COLUMN

インドと風呂

U-zhaan

いろんなかたに「おふろ」について書いていただく1週間。
きょうは、タブラ奏者のユザーンさんです。
修業をしていたインドのお風呂体験。
いったい、どんなバスタイムなんでしょう?

U-zhaan(ユザーン)

北インドの打楽器「タブラ」の奏者。
2014年に坂本龍一、Cornelius、ハナレグミ等を
ゲストに迎えたソロ名義のアルバム
『Tabla Rock Mountain』をリリースした。
2017年に蓮沼執太との共作アルバム
『2 Tone』を発表、
2018年にはフルカワミキ÷ユザーンとして
『KOUTA LP』をリリース。

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先日、久しぶりに風呂に入った。

この一文だけだとやたらに不潔な人なのだと思われそうだが、そういうわけではない。シャワーは浴びていた。1ヶ月半ほどインドへ行っていたので、浴槽がなかったのだ。

ちょっと熱めに調節した湯にゆっくり体を沈めると、言葉にならない呻き声のようなものが思わず出てしまう。身体の汚れと一緒に、インド生活で溜まった疲れも湯の中に溶け出していくような気分になる。日本に帰ってきたことを一番実感できる瞬間かもしれない。

毎年のようにインドを訪れるようになって23年が経つが、インドで浴槽に入るチャンスは今までに3回しかなかった。

1度目は、はじめて1年間の長期滞在をした20歳のときのことである。カルカッタの日本総領事館で副領事をしていた人の家へ遊びに行った際、白くて大きなバスタブを見かけたのだ。思わず「いいですねー。僕なんてもう半年ぐらい風呂に浸かってないですよ」と口にしてしまった。副領事は「入っていけばいいじゃん。タオル出すよ」と勧めてくれたのだが、「そうですか。それじゃあぜひ」とおもむろに服を脱ぎ始めるのも少し厚かましいような気がして辞退した。

再びチャンスが来たのは、それから4年後になる。シタール奏者の友人から、ムンバイにある高級ホテルの宿泊券をプレゼントされたので泊まりに行ってみたのだが、その部屋にバスタブがあった。

ただ、僕は宿泊前日にムンバイの路上で飲んだストロベリー・ミルク・シェイクによる盛大な食中毒の真っ最中で、風呂に浸かるどころではなかった。トイレから立ち上がるとき、手すり代わりにバスタブの縁を掴むのが精一杯だった。

更にその2年後、3度目のチャンスは自分で作った。ブッダガヤーという、ブッダが悟りを開いたとされる地への正月旅行を計画したのだが、その際にちょっと奮発して街で一番の高級ホテルを予約したのだ。バスタブがあることも確認済みだったので、今度こそ長年の夢が実現できるぞ、と楽しみにしていた。

お湯が出なかった。いや、正確に言うと湯温が上がらなかった。どんなに頑張っても(頑張りようもないのだが)30度そこそこにしかならず、真冬にそんな日向水みたいなのに浸かったら確実に風邪を引くだろうなと思って諦めた。

そんなわけで僕は、いまだにインドで風呂に入ったことがない。バケツに湯を溜め、小さな手桶でそれをパシャパシャと体にかける。それがインドにおける僕の入浴スタイルだ。毎日のように湯をたっぷりと張って浸かる習慣のある国に生まれ育ったのは、なかなか幸運なことだなと思う。

2019-04-14-SUN