COLUMN

日々は続く。

ワタナベケンイチ

「weeksdays」はじめての「オリジナルのおやつ」の
発売にむけて、3人のかたにエッセイをおねがいしました。
テーマは、「日々の中のほっと一息の時間」。
みなさん、どんなふうに過ごしているんでしょう?

わたなべ・けんいち

1976年2月18日生まれ。イラストレーター。右利き。
96年より立花文穂氏に師事。
99年西瓜糖にて初個展、
2000年HBファイルコンペ藤枝リュウジ大賞受賞、
雑誌、広告、ポスター等のイラストや絵本、書籍、
國分功一郎著『暇と退屈の倫理学』(太田出版)
町田康著『ギケイキ1・2』(河出書房新社)
松浦弥太郎著『まいにちをよくする500の言葉』(PHP研究所)
『ku:nel』『POPEYE』(マガジンハウス)などの
装画、挿画を手掛ける。

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ほっと、と、ぼーっと、は似ている。
間違えやすい。
両方の時もある。
ぼーっとは悪く言われる場合もあるし。

僕はぼーっとは得意。
ほっとは苦手なような気がする。
人によっては逆だったり。
ほっとの長いのがぼーっとなのか? 
わかっているのはほっとは安心することだ。
安心する瞬間ほっとする、
だけど、分かっているからできるとは限らない。
実にできない。自意識過剰かなとも思う。

AM10時30分頃、仕事を試行錯誤しながら、
お昼ご飯はどこの弁当にしようかと想像しはじめる。
今日はタイ料理屋の弁当を食べるぞと強くこころに誓い、
お昼前に家を出る。
しかし、一歩外に出ればこの世の中は魅力と魔力に溢れ、
五感は狂い方向の感覚すらも失ってしまう。
右に曲がればフォーの弁当だし。
あれっ何曜日? 定休日あったっけ? 
もはや曜日すら曖昧だ。
今日は絶対! タイ! 僕は甲州街道を左に曲がった。
自転車のタイヤが道の凹凸を感じ取りサドルを通じて
僕のお尻にツートンドンッツートントン
(今日はタイ料理屋でガパオライスだね)
と話し出した。
よし! 腹は決まった! 
僕は気が変わらないうちにと全力でペダルを漕ぐ。

目的のガパオライスを手に入れて
ようやく家に戻った頃には
時計の針がちょうど12時を指していた。
哲学者のような顔をして
ゆっくりとドアを開け階段を登る。
正直少し足早になってしまう。
そのままテレビの部屋に向かい、
膝丈くらいの折り畳みの机を出してお弁当を広げる。
麦茶は必須。
TVリモコンの赤い電源ボタンを押す。
すぐに4の番号を押す。
『ヒルナンデス』です。
木でできた会津塗の漆のスプーンを持ってくる。
ようやく腰を下ろし、
僕はガパオライスを口の中に放り込んでいく。
喉に詰まる! 麦茶で流す! 
マチャミは一人で旅に出て盛り上げてすごいな! 
今日のガパオめちゃ辛い! この子ジャニーズ? 
喉に詰まる! 麦茶をお代わり! 春日はリモートだね! 
メールの返信やらないとなあ‥‥。
あっという間にガパオもライスも僕の腹におさまった。
いやー満腹満足。

そのままソファーに座り直して、
テレビで旅の行く末を見ている。
あれ! これもしかしてほっとしてるかも。
ほっとする時間かしら。
しかし僕はいつものように大げさに、
いろんな考えが頭の中を駆け巡り
ごちゃごちゃになってしまっている。
結局2、3個の甘い菓子を握って
仕事の部屋に戻る。
で、日々は続く、口は開いている、風が吹いた。

2021-02-03-WED