エッセイスト平松洋子さんは
日々の生活の中のふとした幸せや違和感の
瞬間を見逃さない。
そんなエッセイを平松さんが
何十年も書き続けてきた鍵は
早起きから始まる日々のルーティンにあるのでは?
そんな思いからスタートしたインタビューです。
読んでくださった方が
仕事をつづけることに希望を
感じてもらえたらうれしいです。
担当はほぼ日かごしまです。

ほぼ日の學校で、ご覧いただけます。

>平松洋子さん プロフィール

平松洋子(ひらまつ・ようこ)

1958年生まれ。
大学卒業後から書く仕事を始める。
2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、
2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、
2022年「『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。
『食べる私』『日本のすごい味 おいしさは進化する』
『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』
『おあげさん 油揚げ365日』
『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』など著書多数。

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第2回 集中する時間をどうつくるか

──
夜遅くまで起きていることもあったんですか?
平松
はい。
早朝が気持ちいい時間だと知って
4時半に起きるようになるまでは、
夜も仕事していたんです。
遅くまで仕事していると
「頑張ってるな」という充実感があった。
徹夜もしょっちゅうしてました。
だけど、あるとき気がついたんです。
思ったより能率が悪いし、
もしかしたら自分を疲れさせてるだけかも、って。
──
夜遅くまで仕事して充実感がある感覚はすごくわかります。
わたしはだんだん気持ちが乗ってきて
夜遅くまでやってしまうんですが、
平松さんはその気持ちをどうやって調整していますか?
平松
やっぱり集中するリズムはあって、
私の場合は夕方から一山あるんですよ。
16時台あたりから
3、4時間ぐらい
集中する時間を逃さないようにして、
20時くらいには自然とおさまる感じかな。
若いころは、
「その日がよければ」いいみたいな感じがあったんです。
だけどだんだん「次の日もある」と
気がつきはじめた(笑)。
──
次の日もあるという
事実に気がついたんですね(笑)。
平松
今日はいい仕事ができたけど、
次の日はボロボロになること、ないですか?
──
あります。
平松
ありますよね。
深夜3時ぐらいまで仕事を引っ張っちゃうと、
翌日お昼すぎまで頭が働かない、体も動けないみたいな。
昼間に眠かったり
疲労してたりすると、
あれ、前夜のがんばりは意味がなかったのでは、
と思い始めて。
いくらがんばったつもりでも、
次の日がマイナスになっちゃうのは
オカシイぞ、と。
そんなわけで、
毎日同じように出力しつづけられるようにしたほうが
結局は楽だということに気がついたんです。
──
たしかにそうですね。
ただ長く続けている習慣にけりをつけるのは難しいです。
でも、今日のゴールまで短距離ランナーみたいに
頑張るのではなくて、
長距離ランナーのように
毎日淡々と走り続けたいですよね。
平松
今日の力を使い果たすと
次の日がマイナスになっちゃう。
頭で理解したというより、
体でしんどいというのがわかったんです。
無視して無理を続けると
累積赤字になっていくぞという恐れみたいな感覚です。
──
体の感覚としてわかったんですね。
平松
はい。
毎日コンスタントに仕事ができて、
体調にも感情にも、できるだけ波がないことが、
書き続けるうえではとても大事だと思ったんですね。
でも、それはあくまでも自分にとってのことなので
人それぞれ違うと思う。
同じような仕事をしている仲間でも
集中するのは夜という人もいます。
物音とかも聞こえない
夜の深い時間が好きだという人もいるし、
自分に合うやり方を見つけることが大事かなと思う。
それはもう本当に人それぞれ。
──
平松さんにとっては、
朝をうまく活用するのが合っていたんですね。
平松
はい。
朝に運動とか家事とか、
ちょこまか身体を動かすのが好きなんですよ。
家事はね、片付いていく感覚が好き。
「たまった家事がたくさんある」と思っちゃうと、
負債をいっぱい抱えてるみたいな感じになって、
げんなりして逆に動きたくなくなっちゃう。
お皿は洗えば洗い終わるし、
アイロンがけも特に好きなわけじゃないんだけど
かければ必ず終わる。
家事はやったことが
きっちり終わっていく。
この感覚がうれしくて、逆利用してる(笑)。
──
仕事は悩んだり迷ったりするから、
そう簡単には終わらないけど、
毎日の家事は手を動かしたら終わりますね。
それで10時頃に仕事場に行くと
スッと集中モードに入れますか?
平松
いやぁそんなにうまくはいかなくて‥‥(笑)。
最初はメールのやり取りとか、
気になっていることを済ませちゃう。
いきなり「はい! やる」みたいな感じは無理ですね。
だんだん書くようにしていく
「ならし保育」みたいなことをやらないと(笑)。
──
すぐにスイッチが入るわけではないんですね(笑)。
平松
ぱちっとオンオフの
スイッチを押すようにはうまくいかないです。
自分で自分に「そろそろ本腰を入れませんか」とか
「お願いします」と頼みます(笑)。
──
平松さんでもエンジンをかけるのに時間がかかるんですね。
私もなんでこんなに本題の仕事に取りかかるのに
時間がかかるんだろうって思うことがよくあります。
共通点があってうれしいです。
平松
みんな同じじゃないかなあ。
それぞれ、
自分を乗せたり励ましたりしているんじゃないかな。

(明日につづきます)

2025-06-21-SAT

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  • 平松洋子さんの著書
    『おあげさん 油揚げ365日』

    (文藝春秋・2024)

     

     

    平松さんが愛する食材は油揚げ。
    こんなに奥深い食材だとは知りませんでした。
    油揚げのエッセイ、油揚げ好き対談、
    そしてレシピを集めた油揚げだらけの一冊。
    油揚げのクリームパスタから、
    油揚げの中に卵をいれて醤油と味りんで煮た
    「あぶたま」までレシピが45も載っています。

     

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