あの会社のお仕事。福音館書店 篇 あの会社のお仕事。福音館書店 篇
ラインナップに、うわあと思いました。
だって知ってる絵本ばっかりなんです。
たとえば『ぐりとぐら』。
たとえば『ぐるんぱのようちえん』。
たとえば『おおきなかぶ』。
福音館書店さんの絵本、
誰しも一冊は、読んでいると思います。
児童書といえばの老舗出版社は、
どんな気持ちで子どもたちに向き合い、
絵本をつくってきたのでしょうか。
子ども向けだから、襟を正すこと。
子ども向けだから、手加減しないこと。
月刊「こどものとも」編集長の
関根里江さんに、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第2回 13年かかった、イランの絵本。
写真
──
お話に出た『おおきなかぶ』も、
ロングセラー中のロングセラーですよね。
関根
そうですね。
1962年に刊行され、今は179刷です。
──
絵を描かれたのは、
高名な彫刻家の佐藤忠良さん、ですよね。



知ったときに驚いたのですが、
時代を超えて読み継がれていく絵本って、
お話と絵の両方が、
すばらしい出来栄えなんでしょうね。
関根
そうですね、そう思います。



絵本って、
お話と絵ががっちりと噛み合ったときに、
すごい力を発揮するんです。
──
自分は、『おおきなかぶ』という物語は、
佐藤さんの絵で覚えていました。
写真
関根
あ、そうですか。それは、よかった。



小学校のときの教科書にも載っていたし、
別の版元さんからも
絵柄ちがいで出てはいるんですけど、
やっぱり、この絵が力強いんでしょうか。
──
そうなんだと思います。
でもなぜ、彫刻家の佐藤さんに絵を?
関根
佐藤忠良さんは、いうまでもなく
彫刻家の第一人者でいらっしゃいますけど、
デッサンが、もう、本当にすばらしくって。
──
なるほど、それで。
関根
当時は、すこし甘い感じの童画が
流行していたのですが、
編集に携わっていた、現相談役の松居直が、
子どもたちに
もっとしっかりした本物の絵を見せたいと、
仕事を依頼したのです。
──
そんな経緯が。
関根
あのお話はロシアの昔話なんですけど、
佐藤さんは、
シベリアに抑留された経験をお持ちで、
絵本に出てくる登場人物は、
そのときに出会った人たちだそうです。



当時は、とても悲惨な状況だったけれど、
市井のロシアの人たちは、
とても優しくて、温かったそうなんです。
写真
──
その感じ、絵にも出ていますよね。
関根
そうそう、そうなんです。
存在感があります。



親しみというか、佐藤さんのお気持ちが
込められているのを感じます。
──
シベリアで実際、
こんなおじさんに出会ったんですね。
関根
そうですね、きっと(笑)。



佐藤さんは、ほんとうに誠実な芸術家で、
かぶをひっぱる場面も、
「どうも押しているように見えちゃうな」
とおっしゃって、
ご自分が「かぶをひっぱっている姿」を
大きな姿見に映して、
よく観察して、
納得いくまで何回も描き直したそうです。
写真
──
今の話、佐藤さんから聞かれたんですか。
関根
そうですね、直接。



佐藤さんは、彫刻の合間に
何十年と樹木や葉をデッサンされていて、
そちらもすばらしかったので、
ぜひとも本をつくらせていただきたいと
ラブレターのようなお手紙を
たくさん書いて‥‥。
──
ええ。
関根
最終的に『木』という本になったんです。
で、そのやりとりのとき、雑談のなかで。
──
佐藤さんは、当時、おいくつですか。
関根
90歳になられる、すこし前でしょうか。
──
で、めでたく出版となったのは?
関根
2年後くらいですね。
写真
──
絵本つくりって、時間がかかるんですね。
そりゃあそうですよね、
お話を考えて、絵を描くわけですもんね。
関根
毎月、刊行している「こどものとも」も、
企画から出版までは、
平均で「2年」くらいかかっています。



最近出たイランの画家さんの絵本なんか、
10年以上も‥‥最初の企画段階からは、
13年も経ってしまって。
──
13年? なんたる粘り腰。
関根
ちょっと時間の感覚がへんですね(笑)。
──
いったいどんなお話なんですか。
関根
ナルゲス・モハマンディさんという
若い女性画家が描いたイランの昔話で、
『ノホディとかいぶつ』と言います。



豆のように、ちいさくて勇敢な少女が、
こわーいかいぶつを
機転をきかせて退治するお話です。
今年(2018年)の9月号で、
ようやく出版することができたんです。
写真
──
うわあ‥‥絵がとっても魅力的です。
関根
ほんとうですか。うれしい。
──
この人と、13年つきあったんですか。
写真
関根
いえ、ちがうんです。



そもそもはイランの絵本をつくりたいと
思っていたんですが、
イランの画家の展覧会を主催し、
この話の再話者でもある愛甲恵子さんと、
13年くらい前に出会ったんです。
──
再話、というのは、
昔話を語り直すみたいなことですよね。
関根
そうです。口で伝えられてきた昔話を、
いいかたちに語り直すこと。



その世界も、奥が深いんですけど‥‥。
──
ええ。
関根
展覧会で、あるイランの画家さんの絵を
すてきだなあと思って、
絵本つくりを進めていたんですが、
イランと日本では、
絵本に対する感覚がまったくちがうんです。
写真
──
といいますと。
関根
まず、「物語るように絵を描く」という
習慣がなかったんです。



その方は、「下絵」を描かなかったり、
途中から、
絵の感じが大幅に変わっちゃったりで、
結局、最後までたどりつかなくて。
──
そうなんですか。完成しなかった。
関根
ええ、そんな紆余曲折あったあとに、
ナルゲスさんの絵を知って‥‥。
──
気づいたら、13年?
関根
そうなんですよ、びっくりですよね。



ナルゲスさんの絵は遊び心があって、
おおらかなのが魅力なんです。
このかいぶつ、おもしろいですよね。
日本人にはなかなか描けない(笑)。
写真
──
ほんと、惹き込まれちゃいます。
関根
ナルゲスさんは今、注目の人ですよ。



昨年には、
ブラティスラヴァ世界絵本原画展で
「金のりんご賞」という
すばらしい栄誉に輝いていましたし。
──
ボローニャなんかも有名ですけど、
絵本の原画の展覧会って、
海外では注目度が高いんですよね。
関根
そうですね。ナルゲスさんとは
2年半ほど前に仕事をお願いしまして、
ようやく、
かたちにすることができました。
──
さらにこの先、
単行本になる可能性もあるわけですか?
関根
そうですね、評判がよかったら。



いちおう3年間くらいは、
バックナンバーも販売していますので、
ハードカバーになるのは、
もうちょっと、先の話になりますけど。
──
おお‥‥また、さらなる時間が(笑)。
関根
気の長い話です。
何でしょう、すべてにおいて(笑)。
写真
──
アニメーション映画を撮っている知人が、
似たような時間感覚で仕事をしています。



完成までに何年もかかるので、
自分の一生のうちにつくれる映画の数は、
自ずから限界があるんだって。
関根
ああー、わかります、わかります。
──
「自分は今、40歳だから、
 あと3、4本かなあ」とか言って。
関根
そういう感覚、わたしにもあります。



定年するまでは何年だから、
あとどれくらい、
絵本をつくることができるかなあと。
<つづきます>
2018-11-16-FRI
福音館書店の名作絵本を集めた
ちいさな福音館書店が
TOBICHIに期間限定オープン!
11月21日(水)~26日(月)の6日間、
南青山TOBICHI2では
画家junaidaさんの新作絵本『Michi/みち』の
原画展を開催いたします。
この絵本の版元が福音館書店だったご縁で、
TOBICHIの「すてきな四畳間」に
福音館書店さんの過去の名作絵本を集めた
「ちいさな福音館書店」を
オープンさせていただくことになりました!
期間は、junaidaさん原画展と同じ、
11月21日(水)~26日(月)の6日間。
誰でも知ってる大ロングセラー、
過去の名作絵本にくわえて、
福音館書店の編集者や「ほぼ日」乗組員による
おすすめの絵本も、
手書きのコメントとともにならびます。
なお、junaidaさんの『Michi』原画展では、
とくべつなケースに収められた
『Michi 特装版』を数量限定販売しています。
これは、TOBICHI2と代官山蔦屋書店、
Hedgehog Books and Gallery 
(京都のjunaidaさんのお店)だけで販売する
3会場限定・数量限定の特別版。
ぜひ、お手にとっていただきたい一冊です。
詳しくは下記リンクバナーからご確認ください。



ちいさな福音館書店 @TOBICHI
会期:2018年11月21日(水)~26日(月)

会場:TOBICHI すてきな四畳間

住所:東京都港区南青山4丁目25-14 [MAP]
『Michi/みち』原画展
junaida 最新絵本 2018/11/21(wed)~26(mon) @TOBICHI2
『Michi/みち』特装版
数量限定・3会場限定 画家・junaidaの新作絵本『Michi』を
とくべつなケースに収めました。