第8回 2割のほうを目指す。

糸井
任天堂という会社は、
新しいことに取り組むときに、
「会社ごと買ってくる」、
みたいなことをしないですよね。
宮本
そうですね。
基本的には、社内でできるようにする。
糸井
それは、風土だね。
まあ、当然、外のひとたちとも
仕事はするんでしょうけど、
「社内でつくる」が基本。
宮本
社外の方とももちろんやります。
けど、その場合は仕事として
発注するかたちになるので、どうしても
「納品のために」動いてしまいます。
まったくはじめてのことを学ぶとか、
ある種のチャレンジをするとか、
外と組むのはいいこともたくさんあるんですけど。
糸井
外と組んでつくることも、
最終的には、社内の力にしていく
というのが理想なんでしょうね。
会社の経験が深まるというか、
任天堂という体内に経験が蓄積される。
宮本
そうですね。
社内でできるようになると、
つくりながらどっちに行くか様子を見る、
みたいなことができるようになりますから。
逆に、外に仕事として発注するものは、
「こういうものをつくるので」と言って、
チームを組むことになるので、
決まったことを進めることになる。
糸井
最初に描いた設計図に向かうしかない。
宮本
はい。それはそれで向いてる企画があるので、
外に出したほうがうまく進むものもありますし、
責任の意識が仕上げることにおかれる。
糸井
一方、じぶんたちでつくってると、
思ったように進んでいないときに、
どこを直したらいいかとか、すぐわかりますよね。
宮本
そうですね。
もう、おおもとからつくってるので、
「どこでまちがったか」みたいなことも含めて、
いじれるので大胆に進められます。
糸井
なんかすごい、手づくりな会社だね、任天堂って。
宮本
もともと、そういうものですからね、
ゲームをつくることって。
ハリウッド映画をつくるような
システムに乗せてつくるというより、
いじりながら整えていく。
糸井
ああ、まったくそうだ。
宮本
まあ、規模は昔よりも大きくなってますけど、
基本的には、昔もいまも、
手づくりでおもしろい構造をつくって、
それをインタラクティブな製品に仕上げる、
ということをやっているわけで。
糸井
うん、うん。
だから、ひとりやめたらそのぶん、
できあがる仕事に影響しますよね。
宮本
影響しますね。
誰かがいなくなったことをカバーしようとして、
結果的によくなることもありますけど、
まあ、誰かが抜けると、変わりますね。
糸井
職人さんの仕事みたいですね。
だから、関わる人の腕前とか
クセみたいなものって、
商品に直接跳ね返っていく。
宮本
むしろ、それが跳ね返らないとダメでしょうね。
設計図を機械的に組み立てるようになると、
つくる人の個性が、だんだん、
商品に跳ね返らなくなるので。
糸井
いまどき、そんなこと言ってる会社って‥‥。
宮本
ないですかね(笑)。
でも、うちがやってることって、
だいたい、そういう感じだと思います。
糸井
いや、うれしいです、いま聞いてて。
経営コンサルタントみたいな人が聞いたら
頭を抱えるかもしれないけど(笑)。
宮本
経営術を教えるような人からしたら
いちばん困る会社ですよね。
組織をいかに効率よく動かすか、
ということとは、たぶん、逆のことなので。
糸井
非効率だものね。
宮本
だから、「非効率」なものを、
どうやって「効率よく売るか」、
っていう話なんですよね。
糸井
あーー、そうですね。
そして、その両方を深いところでわかって、
バランスを取ってたのが、
前社長だった、という。
宮本
そうですね。そういう組織ですから。
だから、これまでも、これからも、
そこは、続けていかないとダメでしょうね。
糸井
組織としての肉体性を維持する、というか。
それは、すごく意識してそうしているのか、
あるいは、社風のようなもので、
自然なことなのか。
宮本
まあ、社風というか、受け継がれているというか。
あの、たとえば、いまのゲームって、
長い時間かけて1本つくって出しても、
1週間で売れる期間が終わってしまって、
そこでもうぜんぶの売上が決まってしまう、
みたいなものが多いでしょ。
そのなかで、任天堂のゲームというのは、
比較的、長く売れるものが多い。
いま『Splatoon(スプラトゥーン)』とか
いい感じでヒットが続いてますけど、
半年くらい経っても多くの方に
楽しんでいただいているとか、
5年後にまた売れはじめたとか、
そういうものがありますよね。
だから、極端にいうと、数万本で終わるソフトと、
長く売れて500万本くらいまで伸びるソフトがある。
で、「500万本売れたほう」の経験をした人が、
いま、社内にたくさんいるんです。
これは、けっこう大きくて、
そういう人たちがいろんな場面で
組織を支えてくれるんです。
糸井
なるほど、なるほど。
宮本
500万本になるためなら、
いま、とことんまでやるとか、
多少はがまんするとか、
そういうことがわかる人が会社にいるって、
大きいことだと思うんですよ。
糸井
すごいことだよね。
いってみれば、ミリオンヒットを
経験した人だらけだものね。
宮本
そうなんですよ。
身をもって体験していると、
考え方が変わってくるんですね。
たとえば、ぼくの経験でいうと、
20年ぐらい前、工場の納期に間に合わないときに、
工場の偉い人から
「倍売ってくれるんなら、
もうちょっと待ってもいいよ」

みたいなことを言われてましたから。
そういう経験ってすごく大事で、
社内からまったくなくなってしまったら
ちょっと困るんですね。
糸井
そういう融通を利かせるためにも
いろんなことを社内でやってるわけだから。
宮本
もちろん、ぜんぶのプロジェクトが
納期より品質を優先させたら成り立たないし、
ぼくも言わないといけない立場でもあるんですけど、
全員がもっともらしいことを
言い出すのも困るんですよね。
糸井
だから、オリンピックで勝とうよっていうときに、
「メダルじゃないですよ」という心はわかる。
でも、メダルを実際に一回獲ってみないと、
なにもはじまらない、というような。
宮本
そうそう(笑)。
糸井
そこだよね。
それがあるかないかは、大きい。
宮本
「パレートの法則」でしたっけ。
全体の2割のものが残りの8割を支えている、
ということが、いわれますよね。
たしかに、商品別に売上を見ても、
2割の商品の利益が
全体の利益の8割を占めていることはよくあって、
逆にいうと、2割の商品がちゃんとがんばれば、
残りの8割が多少失敗しても大丈夫なんですね。
糸井
それは、
「俺は8割だから失敗してもいいや」
っていうことじゃなくて。
宮本
そうじゃなくて(笑)。
要は、全員が真剣に2割のほうを目指すから、
結果的に2割の人がうまくいって、
のこりの8割を支えてくれるわけで。
参加者全員がメダルを獲ろうと思っているから、
何人かが獲れるんですよね。
全員が「参加することに意義があるんです」
って言ってたら困ってしまう。
糸井
「8割を目指す人ってすてきだなぁ」って
こころから思うなら、それでもいいけどね。
でも、それは、なんだろう、
理想がつかみづらいんじゃないかなぁ。
宮本
ええ。基本的には、みんな、
世の中の人たちを、あっと言わせたくて
会社に入ってきたと思うので。
糸井
そうだね。
宮本
だから、「売れるものをつくる」というより、
みんながじぶんの理想として
2割のほうになることを目指す。
それはもう、思い切ってやったらいい、って、
開発の人たち全員に言ってるんです。
最終的に2割になった人が助けてくれるから、
8割になることはまったく心配しないで、
もう2割になることだけ考えたらいい、って。
勇気を持ってやろう、と。
糸井
客観的にどうあるべきかじゃなくて、
「こうありたい」という
じぶんの気持ちが大切なんですよね。
それは岩田さんとも、何度もしゃべった。
宮本
ああ、そうですね。

(つづきます)

2015-12-15-TUE