COLUMN

天板の上にアルミホイルを置いて。

サユミ

先々週につづいて、ふたりのかたに
「冬支度」について書いていただきました。
きょうは、気仙沼在住のサユミさんです。

さゆみ

1984年宮城県生まれ。
東京で編集、ゲーム制作の仕事をした後、
2011年の東日本大震災を機に
ほぼ日の支社としてスタートした
「気仙沼のほぼ日」に勤務するため、
東京から気仙沼へ移住し転職。
ほぼ日刊イトイ新聞上にて
漫画『沼のハナヨメ。』を連載し、
気仙沼での暮らしや仕事についての
エッセイ漫画を執筆。
2019年11月気仙沼のほぼ日の
「おひらき」に伴い、ほぼ日を退社。
現在も気仙沼在住。

私が気仙沼で住んでいる家は
通気性の良すぎる
昭和の日本家屋の借家です。

リビングというよりは「和室の茶の間」があり、
その茶の間には、コタツが年中置きっ放しにしてあって、
さすがに夏は電源を抜いて「座卓」として使いますが、
春や秋でも寒い日があれば、コタツ布団をかけて、
パチッと電源をつけます。
でも、コタツの暖かさだけで満足できたのなら、
寒さはまだ序の口。
そのうち、コタツから出るのが億劫になってきたら、
「もうストーブを出してこなくちゃならないなぁ」と、
ようやく重い腰をあげます。
物置にしまっていた石油ストーブを出してきて、
シュポシュポするポンプで灯油を入れる‥‥。
それがだいたい私にとっての
「冬のはじまり」である気がします。

古い家は、エアコンだけでは寒く、
(夏がそこまで暑くないので、
私の住んでいる地域は、そもそも
エアコンのない家が多いのです!)
重い灯油を運んだり、
灯油をタンクに注いだり、と、
面倒なことはたくさんあるんですが、
やはり力強く周囲を暖めてくれる
石油ストーブは手放せません。
でも、石油ストーブを使う魅力は、
暖かさだけではないのです。

それは石油ストーブが
「調理器具にもなる」ということ。
ちなみに灯油を使うストーブには
「暖風が吹きだすファンヒータータイプ」もありますが、
今回は「上部が天板になって熱くなるタイプ」の
石油ストーブについて語りたいと思います。

最近はあまり見かけることが
なくなってきた気がするのですが、
幼少期も東北の古い家に住んでいた私は、
石油ストーブの天板の上に
アルミホイルを置いて、
その日のおやつを焼いて食べたものでした。

石油ストーブをご存知ない方のために解説すると、
天板が熱くなって「熱源」となり、
ヤカンを置けば湯が沸き、
芋を焼いたり、おでんを煮たり、
あんこを煮たりといった、
調理器具としても利用できるのが特長なのです。

「ストーブおやつ」は焼き芋や干し芋が多かったけれど、
パンや餅を焼いたり、
せんべいやクッキーを温めて食べたりするのも
おいしかったなぁと思い出します。
そのおいしさの半分は「楽しさ」でもあったのでしょう。
おままごとのキッチンを使っているような感覚があって、
茶の間で遊んでいる横で
「調理が行われていること」そのものが
楽しかったのだと思います。

ですが、時が経ち、
小さなこどもがいる現在の我が家では、
安全性を優先し、
昨年からはファンヒータータイプのストーブを
使うようになってしまいました‥‥。
確かにファンヒータータイプは、
温度も設定できるし、
タイマーも付いているし、
長時間運転をおしらせしてくれる機能もあるし、
それはそれで便利ですが、
なんだか味気ないのです。
「ストーブで調理すること」は
私にとって、冬の情景の一つでも
あったのかもしれません。

東北の長い長い冬の時期を
少しだけ楽しく彩ってくれるあの石油ストーブは、
今シーズンも、物置の片隅にあります。
こどもが大きくなったら、
またあの石油ストーブに登場してもらって、
一緒に茶の間で料理をしたいなぁと
思っているこの頃です。

2019-11-27-WED