担当編集「昼めしを食らうために特急列車に乗ったのははじめてです。なんで上諏訪なんですか」梶「蓼科におじいちゃんの代からの別荘があって。このへん、よく来るんですよ。でね、この街にはリビルディングセンターというお店があって」担当編集「はい、聞いたことあります。リビセンでしたっけ」梶「そうそう。古家具とか古道具、おいしいスコーンなんかも売ってて、おもしろいんです。他にも個性的なショップがちょこちょこあって楽しいんだけど、昼めしどうしよっかなってときにインスタ見てたら」担当編集「見つけちゃった？」梶「見つけちゃった。お昼のプレートが、とにかくおいしそうだったんです。地元野菜をたくさん使ってたりしてて。で、来てみたら一発で好きになっちゃいました」担当編集「特急で来たからには心のハードルがめっちゃ上がってますが大丈夫ですか」梶「大丈夫です。すみませーん、プレートふたつお願いします」店主の大塩あゆみさん「はーい。ごはんの量はどうしますか？　小盛・ふつう盛・大盛がございます」梶「ぼくは、ふつうで」担当編集「ぼくも、ふつうで」梶「あと、冷たいレモネードをください」担当編集「ぼくは、ジンジャーエールをお願いします」あゆみさん「はーい」梶「楽しみにしててください。絶対ガッカリさせないんで」

担当編集「おふたりはじゃあ、なかよしで？」梶「いや、ちゃんと話すの、今日がはじめてです」担当編集「何年も通ってるのに？」あゆみさん「スタイリストの梶さんだって、わたしは気づいてたんですけど（笑）」梶「えっ、そうなんですか」あゆみさん「はい。共通の知り合いもいるみたいだし、それにわたし、もともと文化（服装学院）で、学生時代にいろんなファッション誌を読んでたんです」担当編集「さすがは有名スタイリスト」梶「どうりでおしゃれな感じがすると思った。内装とかも素敵だもんね」担当編集「たしかに。お店のコンセプト的なものって‥‥」あゆみさん「はっきりとは決めてないんですけど、東京にいたころ、家でよくごはん会をやってたんです。夕方から友だちが集まって、知らない人同士でワイワイしながら気づけば深夜０時みたいな（笑）。当時はケータリングの仕事をしていて楽しかったんですけど、どうしても『ハレの日のごはん』じゃないですか。パーティとか、イベントごととか」担当編集「ケータリングだとね、そうなりますよね」あゆみさん「なんか、もっと『ふつうのごはん』がつくりたいなって」梶「そう！　最高の『ふつうのごはん』なんですよ、ここのごはんは」

梶「今日のプレートもいい感じだなあ」担当編集「彩りがきれいですね」あゆみさん「まぜながら、お召し上がりください」梶「（しばし無言でまぜまぜしたのち）‥‥うん。これだ。これですよ奥野さん。ぼくらは、これを食べに来たんですよ」担当編集「はい。うまいっス。参りました」あゆみさん「ありがとうございます（笑）」梶「あずさ号で高められたハードルは、どうですか」担当編集「ピロっと超えました。ん、これは何だろう」あゆみさん「ズッキーニのフリットです」梶「やっぱり野菜がおいしい。地のものなんですよね」あゆみさん「はい、農家さんが近いので新鮮さがちがいます。あと、このへんは水の質がすごくよくて」担当編集「あー、水。さっきそこで手を洗ったら、めちゃくちゃ気持ちよかったです。あんな冷たい水、東京の水道からは出てこないと思う」あゆみさん「うちでは浄水器も使ってないんです。ありがたいことです」梶「やっぱり暑い季節に来るのがいいなあ。真夏の野菜を、そのまんま食べてる感覚。大地のエネルギーそのものをもらってる感じ」担当編集「繊細に丁寧につくってるのに、その『技』を感じさせないすごさがありますね。『どうだ！』って感じがない」梶「野菜の力が、ひっかかりなく自然に身体に入ってくるんだよね。それが『技』なんだろうね」

梶「はい。今日のポイントはもちろん、これです。ミッキーのＴシャツです」担当編集「何だろう、世界中で何億人もの人が着てるやつじゃないですか。赤ん坊からおばあちゃんまで。かわいいけど」梶「最近よく行く新木場の古着屋さんを覗いたら、別屋号の人がＴシャツ売ってたんですよ。ポップアップ的な感じで。他にもいろんなアニメのキャラクターＴが並んでたんですけど」担当編集「その中から王者ミッキーを選んだ」梶「これ、オニータ製なんですよ」担当編集「出た！　やっぱりポイントはそこか！」梶「そう、ぼくの大好きなオニータのボディだったんです。しかも80年とか90年代のアメリカのデッドストックで、状態もよかった。サイズもXＬですべて完璧」担当編集「そりゃあ梶さんが着るしかないわ」梶「でしょ？　そこにリーバイスの551とナイキのアメフト用スニーカーの復刻。小学生のころから着ているアイテムで全身をコーディネイトしました」担当編集「夏休みっぽい」梶「そうです。50歳が着こなす、小学生の夏休みスタイルです。今日は遠足で長野に来ました」

梶「あ、そういえば、あのデザートあります？　なんだっけ‥‥」あゆみさん「イートンメス、ですか？　ちょうどあと２つ残ってます」梶「おお！　超ラッキー。めちゃくちゃうまいんですよ。頼みましょう！」担当編集「イートンメス‥‥って、何です？」あゆみさん「イギリスのデザートで、あちらでは苺などのベリー類を使うことが多いみたいです。うちではいろいろやってて、今日は杏です」編集担当「へええ、これが、その。では、いただきます‥‥ん、んん！」梶「ははは、ヤバいでしょ？」担当編集「はああ‥‥これは、おいしい。サクサクした何かが入ってる」あゆみさん「焼いたメレンゲです。そこに杏、ヨーグルト、あと自家製のリキュールをちょっとだけ」梶「ここのイートンメスって、どこまでオリジナル？　けっこう自由な感じ？」大塩「はい、わたしはこういう感じでつくってます。もっとパフェっぽい感じで出すところが多いかもしれませんね」梶「５月に来たときは苺だったような」あゆみさん「夏はパイナップルが多いんですけど、先週たくさん杏を加工したので、今週だけの特別なイートンメスです。杏って、長野では千曲市がいちばんの産地なんですが、昔うちにいたスタッフのお母さんが毎年届けてくれるんですよ」担当編集「いま、びっくりしています。好みの味すぎて」梶「最高ですよね。いやあ、今日もごちそうさまでした」あゆみさん「はい、ありがとうございました（笑）」梶「また来ますね。じゃ、暑い東京へ帰りますか！」