ベーシックだけど、ほかとはちょっと違う。
そんな服を作っているのが、東京・表参道にある
アパレルブランド、Le pivot (ル・ピボット)。
作り手は、「weeksdays」に登場いただくのが
2度目になる、小林一美さんと金井美幸さんです。
今回はノースリーブロングシャツについて、
生まれるまでのいきさつをうかがいました。
「流行は気にしていない」という小林さんが、
この服づくりにあたって考え抜いたこととは?
この絶妙な丈には、
ちょっとおどろくようなエピソードもあるんです。

小林一美さんのプロフィール

小林一美 こばやし・かずみ

Le pivot デザイナー。
企画・物作りに関することすべて、
発信することやイメージに関連することを担当。
バイヤー経験後、アパレル会社で企画・生産・
プロジェクトの立上げなどを手がけ、
20年勤務した後に独立、金井さんとともに
Le pivotを立ち上げ、現在に至る。
好きなものは美味しいもの、花、映画、
ミュージカル、時代小説、そして万年筆。

●Le pivot website
●Le pivot Instagram
●小林さんのInstagram

金井美幸さんのプロフィール

金井美幸 かない・みゆき

Le pivot 営業・プレス・店頭販売担当。
服飾学校卒業後、アパレル勤務、
小林さんと同時期に独立し、
Le pivotの立ち上げに参加、現在に至る。
好きなことは食べること、
ミュージカル、バレエなどの観劇。

全1回
原型は、大きなメンズのシャツでした

伊藤
小林さん、金井さん、
前回につづき、今回もよろしくお願いいたします。
小林・金井
こちらこそ、よろしくお願いします。
伊藤
さっそくですが──、
「ベーシックを追求したい」と考える
Le pivotのなかで、
今回のノースリーブロングシャツが
どんなふうに生まれたのか、とても興味があって。
小林
わたし、いつもものづくりをするときは
生地を中心に考えることが多いんです。
たとえば、ブロード(シャツやブラウスによく使われる
密度が高くやわらかい生地)のような平織りの場合は、
「この生地でこんな形のものを作りたいな」
というところから、もういちど生地に立ち返って、
生地の厚みや番手(糸の太さ)を探っていきます。
この、ノースリーブロングシャツの形を思い立ったのは、
去年の夏、私が大きなメンズシャツの袖を
切って着ていたところなんですよ。
伊藤
えっ? メンズの大きなシャツの袖を切って? 
それがイメージのもとだったんですか。
びっくり‥‥。
小林
わたし、背が低いので、
大きめのメンズシャツなら、
ワンピースっぽく着られるんです。
丈がちょうどよくて。
透けが目だたないように、
下に黒いペチコートを重ねて。
伊藤
なるほど、ボトムにはペチコート。
小林
そのバランスが気に入っていたので、
そのイメージで女性の服をつくったら? 
というのがきっかけでした。
そうして考えたのは、
夏は汗をかくから、
襟回りは首にべたっとつかないように、
少し浮かせたいなということ。
でも、芯地(形状を保つために生地の中に挟む厚い生地)を使って厚みを出すのは、あまり好きではなくて。
生地自体の厚みで形成したいと思ったので、
100双の生地を使うことにしたんです。
伊藤
ひゃくそう、というのは。
小林
100番手という種類の、
双糸(2本を撚って1本にした糸)を使った
ブロード(目の詰まった平織)生地なんです。
たとえば今わたしが着ているのは、
100番手より太い80番手の単糸(1本の糸)で
織った生地なのですが、
双糸は細い糸でも厚みが出せるんです。
それで襟を立たせるように作っています。
けれども、糸自体が細いことで、
着たときにがさつな感じにはならない。
ウエストや腰骨から下のラインも、
きれいに流れてくれるんです。
伊藤
暑がりのわたしは、
夏は襟回りが開いてない服を選ばないんですが、
これなら着られると思います。
袖口からも、スッと風が入るし。
小林
そうなんです。
風通しが良いから、ボタンを全部とめても大丈夫。
ラフパンツなんかとあわせると素敵ですよ。
伊藤
ワンピースの上にも重ねられますよね。
小林
そう、ボタンを外して、
羽織みたいにも着るのもいいんですよ。
丈は、168センチの金井にも
フィッティングしてもらって、
背が高い人でも大丈夫、という長さにしました。
わたしは148センチなので、
私たち2人とも着られれば、
だいたいの方に着ていただけるので。
金井
なかなかないと思うんですよね、この丈。
伊藤
たしかにないですね。
小林
中途半端とも言える丈ではあるんですけど、
わたしの中では「これがいい」って。
伊藤
そういう「今、これが着たい」みたいなことって、
どうやって感じ取ってらっしゃるんですか?
小林
長くものづくりをしているので、
自然と気になるものが出てくるんです。
まずはそれを作ってみて、
次の年に定番になるようなものを、と考えます。
伊藤
なるほど。
小林
それから色。
糸に触れていると
「この糸には絶対この色が合うな」
と感じることがあるんです。
同じ色でも、彩度に幅がありますから、
春の服には蛍光よりの彩度の糸を使ったり。
着る人が新鮮にうつるものを、と考えながら
ものづくりをしています。
流行っている色かどうかは、あまり考えていません。
伊藤
流行っていても、自分には似合わない色って
ありますもんね。
お店で「人気がありますよ」ってすすめられても、
“気分”じゃないというか‥‥。
金井
人気だからといって、買えないですよね(笑)。
小林
ふふふ。
今回のノースリーブロングシャツは、
この形に、白と黒という色が
すごく合っていると思います。
伊藤
両方欲しいという方も
いらっしゃるでしょうね。
小林
色違いで買われる方、とっても多いです。
薄い色を買ったけど、着る機会が多いから
濃い色も欲しい、と。
伊藤
実際に着てみると、また、よさがわかるんですよね。
ほんとうに「うわぁ」って思える。すごいと思います。
小林
作っているものがベーシックな服だから、
素通りされやすいブランドなんです。
でも、身体を入れるとわかっていただけるみたいで、
みなさん試着室から出て来られたときはうれしそう。
一度着ると、リピートしてくださいます。
伊藤
秋冬版も見てみたいです。
小林さん、金井さん、
今日はどうもありがとうございました。
小林
ありがとうございます。
またぜひいらしてくださいね。
金井
どうもありがとうございました。
(おわります)
2023-07-02-SUN