COLUMN

バスに乗って。

越智康貴

春めいた季節、まだまだ寒い日があったり、
と思ったら急にポカポカ陽気になったり。
そんな「端境期(はざかいき)」、
みんな、どうしているんだろう?
そんなテーマで、エッセイを書いていただきました。
きょうは、フローリストの越智康貴さん!

おち・やすたか

1989年生まれ。フローリスト。
2011年に武内昭とフラワーショップ、
ディリジェンスパーラーをスタート。
小売と並行して、イベントやパーティの装花、
広告でのスタイリング、植栽の製作などを行う。
2016年に表参道ヒルズにショップをオープン。

DILIGENCE PARLOUR
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ウールのコートを着ていたら
背中が少し汗ばんできたので、
バスの座席で体をひねりながら脱ぎました。
2月の終わり頃、特別に暖かい日のことです。
この日は、移動するたびに上着を脱いだり着たりと
忙しくしていました。
「暑いのに暖房が強いなぁ」
文句のような小さな独り言。

窓からも強い陽射しが入ってきて、
額にはジワりと汗が浮かんできます。
コートを脱いでも、下に着ているハイネックセーターの
襟元がむしむしとしてきて、居心地が悪くなります。
ニットをつまむ手は乾燥していて、
白んで皮膚が逆立っているような感じがあり、
ささくれが引っかかる。冬の嫌いなところです。

陽射しを受けた膝の上のコートから、
獣の香りがしてきます。
羊の毛でできているんだもんなぁ、と、
いちいち考えないような当たり前のことを
思い浮かべました。
そして、毛を刈るところ、糸にして織り上げて、
生地になってから服になるところまでを想像すると、
とってもおかしい気持ちになりました。
毛を刈られている時も、メェ、と鳴くのかなぁ。
なんて、何を考えているのだろう。

寒い日が続いていたのに、
突然に春のような陽気に晒されると、
戸惑う反面、期待が高まります。
あと半月も経てば、
ウールに変わってコットンが主役の季節になる。
太陽を浴びた乾きたてのTシャツに、
顔をうずめたりしたい。
なにより、肌触りが嫌いな防寒用の肌着を着なくていい
開放感を求めています。

そんな風に格好の後悔と春の喜びを考えていたら、
降車するバス停に近づいたので、ブザーを鳴らしました。
文字の書かれたランプが濃いピンク色に光ります。
ブザーの濁った高音が、なんだか間抜けで、
こことは違うところから鳴っているみたいです。
コートを手に座席を降り、またふと自分の格好を振り返る。

ひとくちに季節を春夏秋冬と四等分にするのは難しいです。
季節は行ったり来たりしながら移ろいでいきます。
春のような冬の日もあれば、秋のような夏の日もあります。
クローゼットの中身を、
気候に合わせて自分なりに工夫するけれど、
春の風にくすぐられるからと
3月の初めにハーフパンツを履いていたら、
まだ早いんじゃないの? と声をかけられました。
そんな風に、なんだか上手くいかない日も少なくはない。
もういいかな、とニットを奥の方にしまったら、
また寒い日がやってきたりと、小さな引越しの連続です。

一年の中で何度も訪れるファッションの端境期。
それが顕著な日には、
ニットの首を引っ張って肌に空気を通している、
バスに乗った自分を思い出します。
素敵な服を着るために、
素敵な人になれたらいいのにと思いながら、
そして、素敵な人になるために、
素敵な服を着られたらいいのにと思いながら、
どうしてか服装も自分自身も
トンチンカンでいてしまいます。

身の回りを整理して、ワードローブも整えて、
自然と、自分と、景色とが寄り添っていると
気持ちがいいことはわかっているのですが、
天気予報と自分の勘を頼りにしても、
なかなか上手くはいかないのです。
忙しく日々を過ごしていても、
些細なことに自然と気づけるようにしながら、
心地よくいられたら良いなと思います。
気づくということが、難しいんだけれど。
それに、ストレスを感じることもあるけれど、
装うことはたのしい、という気持ちを
忘れずにいられたら良いなと思います。
装いの違和感から所在無さげにならずに、
毎日を居心地良く過ごしていたいものです。

2019-03-13-WED