腕だけで「2.4メートル」もある
謎の恐竜・デイノケイルスや
日本最大の全身骨格・むかわ竜など、
次々とすごい発掘をしてきた
恐竜研究者・小林快次さんは、
子どものころから大の恐竜好き‥‥
なんかじゃ、ぜんぜんなかった!
それどころか、
やりたいことが見つからず、
もがき苦しむ青春を送っていました。
おなじ悩みを持つ若人に、
ぜひとも、読んでほしいと思います。
もちろん恐竜のお話も、たっぷりと。
(もともとその取材だったんです)
担当は「ほぼ日」奥野です。

>小林快次さんのプロフィール

小林快次(こばやし・よしつぐ)

1971年、福井県生まれ。
米国の大学で学部を卒業し、博士号も取得する。
現在、北海道大学総合博物館教授。
恐竜の進化、生活復元、生活地域や移動等、
多岐にわたって研究している。
「恐竜がどうやって鳥に進化したのか」や
「北極圏のような
厳しい環境にどうやって棲めたのか」など、
恐竜について多くのテーマを追求している。
近著に
『恐竜まみれ:発掘現場は今日も命がけ』(新潮社)、
『ぼくは恐竜探険家』(講談社)、
『化石ハンター 恐竜少年じゃなかった僕は
なぜ恐竜学者になったのか?』
(PHP研究者)などがある。

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第2回 ぼくは「たまねぎ」みたいだ。

──
今日は恐竜の取材に来てるんですが、
すみません、
「たまたま」「なりゆき」の部分を、
もう少し教えていただけますか。
何だか、そこが重要な気がして。
小林
わかりました。
小中学校は大学付属だったんですが、
なんとなく入っちゃって、
高校も、自分の実力以上のところに
ギリギリ滑り込みました。
──
そうなんですか。
小林
とにかく、言いなりだったんですよ。
まわりの大人の。
高校のときだって、横国大の先生に、
「小林くん、そんなに化石好きなら、
うちの大学に来なさい」
と言われて
「はい、はい」と答えたんですね。
──
ええ。
小林
つまり、ぜんぜん本気じゃなくって、
どうせ入試で落ちると思ってました。
でも推薦枠があるからって言われて、
行きたい大学じゃなかったけど、
何となく受けたら、受かっちゃった。
──
ははあ。
小林
つまり、それも実力以下なんですよ。
当時きちんと入学試験を受けてたら、
合格してないと思いますし。
──
そうなんですか。
小林
入ったら入ったで、
どうしても入りたくてしかたなくて
がんばって入った大学じゃないので、
結局、
自分は何やりたいんだろう‥‥って、
ほんと、多くの若者と一緒。

──
そのようですね。聞けば聞くほど。
小林
高校時代は、化学が好きだったので、
どこかの大学で化学を専攻して、
ふつうに卒業して、
ふつうに就職して、
ふつうに家庭持って‥‥というのが、
当時の計画だったんです。
──
まさに「計画」ですね。
なんでしょう、「夢」というより。
小林
でも‥‥あるときに、
地元の福井で世話になっていた人と、
横国大の先生が、
なんだか揉めはじめたんですよ。
で、その福井の人が
「小林、おまえ、アメリカ行くか?」
って言ってきたんです。
──
横国大を休んで、アメリカへ。
小林
ただ、その人って、よく日常的に
「中国行くか?」とか、
「ヨーロッパ行くか?」とか、
「ヘリコプター乗るか?」
とか言うんだけど、
それがね、ぜんぶ適当なんです。
──
なんですか、それ(笑)。
小林
話が、ぜんぶなくなっちゃうんですよ。
「そういえばこの前のヨーロッパの話」
「何だっけ」
「いや、この前言ったじゃないですか」
「あ~、そんな話あったなあ」
みたいな感じの人だったんですよね。
──
はあ。
小林
だから、
「小林、アメリカ行くか」と言われて、
「ああ、またはじまった」と思って、
「はい、行きます、行きまーす」って
適当に答えていたら。
──
ええ。
小林
「そうか、お前、そんな留学したいか。
じゃあ、
科博の研究者に会いに行ってこい」と。
──
カハク‥‥。
小林
国立科学博物館の
古生物学者のところに行けと言って、
なぜか、そのときだけ、
適当な話じゃなかったんです。
──
なんと。
小林
しかたなく、ただ言われるがままに
科博の先生に会いに行ったら、
「キミが留学したい小林くんだな。
よしよしわかった」と言って、
あれよあれよと言う間に
「俺、留学することになっちゃった!」
って感じなんです。
──
まさに、なりゆき留学‥‥。
小林
そんなふうにして、
知らないうちにアメリカ行きが決まり、
そんなだから、1年間、
とくに何の成長もせず帰ってきました。
──
え、そうなんですか。
小林
はい。ダメでしたね、ぜんぜん。
その1年、典型的なダメ留学生として
遊びまくって帰ってきました。
──
恐竜は?
小林
だから、そこからなんです。
大学を休んでまでアメリカに留学して、
1年間、ただ遊び呆けるだけで、
学校にも行ったり行かなかったりして、
何も得られず日本に帰ってきて。
──
ええ。
小林
そうしたら、自分のことが、
たまねぎみたいだと思えてきたんです。
つまり、皮を1枚ずつ、
「最後に残る自分って、何なんだろう」
と思いながら剥いてったら、
その中心には、何にもないと気づいた。
──
ああ‥‥同じように思っている若い人、
たくさんいると思います。
小林
そんなときに恐竜の図鑑を見たんです。
──
恐竜やっと出た!
小林
そしたら「おもしろいかも‥‥」って。
──
恐竜が。
小林
で、「ひとつ、これをやってみよう」
と腹を決めて、
また、アメリカに舞い戻ったんです。
いろんな人たちに、あたまを下げて。

──
もう一度、アメリカに行かせてくれと。
小林
それまでの自分は、
言いわけばっかりの人間だったんです。
──
言いわけ?
小林
そう、自分に対する言いわけです。
勉強のできる同級生がいたとしたら、
「あいつの家は金持ちで、
家庭教師をつけてもらってるからだ。
俺だって、
つけてもらえれば成績よくなるんだ」
みたいに、
ずっと自分に言いわけしてたんです。
──
なるほど。
小林
そういう自分が本当にイヤでした。
言いわけばかりしてる自分が、
もう、本当にイヤになったんです。
──
それで「恐竜にかけてみよう」と?
小林
あのとき、自分は変わったんですね。
もういちどアメリカに戻って、
自分の力の限りを尽くして、
これと決めた恐竜の研究をしようと。
──
はー‥‥。
小林
そうやってきた結果が、今なんです。

(つづきます)

2019-07-26-FRI

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  • デイノケイルスが!むかわ竜が!
    恐竜博2019、開催中。

    小林快次先生が中心となって発掘調査した
    「ナゾの恐竜・デイノケイルス」と、
    日本の古生物学史上、
    最も完全な形で発掘された「むかわ竜」の
    全身骨格が、
    現在開催中「恐竜博」で公開されています。
    とくに、
    ギリシャ語で「恐ろしい手」という意味の
    デイノケイルスの大きさは、
    全長約11メートル、高さ約4.5メートル!
    「こんな生き物が本当にいたのか‥‥」と、
    ある意味ボンヤリしてしまいました。
    会場は、東京・上野にある国立科学博物館。
    夏休みの子どもたちで一杯だと思いますが、
    あの大きさ‥‥直に体感してほしいです。
    開館時間や休館日、チケット情報など、
    詳しいことは、公式サイトでご確認を。

    また、小林先生の新著もぞくぞく刊行中。
    アラスカでグリズリーと出くわすという
    ハラハラドキドキな場面からはじまる
    新潮社の『恐竜まみれ』と、
    この連載にも通じる内容の
    PHP研究所の『化石ハンター』です。
    どっちもおもしろいですので、ぜひとも!