ベーシックだけど、ほかとはちょっと違う。
そんなアパレルブランド、
Le pivot (ル・ピボット)。
先週のダンボールストレートスカートに続いて、
丈がちょっと短めのワイドシャツが登場します。
メンズシャツを原型にしながら、
着て「かわいい!」とひと目でわかり、
後ろ姿や横から見たシルエットが女性らしく映るための、
小さな工夫がたくさんちりばめられています。
「襟があるシャツは似合わないと決めこんでいたけれど、
このシャツは大丈夫!」
という伊藤まさこさんが、
作り手の小林さんと金井さんにお話をききました。

小林一美さんのプロフィール

小林一美 こばやし・かずみ

Le pivot デザイナー。
企画・物作りに関することすべて、
発信することやイメージに関連することを担当。
バイヤー経験後、アパレル会社で企画・生産・
プロジェクトの立上げなどを手がけ、
20年勤務した後に独立、金井さんとともに
Le pivotを立ち上げ、現在に至る。
好きなものは美味しいもの、花、映画、
ミュージカル、時代小説、そして万年筆。

●Le pivot website
●Le pivot Instagram
●小林さんのInstagram

金井美幸さんのプロフィール

金井美幸 かない・みゆき

Le pivot 営業・プレス・店頭販売担当。
服飾学校卒業後、アパレル勤務、
小林さんと同時期に独立し、
Le pivotの立ち上げに参加、現在に至る。
好きなことは食べること、
ミュージカル、バレエなどの観劇。

02
どうして風が抜けるんだろう

伊藤
このシャツ、
襟で表情がつけやすいから、
きれいめにも、
リラックス感があるようにも着られますよね。
小林
そうなんです。
上までボタンを留めると
「きちんと感」が出せるんですけど、
汗がつきにくいように襟ぐりを広めに取っているので、
きつく感じないのもいいところです。
伊藤
確かに襟まわりがゆったりしてますね。
「メンズシャツを着てます」という感じに見えないのは、
この首周りのゆとりが
大きなポイントになっている気がします。
小林
ええ。
大人の女性に着ていただきたいので、
メンズシャツを女性がカジュアルに着る、
というコンセプトですけれど、
そこにはエレガントな印象は必要だと思って、
いろいろ工夫を詰め込みました。
サイズ感を大きめにしたぶん、
ヨーク(肩から背中にかけての切り替え部分)の幅を
浅めにして、
背中心から肩にかけて細くなるよう
ラウンドさせているので、
肩周りがすっきりして、
後ろ姿も女性らしく、きれいに見えるんです。
伊藤
確かにきれい!
小林
袖の縫い付けも、
普通のシャツだと「フラシ」と言って、
身頃から少し浮くように縫うこともあるんですけど、
あえてぴったりしたコバステッチ(布端から
1~2mmのところを縫うステッチ)を入れて、
肩の収まりがよくなるようにしているんです。
伊藤
ヨークは1枚布ではなく、
背の中心で分けて縫われているんですね。
小林
はい。
ここは左右2枚で作ったほうが、
肩がきれいに落ちるんです。
とくにこのシャツは肩幅を広めに取っているので、
ヨークを背中心で分けることで
背中の布が浮かずに、
ラインがきれいに出るんです。
伊藤
なるほど。
いつもですけれど、
細かいところまですごく考えられてるなと感じます。
小林
私、あまり変わったデザインをする方ではないんですけど、
ステッチの幅を数ミリ狭めてみたり、
細かいところにちょっとだけ
違いをつけるのが好きなんです。
伊藤
試作してみて、
やっぱり違うなと思って変更することもありますか。
小林
もちろん、たくさんあります。
頭の中で考えてから、
実際に自分で残布を使って試作しますよね。
それで細かいところがうまくいったとしても、
本番の生地でサンプルを作ってみると、
全体で見たときのバランスが
思っていたのと違ったりするんです。
ですから、けっこう直しています。
金井
小林が「こう直したい」って言うとき、
正直、私はあまり意味が分からないことも
あるんですけど(笑)、
実際に直してみると、
“服の顔”が全く変わるんですよ。
小林
ふふふ。
言葉だけだとなかなか伝わらないんですけど、
形にすると‥‥。
金井
こういうことか! 
ってわかるんです。
伊藤
実物を見たら、
なるほど、って思うんでしょうね。
金井
そういう、
「ここが普通よりも◯ミリ細い」
みたいなことって、
お客さまにはあまり気づかれないし、
どちらでもいいことかもしれないんですけど、
着て「かわいい!」って思っていただけたら
一番うれしいですよね。
小林
本当に。
どんなに素敵なものが作れたとしても、
着てくださらなかったら意味がないですから。
伊藤
選ぶのはお客さまですものね。
このシャツ、すごく気に入って、
しょっちゅう着ていますよ!
金井
うれしいです。
スタイリストさんへの貸し出し率も、
けっこう多いシャツなんですよ。
伊藤
そうなんですね。
今回、「weeksdays」では
オフ白とブラックの2色をえらびましたが。
Le pivotだと、他に、どんな色を
展開なさっているんでしたっけ。
小林
ビビットなピンクと薄いピンク、ブルーと、
はっきりした色も出しているんですよ。
でもうちに来られるお客さま、
最初はオフ白かブラックを
お選びになることが多いんです。
形が気に入ってくださって、
他の色もお求めになる、という感じです。
定番のシャツは持っていても、
こんなふうに形をちょっと変えたシャツは
他でもなかなか取り扱っていないんですよね。
金井
イベントでお客さまとお話しする機会があるんですけど、
「シャツって、どう着ていいかわからない」
と言われる方、けっこういらっしゃいます。
意外と、丈とかバランスが難しいと。
伊藤
そうそう。
わたしも、シャツって実は
着こなすのが難しいなと感じることがあって、
ノーカラーを選ぶことが多いんですよ。
でも、これなら大丈夫と思えるのは、
どうしてでしょう。
やっぱり襟の開き具合?  
小林
そうですね。
襟の開きと、
どんな身長でもバランスがとりやすい
“丈感”かなと思います。
伊藤
ああ、そうですね。
すこし短めだけど、短すぎず、
ボトムにインしても外に出してもいい、
ほんとうに絶妙な丈です。
小林
着こなし方として私がよくやるのが、
ボタンとボタンホールを
わざとずらして留める方法です。
伊藤
えっ?! 
ずらして‥‥? 
小林
私は身長が148cmと低いので、
合わせるボトムによっては、
シャツの丈感がやぼったく感じるときがあるんですね。
そんなとき、
一番下のボタンを下から2番目のボタンホールに、
下から2番目のボタンを一番下のボタンホールに留めると、
布に動きが出て、
インしなくてもバランスがよくなるんです。
伊藤
へえー! 
立体感と表情が出るんですね。
小林
ワンピースの上から羽織るときも、
ボタンを互い違いに留めると、
動きが出てかわいいですよ。
布を動かすんです。
伊藤
「布を動かす」、
面白いです。
それだと丈詰めをせずに、
長いまま着たいときもいいですね。
小林
そうなんですよ。
わざわざ直さなくてもいいので、
試着されたお客さまにもおすすめしています。
伊藤
本当にいろんな着こなしができますね。
素敵なシャツを作ってくださって、
どうもありがとうございました。
小林
たのしんでくださいね。
金井
ありがとうございました。
(おわります)
2025-07-08-TUE