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オトナも遊べるゲームボーイ。

 


その日、ほぼ日は「なんの取材か」を知らされないまま
京都の任天堂本社を訪れました。
「ビッグニュースなんですが、当日まで、
 どこの誰にも、秘密なんです」
とだけ聞かされて乗った新幹線。
いったいどんなニュースが発表されるんだろう?
と思っていた僕ら取材班の前に、
3台の小さなマシンが、置かれました。

一見、シンプルでセンスのいいデザインの、
MDプレーヤーに見える、二つ折りの機械。
それが、ゲームボーイアドバンスSPでした。

ゲームボーイアドバンスが発売されて約2年、
その高級モデルとして、2003年2月14日に
発売される任天堂の新ハードウエアです。

デザインは、杉野憲一さんをチーフにした
デザインチームが手がけました。
杉野さんは、もちろん、
ゲームボーイポケットやゲームボーイカラー、
ゲームボーイアドバンス等のデザインに携わった一人。

今回の「秘密基地」は、その杉野さんと、
同じチームの伊吹真人さんのお二人に、
どこよりも詳しく、
ゲームボーイアドバンスSPが完成した経緯を
取材してきました。
全3回、お届けします。


開発スタートは、
GBA発売後わずか3ヶ月。
この商品が市場に出る意味は何なのか、
というところから、考え始めた。

ほぼ日 完成、おめでとうございます。
杉野さんたちがこれをつくってらしたこと、
もうぜんぜん知らなかったです。
ひっじょーに驚いています。
杉野 社外秘でしたから。
社外秘っていうか、部外秘でした。
任天堂の中でも知ってる人間は、
最近まで、ごくごく限られてました。
ほぼ日 誰が言いだしたんですか?
これを作りたいって。
当然、現行機に対する要望や意見も
あったわけですよね。
開発が始まったのは‥‥
杉野 2001年の6月だったんですよ。
ほぼ日 えーっ!
ゲームボーイアドバンスの発売は
2001年の3月ですよ!?
杉野 3ヶ月後ですね。
なぜ始めたかというよりも、
最初は「こういう商品が
世の中に出ていくことの
意味はあるだろうか?」という、
ひとつのアイデアにすぎなかったんです。
ほぼ日 ゲームボーイアドバンスSPには
「大人っぽい」という印象を持ったんですが、
現行機にくらべて
大人向けっていうような意味ですか?
杉野 いろんな意味を含めてです。
たとえば今回、大きいところで、
フロントライトを使いました。
それと、乾電池からリチウムイオンの
充電池を使っています。
そうすることによって薄く小さくなりますが、
ただし、値段はどうしても高くなります。
つまり値段の高い商品であるということが一つ。
もうひとつ、今までの任天堂の
携帯型ゲーム機の流れを思い出していただくと
わかると思うのですけれど‥‥
 
ほぼ日 ゲームボーイ、ゲームボーイカラー、
ゲームボーイアドバンス‥‥?
杉野 これまでは従来の機種と
完全互換ではあるけれど
まったく別の商品ですよね。
ほぼ日 そうですね。
スペックの違うマシンが出て、
いままでのものとは別のソフトを
遊ぶための新しい機械、
という位置づけですね。
杉野 ゲームボーイ・ポケットは特異な
例ですけども。あれは従来のやつを
小型化したらどうですか?
っていう提案でしたので。
今回のSPはこれに近いかもしれません。
基本的機能はアドバンスとまったく
同じだけど、付加価値のついた
「高級モデル」といった位置づけです。
そういった商品が成り立つかどうか?
ということを、考え始めたのが‥‥
ほぼ日 ゲームボーイアドバンス
発売後3ヶ月の時期だった。
伊吹 こんな感じのものって、
作ってみたらどうかな?
っていうところから始まりましたよね。


「ゲームボーイ」の楽しさを
知っているみんなに戻ってきてほしい。
その場所を、つくりたかった。


ほぼ日 今回、価格が、12,500円ですよね。
そういう意味でも、
現行機の8,800円とくらべ
「高級」と言えますね。
杉野 ゲームボーイとしては高いですよね。
それでも商品の需要はあるのか?
そういうところの挑戦ですよね。
そしてもうひとつ、
挑戦したいことがありました。それが、
「かつてのゲームボーイユーザーに
 戻ってきて欲しい」という思いなんです。
ほぼ日 なるほど。
杉野 ゲームボーイのユーザ層は、結果として
小学生から中学生くらいが大半です。
ゲームボーイを発売して
この4月で丸14年になりますけど、
今の大学生ぐらいとか、
20歳ぐらいの人たちって、
子供の頃にゲームボーイで
遊んだ人が多いんです。
でも不思議と、彼ら、
卒業していくんですよね。
伊吹 街中でアンケートを
とったことがありましたね。
市場調査をしたことがあるんですけど、
「なぜやめたの?」と訊くと、
「何となく」っていう意見なんですよ。
「何となく、やめました」って。
 
ほぼ日 大人になると手放すもの、と
とらえられていたんですね。
でも「何となく」には、ほんとうは
もっと明確な答えがあると
杉野さんたちは思った?
杉野 ええ。彼らをもう1回引き戻したいと。
そのためには
「大人が持てるようなデザイン」が
大切な要素のひとつになるんじゃないか、
と思ったんです。
ゲームボーイアドバンスとは違う
デザインコンセプトで、
高級モデルをつくってみようと。
そして、それにあたっては、
ゲームボーイアドバンスでつちかった
「遊び方」が、ユーザーと共有できているから、
思い切った変革も可能だと思ったんです。
伊吹 たとえばLRボタンですよね。
杉野さん、アドバンスのときは
LRを強調したかったんですよね。
杉野 そう、LRっていうのを見せたかった。
でも今は、アドバンスがこれだけ
普及した後なわけです。
LRっていうのは、あって当然。
だから、強調して見せなくても大丈夫、
という決断ができるわけです。
ほぼ日 うん、見た目にはほとんどわからない。
けれど、持てばすぐわかりますよね。
指に触れる感触で。
折りたたみになったので、
収まりもいいですね。
折りたたみにすることは
最初から考えていたんですか?
杉野 そうです、最初から考えてました。
これは、現行機の開発のときにも
アイデアとしては、あったことなんですが。
どうしてもコストがかかるのでやめていました。
 
ほぼ日 それも、大人が見て、
いいなと思う要因だと思いますよ。
ライトがついて、折りたたみで、充電式。
あの、しろうとの質問かもしれませんが
このデザインが、段階的にどういうふうに
進められていったのかを
教えていただけますか?
杉野 まず実際の商品を作る前に
プロトタイプっていうのを作ったんですよ。
まず1台だけ。
ほぼ日 1台だけ、もう遊べる状態で作るんですか?
杉野 遊べる状態で作りました。
で、それはね、量産性とか、
コストとかをぜんぶ無視して、
こんな商品ってどうですか?
っていうのを経営陣に、
プレゼンテーションするための
モデルなんですよ。
構造とか強度とかコストを検討せずに。
ほぼ日 それがプロトタイプ。
杉野 そうです。そのプロトタイプをまず
開発部内で見せ、経営のほうに見せました。
それから一般の人に対しての調査をしたんですが
みんな感触が良かったんですね。
そのあたりで、僕らも、
この商品が、世の中に出ていってもいいんだ、
商品として成り立つんじゃないか、
っていう可能性の高さを認識するわけです。
「こういう商品って、作れるよね」と。
ほぼ日 それで本格的にスタートしたんですね。
でも、ゲームボーイカラーが
ゲームボーイアドバンスになったような
革命的な進化ではない。
だから「高級機」という位置づけになったと
いうことですよね。
杉野 それに「大人」というキーワードが
出てくるわけです。
値段が高いので買えるのは、
大人の方が多くなるでしょうし、
子供のころにゲームボーイで遊んだ人たちが
抵抗なく帰ってきてもらえる場所を
つくりたかったんです。
もう二十歳過ぎたけど、
これだったらもう1回やりたいな、
と思ってもらうようなものを。
(つづきます。次回の更新は1/21(火曜日)の予定ですよ!)
2003-01-17-FRI