ性の強い絵本を
ぼくら、選んでしまいがちですよね。
関根
そうですね、でも「大人の意図」って、
子どもは、敏感に感じ取ると思います。
写真
──
ああー。バレバレなんだ。
関根
ひとつの価値観だけを押し付ける話は、
おもしろくないし、
きっと、すぐに飽きてしまいます。



さまざまな解釈のできる物語のほうが、
長く読んでもらえるし、
一流の文学はみんなそうだと思います。
──
なるほど。
関根
だから、大人たちには、まずは
子どもたちと、「絵本」という広場で、
一緒に遊んであげてほしい。
物語を、純粋に、楽しんでほしいです。



「教育」とか「学習」とかは、
そのあとでいいんじゃないでしょうか。
写真
<つづきます>
2018-11-17-SAT
福音館書店の名作絵本を集めた
ちいさな福音館書店が
TOBICHIに期間限定オープン!
11月21日(水)~26日(月)の6日間、
南青山TOBICHI2では
画家junaidaさんの新作絵本『Michi/みち』の
原画展を開催いたします。
この絵本の版元が福音館書店だったご縁で、
TOBICHIの「すてきな四畳間」に
福音館書店さんの過去の名作絵本を集めた
「ちいさな福音館書店」を
オープンさせていただくことになりました!
期間は、junaidaさん原画展と同じ、
11月21日(水)~26日(月)の6日間。
誰でも知ってる大ロングセラー、
過去の名作絵本にくわえて、
福音館書店の編集者や「ほぼ日」乗組員による
おすすめの絵本も、
手書きのコメントとともにならびます。
なお、junaidaさんの『Michi』原画展では、
とくべつなケースに収められた
『Michi 特装版』を数量限定販売しています。
これは、TOBICHI2と代官山蔦屋書店、
Hedgehog Books and Gallery 
(京都のjunaidaさんのお店)だけで販売する
3会場限定・数量限定の特別版。
ぜひ、お手にとっていただきたい一冊です。
詳しくは下記リンクバナーからご確認ください。



ちいさな福音館書店 @TOBICHI
会期:2018年11月21日(水)~26日(月)

会場:TOBICHI すてきな四畳間

住所:東京都港区南青山4丁目25-14 [MAP]
『Michi/みち』原画展
junaida 最新絵本 2018/11/21(wed)~26(mon) @TOBICHI2
『Michi/みち』特装版
数量限定・3会場限定 画家・junaidaの新作絵本『Michi』を
とくべつなケースに収めました。