第1回 まずは、その話をしましょうか。

糸井
今日は、大きなテーマとしては、
『スーパーマリオメーカー』について
久しぶりに宮本さんと会って話しましょう、
ということなんですが。
宮本
はい(笑)。
糸井
でも、きっとそれ以外の話も、やっぱり。
宮本
はい、いろいろ。
糸井
だから、ぼくからすると、
「宮本茂に訊く」ということなのかな(笑)。
宮本
糸井さんに訊かれるんですか(笑)。
糸井
まぁ、なんだか知らないけど、
久しぶりに会ったというところで、
思った通りにしゃべりはじめましょうか。
宮本
はい、よろしくお願いします。
京都まで、すみません。
糸井
とんでもないです。
ぼくはこの、任天堂の新しい社屋は、
はじめてなんですよ。
宮本
あれ? そうでしたっけ?
糸井
「新社屋ができるんですよ」とか
「できたんですよ」っていう話は
聞いてたんですけど、
ここに来る用事がなかったんですよ。
宮本
いつもは旧社屋にいらっしゃってたんですか。
糸井
そうですね。
とはいえ、旧社屋にもあまり来てないですね。
宮本さんにも、あと、まぁ、
どうしても名前が出てきてしまいますけど、
岩田さんと会ってしゃべるのも、
場所が会社である必要はなかったですから。
宮本
ああ、そうですね。
取材も、ぼくが青山の糸井さんのところに
行って話すことのほうが多かったかな。
糸井
だから、ぼくが任天堂に来るのは久しぶりで。
この新社屋ができてからも、けっこう経つでしょ?
宮本
1年ちょっとかな。
糸井
もう1年経ってるんだ。
直接会ったということでいうと、
最後に宮本さんに会ったのは、
まさしく、あの、大雨の‥‥
(今年の7月に亡くなった
任天堂元社長、岩田聡さんの)

お葬式の日で。
宮本
そうですね。
糸井
その話をせずには、やっぱりいられないから、
‥‥しましょうか(笑)。
宮本
はい、はい。
糸井
いやー、まだ、まいってますよね。
宮本
そうですねぇ。
糸井
いろいろ変わったと思いますけど、
なにが、いちばん、変わりますか?
宮本
いや、なんというか、
発言を妙に切り取られると誤解を生むので
言いにくいですけど、やっぱり、
いくつものことを決めていた人が、
ひとり抜けるっていうのは
影響がありますよね。
糸井
それは、極端に言えば、そういうメンバーの
誰が抜けたとしても、大きいのに‥‥。
宮本
そういうことですね。
ぼくにとって岩田さんの場合は
「空いたところを埋める」というような
単純なことではないんですよね。
糸井
うん、うん。
で、たとえば、いまみたいな
「影響がありますね」みたいな話というのは、
経済を伝えるメディアの人とかの前では、
とても、しづらいことなんでしょうね。
宮本
そうですね(笑)。
糸井
単なる事実として、
「そうに決まってるじゃないか」
ということだとしても、
それをわざわざ言いたい場所は
どこにもないですよね。
宮本
ないんですよ。
だから、こうして、糸井さんに言おうかなと(笑)。
糸井
上手に、そこのところを、なんか、
やり取りとして、ふつうの話として出しちゃって、
ちょっと宮本さんをらくにしてあげる
お手伝いもしっかりしたいなと思ってます(笑)。
宮本
ありがとうございます。
糸井
だから、まぁ、どこまで書くかはさておき、
まずは、自由に話しましょうよ。
宮本
そうですね‥‥‥‥。
厚かましいようですけど、
ほら、あの人(岩田さん)の頭というか、
考えること自体が、いってみれば、
じぶんの一部だったでしょ、もう。
糸井
まさしく。
宮本
ですよね。
ぼくは、糸井さんにも
よく言ってたと思うんですけど、
岩田さんとよく相談するようになってから、
「らくになった!」ってずっと言ってて。
糸井
ええ(笑)。
宮本
そういう意味では、埋めきれないんですよね。
会社の運営上のことは、困らないんです。
それに合わせて違ったかたちで
整えていけばいいから。
でも、ぼくの個人的なこととしては‥‥。
糸井
宮本さんの一部がなくなっちゃった
ともいえるわけだから、
違う人体にならなきゃならないわけですよね。
大きな手術をしたあと、みたいな。
宮本
うん、そうなんですよ。
糸井
それはね、想像するとすごいと思う、やっぱり。
宮本
で、それをね、
なんとかしなきゃなんにもできない、
ということでもないんですよ。
つまり、「そうなってしまっている」という場所に
じぶんがポンと置かれているので、
なんか‥‥不安定な感じなんですよね。
糸井
まだそんなに時間も経ってないですし。
うーん‥‥いや、そういう話を
宮本さんとする機会も
いままで持てなかったじゃないですか。
ぼくはぼくで、なんていうんだろう、
宮本さんへの遠慮というか、
会ってもまだ話せないだろうな、
っていうような気持ちって、
それなりにありましたからね。
つまり、「たいへんでしょ?」って
言い過ぎるのもイヤじゃないですか。
宮本
うん。
糸井
かといって、ひとりでそういう話を
できる場所なんて、ないものね。
だから‥‥困りますよね。
宮本
そうですね。
どっぷり日常に食い込んでたので。
糸井
そうだよねぇ。
宮本
けっこう、友だちだったなぁとか(笑)。
糸井
そうそう(笑)。
宮本
振り返ってみると、
そういうことが、いろいろと‥‥。
たとえば、何度か言ってますけど、
「週末に思いついたことを月曜日に話す」
っていうことが、ぼくら、
習慣みたいになってたんですよ。
糸井
はい、はい。
宮本
まず、土日にひとりでいるときに、
ネタを思いつくわけですよ。
で、思いついたときに、かならず、
「誰にしゃべるか」ということを意識するので、
「このネタは、よろこびそうやな」とか、
「こう言ったほうがよろこびそうやな」とか、
同時に考えるわけです。
糸井
その相手がおもに岩田さんだったわけで。
宮本
そうなんですよ。
だから、ネタを思いついても、
話す相手がいないというか、
代わりがいないので、うん。
糸井
他の人が代われるようなものじゃないものね。
宮本
そう。
これは、ネタを考える意味がなくなったな、
といえるくらいのことで。
糸井
あの、どうしていいかわからないけども、
おもしろいことっていうのを思いついてさ、
宙に浮いたままの状態で、岩田さんに渡すと、
ちゃんと憶えていてくれて、
なにかのタイミングで
「あのときおっしゃってたあれですけどね」って
引っ張り出してくれたりするんだよね。
宮本
そう、そういうこともあります、うん。
糸井
それは、純粋に開発者どうしがする話とは、
ちょっとちがうんですよね。
宮本
ちがうんですよね。
開発のネタではあるんですけども、
それをどういうふうに受け止めてくれるか、
という意味で頼りにできる人は
そんなにたくさんはいないので、
それがねぇ、すごい、さみしい感じがして。
糸井
まぁ、まだ、続きますよね。
宮本
ねぇ。
糸井
続きますよねぇ。
宮本
もちろん、落ち着いてはきてますけどね。
最初の1ヵ月目ぐらいは、
その空洞のような感じがすごかったですよね。
自分の中で。
糸井
そうだと思う。
だって、「俺で、これだから」って思うわけ。
宮本さんはどれほどだろう、って。
宮本
うん。

(つづきます)

2015-12-04-FRI