エッセイスト平松洋子さんは
日々の生活の中のふとした幸せや違和感の
瞬間を見逃さない。
そんなエッセイを平松さんが
何十年も書き続けてきた鍵は
早起きから始まる日々のルーティンにあるのでは?
そんな思いからスタートしたインタビューです。
読んでくださった方が
仕事をつづけることに希望を
感じてもらえたらうれしいです。
担当はほぼ日かごしまです。

ほぼ日の學校で、ご覧いただけます。

>平松洋子さん プロフィール

平松洋子(ひらまつ・ようこ)

1958年生まれ。
大学卒業後から書く仕事を始める。
2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、
2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、
2022年「『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。
『食べる私』『日本のすごい味 おいしさは進化する』
『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』
『おあげさん 油揚げ365日』
『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』など著書多数。

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第1回 4時半から1日が始まる

 
春がはじまる直前の
小雨がしとしと降る少し肌寒い日の朝、
平松洋子さんの行きつけの喫茶店、
西荻窪の「JUHA」で
インタビューがスタートしました。

平松
ここ(お店)の空気、いいんですよ。
──
すてきなお店ですね。
アフォガード、コーヒーハイボール、
レモンクリームソーダとかメニューにある食べ物も
おいしそうです。
平松
ここのアフォガードは独自のスタイル。
「世界一のアフォガード」って言う人もいるんですよ。
──
こちらにはよく来るんですよね?
平松
週に何回も。
店主の大場(俊輔)さんが
レコードをかけていらっしゃるんですが、
この音、この空間にいるのが本当に幸せで。
全部忘れて和むんです。

──
平松さんが
朝早く起きて、その後散歩に行って‥‥という
ルーティンのようなものがあることを知って、
気になっていました。
平松さんが何十年も書く仕事を続けることを
支えているものの一つに
これらの日々の習慣があるんじゃないのかなと思って。
私自身、自分に合う習慣を身につけたら
生活がうまく回っていくんじゃないかな
という期待感があり、
今日はその話を聞きたいと思ってるんです。
平松
はい。わかりました。いろいろ聞いてください。

──
ではまず、1日をどんなスタイルですごしているか、
うかがっていいですか?
平松
起きる時間はだいたい4時半ぐらいかな。
5月以降はちょっと早まります。
空が明るくなるし気持ちがいいから。
そして夏の間は起きたら、すぐ体を動かします。
冬の間は布団の中で本を読んだりしながら
もぞもぞする。
布団の中で過ごすのって幸せなんですよね。
布団を出たら、キッチンでお白湯を飲み、
煎茶を入れてフーッと一息ついて、
新聞を読んだりしてから、
朝ごはんの準備をして朝食をとります。
あたたかい季節になってきたら、
朝食の前に善福寺公園に行くんです。
競歩みたいな感じで速足で家との間を往復します。
そのあとは家事を一気にダーッとやっちゃう。
体も温まるし、運動にもなるし。
朝の時間はやることがいっぱいあるから
それをやって体を動かす感じですね。
──
その後は仕事ですか?
平松
そうです。
10時ぐらいには
家から歩いてすぐのところにある仕事場に行って
それから後はずっと仕事場です。
20時半ぐらいまで仕事して、
帰宅したら夕飯です。
私は基本的には1日2食なので、
夜はあんまり食べないんですよ。
ちょっとワインとか飲みながら何かをつまんで
ゆっくり本でも読んで。
夜は22時半ぐらいには寝ちゃいますね。
──
仕事場には10時から20時まで。
長い時間、仕事場にいるんですね。
平松
ただその間に打ち合わせで外出したり、
散歩に出たり
ここ(JUHA)でコーヒーを飲んだり、
本屋さんに行くことも。
ずっと座りっぱなしじゃないです。
あとはヨガのクラスに1週間に3回ぐらい行ってます。
──
JUHAで過ごす時間も大事な時間ですか。
平松
そうですね。
頭の中を空っぽにしてレコードの音楽を聞いて、
コーヒーを飲む。
ずっと座って書いたり読んだりしてると
目にも良くないし、煮詰まってきちゃうんで。
仕事の合間にいいブレイクをつくることは
意識しています。
でも、やっぱり読書タイムになっちゃったり
するんですけど。
──
ヨガに週3回通っているということですが、
体もよく動かしているんですね。
平松
アシュタンガヨガという
インドが源流のヨガなんです。
パワーヨガという体をハードに動かすヨガの
大元になったもので、
ポーズと流れが全部決まっていて、
それを最初から休みなく進めていくんです。
10分ぐらいしたら汗だくになる。
夏は汗ダラダラになって
ひとっ風呂浴びたあとみたいになって(笑)、
それを1時間半。
──
ハードですね。
平松
先生が途中で「腸腰筋を伸ばしてください」とか
「仙骨を立ててください」とか
「胸骨をここでグーッと開いて」とか指導するんですが、
だいたい骨と関節と筋肉の扱い方なんですよね。
骨とか筋肉って、
自分の身体なのに遠い世界だったりもするから、
もう大変。
自分の体をいったんパーツに分解して、
しかも言葉として入ってきたことを
自分の体に落とし込んで動く。
4年以上通っているんですが、いまだに必死(笑)。
でも、続けていくと
「これ2年前にはできなかったよな」ということが
「あれ、今できた!?」みたいな瞬間が面白くて‥‥。
──
そして朝は4時半に起きるとのこと、
かなり早起きですよね。
平松
そうですね。
この生活になったのは20年くらい前。
ちょうど5月くらいのときでした。
いまでもそのときの気持ちを覚えているんですけど
思い切って夜明けのすぐあとに起きてみたら、
「早朝って、こんなに気持ちいい!」って
すごく感動したんですよ。
隠れてた気持ちいい時間を見つけたみたいな感じ。
「これだな!」と思った。
それからずっと4時半起きです。
──
5月の4時半ぐらいだと空は明るくなっていますか?
平松
静かに明るくなりかけている空気に
心身が洗われる感覚があって。
そして、善福寺公園まで歩きます。
片道30分弱ぐらい。
行った先の公園で、たいてい30人くらい集まって
デンマーク体操っていうのを毎日やってるんですよ。
ときどき参加するのも楽しくなっちゃった。
一人で行って、集まっている人たちに交じって体操して、
ベンチでしばらくぼーっとして家に帰る。
習慣だから行くというよりは
気持ちいいから行くみたいな。
そういう感じです。

(明日につづきます)

2025-06-20-FRI

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  • 平松洋子さんの著書
    『おあげさん 油揚げ365日』

    (文藝春秋・2024)

     

     

    平松さんが愛する食材は油揚げ。
    こんなに奥深い食材だとは知りませんでした。
    油揚げのエッセイ、油揚げ好き対談、
    そしてレシピを集めた油揚げだらけの一冊。
    油揚げのクリームパスタから、
    油揚げの中に卵をいれて醤油と味りんで煮た
    「あぶたま」までレシピが45も載っています。

     

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