第4回 ふたりのフェロー。

糸井
ものをつくっていて、壁に当たって、
「なんとかしなきゃいけない」というときに、
手を変え品を変えやっていくと、
自分の力が自分で思ってもいない方向に、
発揮できるじゃないですか。
そこで、なんていうか、やっと、
「はじめてのこと」がはじまるんですよね。
宮本
そう、それがたのしいんですよ。
だいたいわかってることを
「予定どおり収める」ということだけに
苦労してても、つらいだけですからね。
なにがおもしろいのかな、っていうと、
あれこれやっているうちに
新しいことが生まれはじめて、
あ、これをやってるのがおもしろいんや、と。
糸井
わかってること、
できることだけをやってると、
「処理」になっちゃうから。
宮本
やっぱり、処理じゃなくて、
「あれをしよう」「これをやろう」
ということをエネルギーにして、
進んでいくしかないと思うんですよね。
あの、たとえば、ものをつくっていると、
批判されたり、悪く言われたりして、
どうしても落ち込むじゃないですか。
こう、腹にドーンと来るというか。
糸井
はい。
宮本
これは絶対、軽くはできないんですよ。
ダメージそのものをなくすことはできない。
糸井
うん、そうだと思う。
宮本
そういうときに、唯一、自分を軽くできるのは、
なにか「あれをしよう」「これをしよう」
ということを考えはじめることなんです。
そうすると、自分が軽くなる。
だから、けっきょく、
「なにをしよう」ということで
打ち返していくのが
身体には、いちばんいいと思っていて。
糸井
いや、その通りだと思います。
宮本
そうですよね。
で、こういう感覚がね、やっぱり、
40歳ぐらいだと、まだわかりきっていない。
糸井
あと、若いころは、どうしても、
自分ひとりの手柄にしたいんですよね。
俺ひとりでこんないいこと考えた、
っていうのが、いちばん自慢なんですよ。
宮本
うん、うん、うん。
糸井
誰の手伝いもなく、ぼくひとりでやりました、
フリーのコピーライターです、
って言ってると、稼ぎにはなるんですよ。
でも、そんなふうに「できること」だけを
くり返して天才ぶったって、
いつか自分で自分に飽きてくるよ。
それよりは、できないことに巻き込まれて、
登ったことない山に登らされているときに
ついた筋肉のほうが自分を活かしてくれる。
宮本
つぎの新しいことにつながりますよね。
糸井
宮本さんって、じつは、そういうサイクルを
意識的に、そうとうやってきてますよね。
宮本
なんか、振り返ってみると、そうですねぇ。
だから、なんというか、
苦労してないときのほうが心配になる。
糸井
わかる(笑)。
宮本
そうすると、60を過ぎても、
まだまだ苦労するのか、っていうところで、
家族に言わせると「ほどほどにしたら?」
ということになるんですが(笑)。
糸井
(笑)
宮本
でも、そういうことで、
自分というものが維持できているような、
そんな気がするんですよね。
糸井
そうですね。
60を過ぎてそういう面を持ってる人と、
持ってない人に分かれると思うんですが、
やっぱり持ってる人でいたほうが、
たいへんかもしれないけど、たのしい。
宮本
たのしくいたいですよね。
糸井
そういう60歳が会社にいるのは、
絶対、いいことだと思いますよ。
宮本さんは最近新しく「フェロー」っていう
肩書きが役職に加わったけど、
あの「フェロー」っていう言葉はさ、
偉さとか権威じゃなくて、
そういうことを目指してる人を
表す言葉なんじゃないかなと思えたんですよ。
なんか、会長とか相談役とかっていう以上に、
実際のものを動かす人、つくっていく人
なんじゃないかと思って。
宮本
そういう部分はあると思います。
糸井
あと、組織として上手だなあ、と思ったのは、
竹田さんとふたりで違うフェローになったでしょ。
(2015年9月16日付で、
君島達己さんが取締役社長に就任し、
宮本茂さんはクリエイティブフェローに、
竹田玄洋さんが技術フェローに就任した)
宮本
そう、ふたりでっていうのがよかったんですよ。
じつは、この「フェロー」という役職については、
岩田さんとずっと相談してたんですが、
どうも落ち着きが悪いなぁと思ってたんですね。
でも、「相談役」っていうともっといやだし、
「顧問」っていうのも違うなぁ、と。
糸井
ああ、違いますね。
宮本
ところが、竹田さんに
技術面での「フェロー」っていう役割で
立ってもらったおかげで、すごく落ち着いたんです。
右大臣、左大臣ではないけど、
収まりがいいんですよね。
ぼくがひとりで「フェロー」とか言ってるとね、
「なにをいちびって」みたいな感じになるので。
一同
(笑)
糸井
「いちびって」(笑)。
まぁ、たしかに、
ふたりがそうやって並んだほうが、
より、組織としての意思を感じますよね。
宮本
そう、なんか、すごく、説得力が出たんです。
糸井
それはね、会社って、純粋に、
きちんと仕事ができる仕組みをつくりたいのに、
なんか、まわりのみんながそこに同時に
「偉さ」を込めようとするんですよ。
宮本
あーー、はいはいはい。
糸井
まわりも込めようとするし、
人によっては、自分でも込めようとする。
だから、収まりが悪くなって、
対象がひとりだと「いちびってる」みたいになる。
宮本
そう(笑)。
糸井
だから、やっぱり、宮本さんの隣に、
竹田さんが技術の人として
いっしょに並ぶのはいいですね。
宮本
そう。
竹田さんがフェローと名乗ることは
ものすごく大事なことだと思ってます。
糸井
副社長がふたりになるとかじゃなく、
この形になったのはすごくいいと思うなぁ。
宮本
ありがとうございます。
体裁よりは、実際に機能するように、
と思ったので。
糸井
いや、見事だと思います。
たぶん、岩田さんがいても、
こうするんじゃないかなぁ。

(つづきます)

2015-12-09-WED