COLUMN

わたしの心から湯気。

齋藤美和

「weeksdays」はじめての「オリジナルのおやつ」の
発売にむけて、3人のかたにエッセイをおねがいしました。
テーマは、「日々の中のほっと一息の時間」。
みなさん、どんなふうに過ごしているんでしょう?

さいとう・みわ

東京・町田市で「しぜんの国保育園」smallvillageの
園長をつとめる。
書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、
2005年から保育の世界に。
「大人と子どもを文化でつなぐ」ことをテーマに、
夫の齋藤紘良さん(社会福祉法人東香会理事長、音楽家)
とともに、保育園の運営のほか、
レーベル活動(SAITOCNO)、執筆活動を行なっている。
2015年には初の翻訳絵本
『自然のとびら』(アノニマスタジオ)が
第5回「街の本屋さんが選んだ絵本大賞」第2位、
第7回ようちえん絵本大賞を受賞。

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■「しぜんの国」公式ウェブサイト
■SAITOCNO

年末、0歳児から5歳児まで、
みんなでついたお餅を丸くして鏡餅を作った。
今日は、そのお餅を開く日。
そう、鏡開きの日。
こどもたちに「このお餅は
割るんじゃなくて開くんだよ」と伝える。
中に年神様がやどっていて、
刃物を使って切るのではなく、
小槌を使って「開く」のだ。

そう、この中にはみんなの未来が詰まっている。
「みんなでこの未来を開こう」と、
園で一番大きな鏡餅は、
年長児のけやき組さんの数人と開くことにした。
乾燥して硬くなった餅を、順番に木槌で打つ。
最初は3回ずつ。
なかなか開かず、
こどもたちの提案で10回ずつにした。
だんだんとお餅にヒビが入り、開いてくる。
あまりの硬さに思わず
「未来、堅えな」と笑う、はるまくん。
みんなで大笑い。
そのうち「もう手を使った方が早いんじゃない?」
ということになって、
はるまくんとりゅうやくんとたくみくんが
手を使って開くことに。
ウヌヌヌヌと力を入れる3人。
すると鏡餅がバラバラに開いた。
「未来が!! 開いた~!」

私の毎日はこの保育園で暮らす160人近くの子どもたち、
家族、保育者たちとの暮らし、
また家に帰れば夫と息子の3人の暮らしで彩られている。
まさに人と関係性を作り続けるのが日常だ。
人と人の中でのままならない日常を、
どう愛していくかが私の心を照らし動かす。

人や物事に対してマイナスなことが起きた時、
「どうしたらいいのかな」と思えずに、
否定をしてしまったり、むかっと来たりする時がある。
でも、そんな時はおおよそ私の心が、
日のたった鏡餅のように乾燥して堅くなっている時だ。
そう思うと、そんな中でやっぱり大切にしたいのは、
自分をどう温めるか。
実際、人と人の中で生きていく中で生まれる感情は、
人に求めるのではなく、自分がどう思うか、
自分が今どんな状況なのかが大きい。
とはいえ、「全て自分に要因がある」と
ベクトルを向けるほど心が強いわけじゃない‥‥。
だからこそ、できる限り温めてあげたい。
自分を、自分の心を、手と足を。
ほわほわ自分から湯気を出したい。

そんな時には、とにかく温める。
心を蒸し器に入れるのだ。
よもぎ・くこ・どくだみ・クマザサなど
野草が混ざったお茶、
夫作のスパイスカレー、足首を温めるレッグウォーマー、
寝る前に布団に入れる湯たんぽ。
寝る前に読む少女漫画、ジェーン・スーさんのラジオ、
眠る前に思い出す、こどもたちの
「未来が!! 開いた~!」の声。
うんうん、私の、私たちの未来は開いていける。
心を開いて、感性を開いて。
堅い心をゆっくりとしなやかに。
ほらほらちょっとずつ心から湯気が出てきた。
蒸気した心には人が集まる。
悩んだり、戸惑ったり、困ったり、
いつも状況の良い私ではないけれど、
自分の心の温度を感じられるようにしていきたい。
堅くないかな、冷たくないかな、
もしもそんな風に感じたら、たっぷり心を蒸してあげよう。
「心から湯気」。
この冬、私の目標になった。

2021-02-02-TUE