COLUMN

チャリアンギン、風を探す。

土屋由里

今週の「weeksdays」は、
「Honneteの涼しい服」にあわせて、
京都・北海道・バリ島に暮らす
3人のかたに書いていただいた
「涼しい」をテーマにしたエッセイをお届けします。
きょうは、バリに暮らす土屋由里さんにお願いしました。

つちや・ゆり

インドネシア・バリ島在住。
2000年より、モロッコ在住の石田雅美さんと
雑貨店「warang wayan」をはじめる。
それぞれの国の質のいい手仕事による、
それぞれの国らしい、オリジナルの雑貨を作っている。
「ほぼ日」では「生活のたのしみ展」などでおなじみ。

●warang wayan indonesia
[WEBSITE]
https://warangwayanindonesia.stores.jp/
[FACEBOOK]
https://www.facebook.com/warangwayan.indonesia/
[Instagram]
https://www.instagram.com/wwbali/

●warang wayan morocco
[Instagram]
https://www.instagram.com/wwmorocco/

私はインドネシア・バリ島に暮らしています。
赤道直下のバリ島は、一年中夏で
季節は雨季と乾季の二つだけ。
四季のある日本も勿論好きですが、
布団から出るのに勇気がいる寒い冬の朝もなく、
一年中軽装でスルリと起きられる、
こちらの気候もとても気に入っています。

私の住むウブドは、椰子の木やバナナの木が繁り、
田圃に囲まれた緑豊かな村です。
鳥の声が聞こえ、どこからともなく心地よい風が吹き、
サワサワと葉を揺らします。
朝は賑やかすぎる鶏の声がしますが、
夜は暗闇の中に蛙や虫の声が響き渡り、
ゆったりした時間が流れます。
一年中冷房を使わないでいい暮らしは、
とても贅沢だなぁと思います。

村人の暮らしの中には、
暑さとうまくつき合うヒントが色々あります。

南国のお母さんは朝が早くまだ暗いうちから起き、
涼しいうちに一日のご飯をまとめて作ります。
冷蔵庫がない家が多い中、
腐らないのかと心配になりますが、
唐辛子をはじめ多様なスパイスを使い、
炒めたり揚げたりなど、
素材ごとに工夫した料理法なので問題ありません。
家庭料理は観光客がレストランで食べるよりも数倍辛く、
初めて食べた時は衝撃的な辛さにビックリしました。
そんな私も今ではすっかり慣れて、汗をかきながら食べ、
食後の爽快感を感じるようになりました。

地元の食堂へ行くと、
たとえオレンジジュースを注文しても
冷たいものか常温かと聞かれます。
こちらでは多くの人が常温を好み、
身体に負担をかけない術を自然と身につけています。

ただマンディーと呼ばれる水浴びは
お湯ではなく水を使います。
朝出かける前にさっぱりとし、
外から帰った後は、火照った体を水でさっと流すと、
確かにお湯を使うよりも涼しく感じられます。

その昔私は、こんな暑い国で
長袖ジャケットなんて着る人はいないだろう
と思っていました。
でも、地元の人は長袖を羽織ってバイクに乗ります。
強い日差しから肌を守るためには欠かせない、
この土地ならではの知恵だと知りました。

こちらの夏は、日本の夏とは違い
ジリジリ灼けるような暑さの日でも、
木陰に入れば爽やかな風を感じます。

インドネシア語で「風」は「アンギン」。
私の好きな言葉で
「チャリアンギン=風を探す」という言葉があります。
これは出かけてリフレッシュするとか、
風のある場所でゆったりする、というような意味です。
今でも私は仕事で煮詰まった時、
バイクでふらりと出かけます。
目に映る豊かな緑、
お供えものを運ぶ女性、
地面をカラフルに飾る神様への捧げもの、
だらりとしたバリ犬。
異文化の素朴な日常を目にすると、ハッとする瞬間があり、
いい息抜きになります。
南国で暮らす私が涼しいと感じるアンテナは、
多少暑くても自然のままを楽しみ、
目に見えるもの、肌で感じるもの、
音、匂い、そして味。
すべて五感で感じて
初めて心地よい涼しさに繋がっています。

2021-05-23-SUN