COLUMN

バスルームのごちゃごちゃ

清水ミチコ

お風呂について書いていただく1週間、
きょうは清水ミチコさんの登場です。
「ほぼ日」に寄稿いただくのは、とっても久しぶり!
大人になってふりかえる、
家の風呂にたいする、複雑な思い‥‥。
のんびり湯船につかる気分で、お読みください。

しみず・みちこ

岐阜県出身。1987年のデビュー以降、
独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、
テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、
幅広い分野で活躍中。毎年の日本武道館単独公演も
恒例となっている。近著に『顔マネ辞典』(宝島社)、
CDに『趣味の演芸』、DVDに『私という他人』
(ともにソニーミュージック)などがある。
4月よりWOWOWのトークバラエティ
「おしゃべりアラモード~森山良子と
清水ミチコとプラスワン~」新シーズン放送中。

私たちの世代は、
お風呂がついてる部屋に住める学生は、
ものすごい勝ち組でした。
今では考えられないかもしれませんが、
「学生一人暮らし」というものは当然のように、
週に数回、銭湯に通うという生活が当たり前だったのです。

そのせいか、お風呂つきの部屋に引っ越せたときは、
かなり嬉しいものでした。
私の優雅な時間。
午前中も入れるんだ。
夜中だっていいんだもんね~。
あ、そうだ、雑誌とか持ち込んじゃわない?
今日からはお菓子だっていいんだよ。
湯舟に浸かりながら、
ああこれがお風呂だ! バスタイムだ!
と思えたものです。

もちろん住んでた実家には、
タイルのお風呂がありましたよ。
でも、こっちはちっとも自分の好みの空間ではなかった。
いつお風呂を沸かすのかは大人が決めるもんだったし、
子供はそのタイミングに従うものであり、
暗黙の了解でなんとなく入る順番もあるし、
今思えば身体を洗浄する、という目的のためだけの存在。
ちなみに大人たちのシャンプー類は、
いったいなんでこんなに片隅に何本も溜まるんだ?
というのも不思議でした。

しかし、
(あんなのお風呂じゃなかった!)と思ってたのは、
実は私だけではなかったようで、
実家を建て替えた時、父が
「24時間入れるという最新のお風呂にした!」
と幸せそうに言ってたのを思い出します。
循環させ、ろ過・殺菌したお湯が湯舟にある状態なので、
衛生的に問題なく、いつでもお風呂に入れる。
でも父がお客さんがやってくると
「よかったら入りませんか、ウチのお風呂に。」
とすすめるのを、母親がものすごくイヤがっていました。

ところで、かれこれ15年ほど前、
いまの私の自宅を設計してもらった時に
「奥さん、お風呂のテレビは、作りつけにしますか?」
と、当然のように聞かれました。
パンフレットを見ると、
湯舟に入れば目の前に
テレビがガラス張りで設置してあるデザインの壁が。
いかにもゴージャス。
でも設計師さんはこう漏らしました。
「ただネ~、正直お風呂のテレビって、
どんどん新しいのが出るもんで、
作りつけだと、買い替えにいちいち工事が入るのを
面倒がられるんすがね~」。
私は(なるほど)と納得し、あっさりやめましたが、
すでにお風呂業界も当然のごとく
「洗浄よりもリラックス空間」を
優先的に考えてくれてたんでした。

しかしです。
私のコドモ世代になると、
ちょっとまた変わってくる。
いわゆる朝シャン世代。
お風呂にテレビや雑誌なんてぜんぜんいらない感じで、
ゆったり・のんびりしたりしてません。
「あんた今日も湯舟に浸かってないの?」です。
温泉に行くと3回は入るクセに、いつもシャワー。
私にはコドモの気持ちがぜんぜんわかりません。
ただ、いつかコドモから
「いったいなんでシャンプー類がこんなに何本もあるの?」
と聞かれたことがあり、その時だけは
(あの当時の自分と同じだ)と、
気持ちがよくわかりました。
いろいろ決まらないの。大人になると。

2019-04-16-TUE