あの会社のお仕事。福音館書店 篇 あの会社のお仕事。福音館書店 篇
ラインナップに、うわあと思いました。
だって知ってる絵本ばっかりなんです。
たとえば『ぐりとぐら』。
たとえば『ぐるんぱのようちえん』。
たとえば『おおきなかぶ』。
福音館書店さんの絵本、
誰しも一冊は、読んでいると思います。
児童書といえばの老舗出版社は、
どんな気持ちで子どもたちに向き合い、
絵本をつくってきたのでしょうか。
子ども向けだから、襟を正すこと。
子ども向けだから、手加減しないこと。
月刊「こどものとも」編集長の
関根里江さんに、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
第1回 読み継がれる本がつくりたい。
写真
──
自分が出版業界ではたらいていたとき、
福音館書店さんって、
なんだか、特別な存在に見えたんです。
関根
えっ、どうしてでしょう。
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──
やっぱり、みんなが知ってる絵本、
あれもこれも、福音館さんだということ。



それに、出版社って、
本屋さんに対しては委託販売‥‥つまり
返品される可能性のある取引を
しているのがふつうだと思うんですが、
福音館書店さんの本は、
岩波書店と並んで「買切り」だと聞くし。
関根
ええ、そうですね。
──
そういう条件でも仕入れてもらえる本を
つくってるってことですから。
関根
ありがとうございます。
──
そんなこんなで、自分を含めて、
福音館書店に憧れている人が、
まわりに、たくさんいたんです。
関根
おそらくですが、わたしたちの絵本に
幼いころに出会って、
親しんでくださっていたりすると、
その「いいイメージ」を、
ずっと持ってくださってるんでしょう。



ありがたいなあと思います。
──
いやあ、ありますよ。いいイメージ。



こうやって見ても、やっぱりすごいです。
知ってる絵本ばっかりで、驚きます。
関根
弊社でも、ロングセラーと言われている
絵本をお持ちしましたので。
写真
──
たとえば、有名な『ぐりとぐら』の場合、
どれくらい版を重ねてるんですか?
関根
現在は「223刷」ですね。



この作品については、
1963年の出版なので、今年で55歳。
親子三代‥‥
つまり若いおばあちゃんなら、
ちいさいときに読んでいたくらいの、
福音館書店でも
大ロングセラーの絵本なんです。
──
うわあ、それは超ロング。
ロングであることって、重要ですか?
関根
はい、ロングは重要です(笑)。



わたしは、こどもの本に関しては
「ベストセラーより、ロングセラー」
だと思って、つくっているんです。
そのことが、とっても大事なんです。
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──
おお。長く読み継がれる本がいい本だと。
その点、詳しく教えていただけますか。
関根
わたしは「こどものとも」という、
月に一回、
お届けする絵本をつくっているんですね。



4、5歳児の年中さん、
5、6歳児の年長さん向けの物語の本を、
毎月、出しているんです。
──
ええ。つまり、年に24冊も。
関根
定期雑誌のかたちで出しているんですが、
そのなかから、その後、あらためて
「こどものとも絵本」という
ハードカバーの単行本として出す本って、
年に4作品くらいなんです。
──
その基準は‥‥。
関根
とても評判がよく、作品としても
子どもたちに
長く読み続けてもらえるような本、です。



子どもの本って、いいものをつくったら、
時代が移り変わっても、
ずっと楽しんでもらえるなあというのが、
わたしたちの実感なんです。
──
それで、瞬間的な「ベストセラー」より、
「ロングセラー」を目指している、と。
写真
関根
はい、そういう絵本がつくれたら、
本物だなあって感じがします。



結局のところ、子どもの育ちって、
本質的には、変わらないんだと思います。
だから、そこに触れる本ができたら、
ずっと読んでもらえるんです。
──
ちなみに、200刷とか、
あんまり聞いたことないんですけれど、
福音館書店さんには、
ロングセラーの基準ってあるんですか。
写真
関根
そうですね、明確にはありませんけど、
多いものですと、
1回に1万冊以上を刷っていて、
それが100刷を越えて、
50年くらい経った本ならば、
ロングセラーと言っていいでしょうか。
──
50年?
関根
そうですね。
子どもの本は長いスパンで見ないと‥‥。
──
ははー‥‥。
関根
でも、10年くらいでも、
絶えず版を重ねているような作品ならば、
この先
ロングセラーになる可能性は高いですね。
──
福音館書店さんのロングセラーの基準が、
すごすぎると思いました。



だって、50年も売れ続ける本なんて、
そもそも、そんなにありますでしょうか。
関根
ああ、そうなんですかね(笑)。



そういうところが、
大人の本とは、ちがうのかなと思います。
時間が経つことで真価が問われる‥‥と
言いますか。
写真
──
ロングセラーになる絵本には、
何か共通する特徴があったりしますか?
関根
そうですね、一概には言えないですけど、
たぶん、ひとつには、
子どもが「もう一回読んで!」という本。



とくに3歳から6歳くらいの子どもって、
おもしろい本に出会ったら、
もう何度も「もう1回、もう1回」って、
せがむじゃないですか。
──
ああー、たしかに。
自分んちの子にも、そういう本あります。
関根
子どもの本の楽しみかたって、
大人の読書とは、だいぶちがいますよね。



好きな絵本の世界を楽しみ尽くす。
現実と空想の世界の境目が曖昧で、
絵本のなかに丸ごと入ってしまうような
楽しみ方をするんです。
──
逆に大人の場合、どんなに好きな本でも、
そんなに「何回も」って‥‥。
関根
あまりないですよね。つい次から次へと
新しい本を手に取ってしまうし。



でも、子どもの場合は、好きな物語なら、
文章も一字一句覚えちゃって、
お話の主人公になりきっちゃって‥‥
ようするに、
その物語を「栄養」にするような感じで、
楽しみ尽くしてくれるんです。
──
子どもが「もう一回!」ってせがむ物語、
何度も何度も読みたくなる本が、
長いスパンで見ても、
ロングセラーになる‥‥ってことですね。
関根
そうですね。セオリー的なことでいうと、
「繰り返し」や「ハッピーエンド」が、
子どもに好まれると、言われていますが。
──
ああー、『おおきなかぶ』みたいに?
写真
関根
そうですね、
「抜けない、抜けない、抜けない、
 うんとこしょどっこいしょ、抜けた!」
みたいな反復のパターンです。



でも、もちろんですけど、
そういう型に当てはめただけではダメで、
作者自身から生み出される
文体やリズムが、より重要だと思います。
──
やっぱり、物語や絵そのものなかに、
子どもたちを夢中にさせてしまう何かが
ひそんでいるでしょうね。
関根
そう思います。それが何なのかは、
作品によってちがいますので、
これとはっきり言えないのですが。
──
ええ。
関根
ともあれ、ロングセラー、
長く読み継がれていく物語というものは、
子どもがもともと持っている成長欲求を、
たっぷり満たしてくれる。



そういうところがあるのかなと思います。
写真
<つづきます>
2018-11-15-THU
福音館書店の名作絵本を集めた
ちいさな福音館書店が
TOBICHIに期間限定オープン!
11月21日(水)~26日(月)の6日間、
南青山TOBICHI2では
画家junaidaさんの新作絵本『Michi/みち』の
原画展を開催いたします。
この絵本の版元が福音館書店だったご縁で、
TOBICHIの「すてきな四畳間」に
福音館書店さんの過去の名作絵本を集めた
「ちいさな福音館書店」を
オープンさせていただくことになりました!
期間は、junaidaさん原画展と同じ、
11月21日(水)~26日(月)の6日間。
誰でも知ってる大ロングセラー、
過去の名作絵本にくわえて、
福音館書店の編集者や「ほぼ日」乗組員による
おすすめの絵本も、
手書きのコメントとともにならびます。
なお、junaidaさんの『Michi』原画展では、
とくべつなケースに収められた
『Michi 特装版』を数量限定販売しています。
これは、TOBICHI2と代官山蔦屋書店、
Hedgehog Books and Gallery 
(京都のjunaidaさんのお店)だけで販売する
3会場限定・数量限定の特別版。
ぜひ、お手にとっていただきたい一冊です。
詳しくは下記リンクバナーからご確認ください。



ちいさな福音館書店 @TOBICHI
会期:2018年11月21日(水)~26日(月)

会場:TOBICHI すてきな四畳間

住所:東京都港区南青山4丁目25-14 [MAP]
『Michi/みち』原画展
junaida 最新絵本 2018/11/21(wed)~26(mon) @TOBICHI2
『Michi/みち』特装版
数量限定・3会場限定 画家・junaidaの新作絵本『Michi』を
とくべつなケースに収めました。