伊藤まさこさんと「ほぼ日」がつくる
あたらしいネットのお店「weeksdays」。
2年ほど前から計画をスタートしたこのプロジェクトが、
ようやくこの7月にオープンのはこびとなりました。
週に何日も(ときには平日毎日!)「ほぼ日」に詰めて、
計画をすすめてきた伊藤さん。
開店の日が決まってすぐに
伊藤さんは糸井の部屋をたずね、
「糸井さん、ここまで、できました」と報告。
そのときの2時間ほどのおしゃべりを、まとめました。
伊藤さんがどんな気持ちで
このプロジェクトをはじめたのか、
「weeksdays」のバックグラウンドが
なんとなくわかっていただける対談です。

その4
決断の速さと責任の重さ。

糸井
ところで、まさこさんは仕事が速いでしょ?
伊藤
はい。みんなに速いって言われます。
「やさしいタオル」は、
1日に100カットくらい撮る、
餅つきみたいな撮影なんですよ、
ハイッ、ハイッみたいな。
糸井
「完成形にいかなくてもいい」
っていう判断がないと、
その速さにはならないですよね。
伊藤
だって、タオルを使うカットに、
「完成形」って、いらないですよね?

「やさしいタオル」2016夏のコレクション。

糸井
そのとおりだ!
もう横尾忠則さんですよ、それ。
いちばん感動するのはそこだよ、やっぱり。
伊藤
えっ、そうなんですか?
糸井
「これが正しいっていう答えにたどり着くまでに、
ぼくはいっぱい考えた」
って人がいたとしたら、
「え、それで何だったんですか?」
ってなるよね。
伊藤
「じゃあ、あなたの答えは見つかったんですか?」
って。
糸井
答えなんて、ないんですよ、そんなの。
「生きること自体がそうなのだから、
全部プロセスだと思えばいいんだ」
っていうのを、横尾さんが言う。
自分のことを言い訳するために
どんどん考えていったんだと思うよ。
みんな、自分の考えって、
言い訳だから、おおもとは。
伊藤
そうですねえ。
糸井
その横尾さんに、ぼくは感心して、
自分もそうなのにそうじゃないフリをしてたりとか、
そういうのをなるべくやめようとしているんです。
今まさこさんに、
「速いでしょ」って言ったのも、
「あ、おんなじだ」と思ったからなの。
横尾さんも、決めるっていうことに
値しないことだらけなのに、
みんなが腕組みしてウンウン言ってるっていうのを、
「歩いてるのに、次の足をどう出すかなんて
考えなくていいじゃない」みたいに言うの。
伊藤
雑誌の撮影の仕事でもありますよ。
わたしが「これ、ここからこう撮ってください」と
お願いするとしますよね。
すると編集者は
「一応、寄り(アップ)も」って、
カメラの人に頼んでいたりする。
でもわたしは「撮らなくていいですよ」と言う。
だってそれは、絶対に使わないカットなんです。
それが分かってるのに、
どうしてカメラマンに
よぶんな仕事をさせるのかなぁと思います。
そんなふうに仕事をしていたら飽きちゃうし、
自分の仕事も増えるだけです。
「一応」とか「抑えで」は、禁句!
わたしの仕事は、それを先に考えて
スタイリングすることなのに。

メンズブランドMOJITOの麻のショートパンツ。デザイナーが8年履いているという私物を、アイコンとして撮影。

糸井
世の中は、そっちなんだよね。
「抑え」だらけです。もっと言えば、
どういうふうに撮りたいかの3案か4案、
あらかじめラフを持って行って撮影して、
なおかつ、撮ったときに
「これも抑えといて」って言うから、
30案ぐらいになっちゃうことがある。
だから時間がなくなるんだよ。
しかも、そこの時間が
自分の労働時間っていうふうに
カウントされちゃうから、
ものをつくるっていうところに行かないの。
「ほぼ日」では、それはダメです。
伊藤
速いといえば、
「weeksdays」の準備で、
いろいろなメーカーやブランドのかたと会って
オリジナルの色や形をつくってもらったんですが、
それを決めるのも、あっという間に終わりました。
それに、仕事をしている日でも、
なんだかんだいって
17時すぎには飲んでるんですよ、毎日。
糸井
すごいね!
伊藤
それはやっぱり、決断が早いからかなあとか。
早寝早起きというのもあるんですけどね。
糸井
テレビ的時間がないんじゃない?
テレビを観る的な時間が。
伊藤
ふだんテレビは観ないですね。
ニュースとマツコ・デラックスだけ
チェックしてますけど。
糸井
あと、インターネットを
チェックなんかしてないでしょう。
伊藤
してないです。
糸井
この2つで、
なにかしてるような気になる時間を、
世の中の人は過ごしてる。
お家にテレビはあるの?
伊藤
テレビ、あります。でも仕舞ってあって、
観るときはズズズッて出して、差して。
テレビが邪魔なんですよ、暮らしの風景として。
糸井
この話、かみさんが聞いたら
ジーンとくるだろうな、
いいなって思うだろうなあ。
オレなんか、
おもちゃの水鉄砲まで置いてあるもん、そのへんに。
伊藤
(笑)樋口さんも速いですか。
糸井
速いねえ。それはつまり、
「身についてることしかしない」
っていうことですよ。
そうか、上役がいないんだね、
まさこさんも、ウチの奥さんも。
誰かに「これでいいですか?」って
訊く必要がないから決められる。
でもそれは、いつも本当の判断を
しなきゃならないから、
いちばん責任があるわけです。
それを繰り返していかないとダメですよね。
伊藤
その責任は自分で負わなきゃいけない。だから
「わたしは好きじゃないけど、ちょっと売れるかも?」
なんて言い出しちゃダメなんですよ。
ほんとに好きなものじゃないと。
糸井
「ちょっと売れるかも」は、
もうすでに頭に入ってるんじゃない?
身に備わってることしか言ってないわけだから。
伊藤
あんまり意識はしていないんですが、
そうかもしれませんね。
今まで、旅の本を出したら
みんながそこに行ってくれるとか、
おいしいものを紹介したら
みんながおいしいって言ってくれる、
ものをつくったら買ってくれるっていうのは、
わたしがほんとにいいと思ってるものしか
出したことがないからだと思っています。
「これいい!」ってすごく思っているから。
糸井
ぼくらでもそうですよ。
「生活のたのしみ展」で
スピーカーのキットを出したけれど、
あれは分かりやすくて、
「わたしもつくりました、いい音がしました」
「いくらなの? あ、だったら俺も欲しいな」
ということなんです。
そういうのはおたがい、分かるよね?
って言えることだけをしてる。
でも、世の中は
「それのピンクって市場ではどうですかね」
「女性がいるから売れるかもしれませんね」みたいな。
伊藤
嬉しいのは、わたしがなにかを紹介したとき、
「そのまま」が売れるわけではないことなんです。
じゃあ自分に似合うのはどうなのかな?
って考えてくださるお客様が多いと聞きました。
それも「weeksdays」を始めようと思った
動機のひとつです。
糸井
それはすごいね。
お客さんが支えてるんだよね、実はね。
(つづきます)
2018-07-11-WED