暦の上では季節が変わったはずなのに、
暑さはまだまだ。
衣替えをしたいけれど、
気候だけじゃなく、心もなんとなくついていかない。
ましてや出かけたり、人に会う機会が減った今、
おしゃれのことって、どう考えたらいいんだろう?
そんな話がしたくって、
伊藤さんの尊敬する先輩のひとりである
エディトリアル・デザイナーの
若山嘉代子さんに会いました。
在宅での仕事が増え、会議もオンライン、
仕事の納品もデジタルで‥‥。
そんななかで、若山さんは「季節」のこと、
どうとらえているんでしょう?

若山嘉代子さんのプロフィール

若山嘉代子 わかやま・かよこ

1953年岐阜県生まれ。エディトリアル・デザイナー。
(エディトリアルとは「編集の」という意味。)
1980年に縄田智子さんとともに
デザイン事務所「L’espace(レスパース)」を設立。
料理家の有元葉子さん、
エッセイストの平松洋子さん、
服飾スタイリストの原由美子さん、
料理スタイリスト堀井和子さん、
そして伊藤まさこさんなどの数々の書籍や、
雑誌・CD、紙袋、パッケージなど、
多くの印刷物を手がける。
アパレルブランド「nooy」の若山夏子さんの叔母でもある。

■L’espaceのウェブサイト

その3
TPOのこと。

若山
わたしは、コートが好きなんです。
冬のコートじゃなくて、
どのシーズンでもコートの形の服を着たい。
コートを着ていると安心するみたいなのところもあって。
でも、こう季節感がないと、
今年はどうしたらいいかなっていう感じです。
伊藤
わたしも若山さんも、車移動じゃないですか。
だから、そもそも、あんまり厚着をしないですよね。
若山
そうなんですよね。
それに車だと、短いコートでいいじゃない? とか、
コートいらないじゃない? って言われるけど、
それでもしつこくコートを着ている(笑)。
伊藤
(笑)だって、コート、かわいいですもの。
若山
ほんとは、ジャケットを上手に着られると
いいなといつも思っているんですが、
なかなか上手に決まらない。
あるベテランのスタイリストのかたと
仕事をご一緒することがあるんですが、
仕事の時はやっぱり
ジャケットを着たほうがいいっておっしゃる。
伊藤
へぇ! カッコいいですね。
若山
TPOをきちんとしましょう、って。
わたしは、全然そんなこと考えてなくて、
だから大人の恰好ができないんですね。
でも、その言葉には、
なるほどって思うことが多くて。
「仕事に行く時、ジャケットではなくても、
せめてカーディガンを着なさい」とか‥‥。
着物だとあるじゃないですか、季節感や、
この場にはこういうのがふさわしいというものが。
そういう感覚が、洋服にたいして、
わたしはまったくなかったな、って反省しています。
伊藤
その「カーディガンでも」というのは? 
若山
ジャケットでも、かっちりしたものではなく、
ニットのジャケットであるとか。
カーディガンはメンズのVネックのような形です。
ジャケットがわりになります。
伊藤
なるほど、そういうことですか。
たしかにジャケットって、
たとえば男の人がスーツをビシッと着てるのって、
もうそれだけでカッコいいなと思いますけれど。
若山
そうですよね。
それで昨年買った
白いサマーニットのジャケットを、
今日はまさこさんに久しぶりに会うから
着ようかな、と思ったんだけれど、
「いきなりどうしたの?」
っていう感じになりそうで、やめちゃった。
でもそういうのがラフにきちんと着られたらいいな、
と思っています。
いつもだったら、暑い季節に出かけるときは、
薄手の、相手先でも脱がなくてもいいようなコートを
ジャケット代わりにしているんですけれど。
伊藤
わたしもそういうタイプのものを
何枚か持ってます。便利ですよね。
若山
薄い、ワンピースみたいなものを
コートのように羽織ったり。
そっか、だからその感覚で、
ジャケットを着ればいいのよね。
伊藤
たしかにわたしも、
目上の方にお目にかかるときの服を
持っていない気がします。
ジャケット、いいかも?
若山
でもカチッとしたジャケットは変でしょう? 
百貨店の店員さんが着てらっしゃる黒いジャケット、
ビジネスらしいのは似合わないですよ。
だから、ニットのカーディガンみたいなもので、
襟が付いているタイプがいい。
その上にコートが着られるのがポイントです。
カーディガンはもともと好きで、
たくさん持っているんですけれど、
ニットのジャケットはなかなか見つけにくい。
その下はTシャツでいいんですもの、便利です。
伊藤
TPOでいうと、わたしは、食事に出かけるとき、
ワンピースに着替えたりしますよ。
若山
ワンピース、似合うもの。
伊藤
娘に言わせると、ストンとしたワンピースは、
気になるところを隠すから痩せて見えるって。
お腹いっぱい食べても大丈夫ですし(笑)。
若山
うん。それに、ちゃんとして見える。
伊藤
靴とバッグをちゃんとすればおかしくないですよね。
若山さんは、パールもそうですが、
きちんとしたものとカジュアルなものを
品良く組み合わせていますね。
若山
カジュアルな感じに
パールのイヤリングをしてみようかなと思ったのは、
たまたま、20代の頃に母が買ってくれたのを出して、
つけてみたことがあるんです。
そうしたら、意外にいいかも? って。
同世代の友人にも、とても評判がいいですよ。
伊藤
若山さんは、好きなものってずっと変わらないですか?
若山
うーん、変わらないわけじゃないですね。
たとえば若い頃はハーフコートをよく着ていました。
車だし、楽だし。
でもあるとき、「おばさんっぽい」って思って(笑)。
あとね、夏子(nooyの若山夏子さん。若山さんの姪)に、
けっこうダメ出しをされますよ。
伊藤
どんなことを言われちゃうんですか?
若山
「それ、すごくおばさんっぽいからやめてね」とか。
伊藤
!!! 身内のそういう声って、
すっごく大切ですよね(笑)。
若山
胡春ちゃんも、そうでしょ?
伊藤
はい。歯に衣着せぬ、ですね。
若山
夏子にはよくアドバイスをもらうんです。
スポーツウエアなんて、どんどん新しくなって
もう分からなくなっちゃってるじゃないですか。
これが楽そうとか思って選ぶと、
「あ、それ、全然ダメ!」とか言われて(笑)。
スニーカーですら「ダメ」って言われることも。
伊藤
えー、スニーカーも、ですか?
若山
「これはいいけど、これはダメ」があるのね。
そこの差が、すぐには分からない時と、
「あ、なるほど」って思う時とある。
伊藤
なるほどっていう時は、
例えばどういう?
若山
伊藤さん、わたしが大きい靴を履いている
イメージがあるとおっしゃたでしょう?
伊藤
うんうん。しっかりした靴を履かれている。
ヒールの靴というより‥‥。
若山
ちょっと男の人っぽい、マニッシュなちゃんとした靴。
それは夏子のアドバイスなんです。
わたしは大きい靴のほうが似合う、
バランスがいいって。
履いているうちに納得して、
どんどん大きい靴になったんです。
ま、言うこと聞かないこともありますけど(笑)。
伊藤
スポーツウエアとおっしゃったのは‥‥。
若山
夏子が行ってるジムを紹介してもらって、
通っていたんです。
でも「適当なものを着ていくな」というので、
コーディネートしてもらって。
スポーツウエアはむつかしいです。
(つづきます)
2020-09-15-TUE