梶「こんにちはー」恵美さん「はーい。ひさしぶりー」担当編集「おふたりは以前から仲良しだそうですね」恵美さん「10年前、この店のオープン直後に10人くらいの撮影クルーを引き連れてきたんです。そのときに写真家さんが、雑談のなかで、こういうお店の人をスタイリングしたらいいじゃんって、梶さんに」梶「佐内（正史）さんね」恵美さん「そしたら数日後、本当にワンピースを２着持ってきて、どっちかあげるよって」担当編集「えっ、すごい話」恵美さん「今日は、そのときのワンピを着てるんです」梶「あ、ほんと？　これだったっけ。似合ってるじゃん」担当編集「一流スタイリストのスタイリングですから‥‥（笑）」恵美さん「それ以来のおつきあいなんです」担当編集「おもしろいなあ。そんな人います？」恵美さん「はじめてのタイプ（笑）。他愛もない話を覚えていて、本当に実行してくれたことにビックリしました。あの人、マジで服くれたよ！　‥‥って（笑）」梶「雑誌のスタイリングって一瞬でしょ。撮ったら終わり。でも、誰かに似合う服をあげたらずっと着てくれるかもしれない。それって自分のスタイリングが生き続けるってことだから。純粋にうれしいよね」

担当編集「お店の内装も素敵ですね。この『インド愛』くんもかわいいし」恵美さん「店長がつくってくれたの。紹介します、こちら店長」担当編集「店長‥‥」梶「下北沢にあるKAISOってパン屋さんの店長さん」担当編集「えっ、そうなんですか。スコーンおいしいっス！」店長「おおー、ありがとうございます」担当編集「大好きなんです。だいたい休日の夕暮れにあのへん通るんですが、いつもあんまり残ってないので、あるだけ買ったりしてます」店長「本当ですか。今日は、おふたりの素敵な話を聞けてうれしいです」恵美さん「看板も店長につくってもらったんだよ。あそこの刺繍も‥‥」担当編集「あちらの方は、インドの有名な人ですか」恵美さん「あ、あれは絵なんです。だから、誰でもないの」梶「KAISOには（加賀美）健くんの絵とかあったよね」店長「はい。加賀美さん、大尊敬してます」梶「奥野さんは健くんと本を出してるんですよ」担当編集「加賀美さんがメルカリで買ったヘンなものを‥‥」店長「あ、知ってます！」担当編集「わー、うれしいです！」梶「しかしこの店って、みんながくれたものとか好意でできてるよね」恵美さん「ありがたいよね」担当編集「店長さんと梶さんは、ここでこうして知り合ったんですか？　恵美さんのカレーをはさんで」梶「お会いはしてますよね、何度か。でも、ちゃんと話すのは今日がはじめてかも」

梶「自分ちみたいでしょ。いつ来ても誰かしらいて、ワイワイしてるんです」恵美さん「住宅街の片隅のちっちゃな場所ですけど、うれしいことに、いろんな人がいらしてくれて」担当編集「でもそれって、まずは恵美さんの料理がおいしいから、ですよね？」梶「そうそう。味。食べると、ああ、帰ってきたな～って感じ」担当編集「そのへん、もうちょっと梶さんワードに変換すると？」梶「んー‥‥包まれる感じ？　カレーに包まれるんですよ、自分が。ちょっとくらい凹んでても、AMIのカレーの包容力で元気づけてもえらるっていうか」恵美さん「ふふふ、おまちどうさまでした。今日はすっぱ辛いサツマイモのカレーと、ホウレンソウ＆豆のカレーの２種。おかずはビーツ、紫ニンジン、ビタミンダイコン、ケールの炒めもの、などです！」担当編集「あ、ルゥがちがうぞ。ぼくのと梶さんのとで、ちがってルゥ」恵美さん「梶さんは辛いのがダメなので、マイルドにしました」梶「だいたい自動で出てくるんですよ。ぼくのお皿は」担当編集「だって注文してないですもんね、今日まだ」梶「それで、帰るころには何を食べたか覚えてない。ただ『今日もうまかったなあ』だけが残ってる。不思議なんです」担当編集「魔法のカレー屋さんだ」

担当編集「インド好きだったんですか、もともと」恵美さん「インドで話されている言葉を専攻してたんです、大学で。ウルドゥー語っていうんだけど。はじめての海外旅行もインドでした」梶「じゃ、それからずっとインド？」恵美「そう。漠然とインドと関わる仕事がしたいって思いだけがあって‥‥最初はインドへダイヤモンドを買いつけに行く仕事をしてた」店長「へえ、おもしろそうですね」恵美さん「でも、40歳の手前で自分のこれからを考えたとき、あ、カレー屋さんやりたいなって」梶「そうなんだ」恵美さん「まず、あるお店ではたらきはじめました。でも、そこのオーナーさんとぜんぜん気が合わなくて」担当編集「気の合わない人っているんですか。恵美さんでも」梶「たしかに（笑）」恵美「いたんです（笑）。半年くらいで無理だ～と思って物件探しをはじめました。で、この場所と出会ったの」梶「で、やるしかねぇと」恵美さん「そう。やるしかねぇと」担当編集「メニューとかって？」恵美さん「ほとんど変わってないです、最初から。深く考えたわけじゃなく、何となくはじめたものが、ずっと続いてる」担当編集「そこへ『スタイリスト梶雄太』が現れた」恵美さん「それも、オープン早々に（笑）」

梶「ちなみに、店長はなんでパン屋さんになったの？」店長「いま話を聞いてたら自分と同じだと思いました。ぼくも大学で専攻したのがフランス語だったので‥‥」恵美「えーっ！　店長がフランス語！」店長「そうなんです。で、フランスへ行ったとき、パンっていいなと思って」梶「今日、ぼく30年ぶりくらいにセントジェームスを着てきたんだけど」担当編集「つまり、フランスつながりだ。で、えっと、30年ぶり！？」梶「そう。昨日の夜、急に着たくなってわざわざ買いに行ったんだよ、閉店間際に。30年ぶりに。それが、ちゃーんと『今日』とつながってた」担当編集「野性派スタイリストの本能おそるべし」恵美さん「あれ、服の話は？　‥‥て思ってたんだけど」担当編集「ぼくも思ってました。いつもは『服：昼めし』が『３：２』くらいなんで」梶「今日は『0.1：9.9』くらいだもんね。でも、たまにはいいんじゃない？」担当編集「いいと思います。10年前に恵美さんをスタイリングしたって話からはじまってますし」恵美さん「今月でちょうど10周年なので‥‥」担当編集「オープン直後と10周年の恵美さんを、梶さんのワンピースで飾ったんですね」恵美さん「すごいねー」担当編集「人生の一部をスタイリングしてる」梶「そう思うと、なかなか楽しいんですよ。スタイストって仕事も」