アマゾン川。世界最大規模の河川。
教科書で習ったような気もするけれど、
よくは知らない、この川に、
何度も訪れて貴重な写真を撮影している、
フォトグラファーの山口大志さん。
その一枚の写真を撮影するのに、
数ヶ月かかることもあるという。
待てる力の源は何なのか、
そこまで魅了するアマゾンとは、
いったいどんなところなのか、
たくさんの写真をみながら
教えていただきました。
担当は、しもー(下尾)です。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。

>山口大志さんのプロフィール

山口大志(やまぐちひろし)

1975年、佐賀県唐津市生まれ。幼少時代から昆虫採集や熱帯魚の飼育に夢中になり、自然への興味から1993年に石垣島西表島に移住、7年間を過ごす。この間、西表野生生物保護センターに非常勤勤務。2004年から4年半、写真家 三好和義に師事後、独立。2010年、オーストラリア・ウーメラ砂漠で、小惑星探査機「はやぶさ」が地球へ帰還する決定的瞬間を撮影。この頃から、本格的にアマゾンに取り組む。2012、2013年、日経ナショナルグラフィック写真賞優秀賞、2016年、第5回田淵行男賞岳人賞を受賞。

写真集:『AMAZON 密林の時間』クレヴィス

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第4回:木の上で、気絶しかかる。

山口
これは木の上で寝るシロウアカリです。
サルの仲間で、この写真も人気があります。

──
リラックスしていますね~。
山口
ね~、気持ちよさそう。
これも大変な撮影の一つでしたね。
このサルは広大なジャングルの、
ごく一部にしかいないんですよ。
生息数が少ないんですね。
どうしてもこれは撮りに行きたい
と思っていた生き物のひとつですから、
2ヵ月ぐらい行きました。
アマゾンで、しっかり撮れるタイミングって、
ひと月に1枚くらいですから。
──
そんなに、撮れないものなんですね。
山口
どこかには、いるんです。
ジャングルが広すぎて、出合えるかわからんですね。
ただ必ず来る場所はあるから、
そこさえ探せれば撮影ができます。
シロウアカリは、中学生くらいのときに読んだ、
アマゾン川の探検家の本にも出てくるんですよ。
──
その本には、写真が載っていたんですか。
山口
いや、イラストが載っていただけです。
今から170年くらい前、
アマゾン川の各地を探検したベイツは、
有力者への贈りものとして運ばれるシロウアカリを
港で見つけたと記しています。
『腕利きの猟師が毒をつけた矢と吹矢筒で
木の上のシロウアカリに命中させ、
力尽きて落ちてきたところで
解毒のためにひとつまみの塩を与えると生き返る。』
というようなことが書いてありました。
読みながら、そやんかこと、ある?
と、むちゃくちゃ興味を持ちました。
それで、いつかこのサルを探しに行ってみようと。
──
山口さんの原動力ですね。
こどものときに見たかったものに会いに行く。
シロウアカリは、どうやって探したんですか?
山口
シロウアカリは、声が特徴的で、
カカカカッ、カカカカッて鳴きます。
その声がすごく細いんです。
ここでは村のパドレという男が案内役でした。
すごかったですね。
彼の耳は、恐ろしくよく聞こえる。
サルを探しに一緒にジャングルを歩いていたら、
シーっというジェスチャーをして
立ち止まって耳をすませる。
こっちも自分のカンで、
声のほうを予想しますが
彼はまったく違う方向へ歩き出します。
えーっ、こっちに行くの?
と彼のあとに着いて、ずーっと歩く。
茂みをぬけ、池のまた向こうへ。
そんな道中を繰り返した先に、
シロウアカリがいるんですよ。
彼の耳には、ずっと遠くからでも、
鳴き声が聞こえていたんだと、
びっくりしました。
とても頼もしかったです。
──
普段は、何をされている方なんですか?
山口
鳥や魚をとる猟師さんです。
まるで動物のような感覚を持つ人でしたね。
シロウアカリは、朝、気温が上がる前に活動するんです。
たくさん木の実を食べて、10時くらいになったら、
暑くなるから、日陰でひと休み。こんな感じで寝る。
この写真は、ちょうどそのタイミングやったとです。
ほんとにラッキーでした。
──
「あー、お腹いっぱい」って、
寝ているところなんですね。かわいい。
山口
かわいかですよね。
頭の毛を刈り込んだみたいな格好もいいです。
サルを驚かせず、できるだけ近い距離で撮りたい。
ところが、地面には乾いた枝や葉が無数にあって
パチンって小枝を踏む音がしたら
一瞬で逃げていくから、
行く先のすべてをよく観察するんです。
そおーっと、そおーっと、前進。
本当に息を殺して、
シャッターをきった一枚ですね。
あとは相手にばれないように迷彩柄の、
カモフラージュネットをかぶっています。
──
匂いも消すんですか?
山口
消したいけど、出てると思いますね。
虫よけは、しない方がいい。
ああいう匂いは、たぶんバレます。
あと、なるべく風下から近づかないと。
野生動物の目、耳、鼻は、めちゃくちゃ効きます。
──
常に危険と隣り合わせですもんね。
こちらは、ナマケモノですよね?
全然怠けていない、躍動感のある写真ですね。

山口
動きは、ゆっくりですけどね。
──
動物園で見たことがあるような動物に、
檻に囲まれていない状態で会えるってすごいですね。
めちゃくちゃ木の上っぽいんですが、
山口さんも木の上にいるんですか。
目が合っている気がします。
山口
そうです。
このナマケモノは、川岸の木の上にいました。
じーっとしながらも、むしゃむしゃと
ムングーバの葉を食べていたんです。
木登りは大好きで、得意やけんね、
カメラをたすき掛けにし、裸足になって登りました。
高さは15m~18mくらいあったと思います。
あんまり揺らすと嫌がって逃げるけん、
そこは気をつけながら。
──
隣の木やなくて、同じ木に登ったとですか?
山口
同じ木。近くまで行って、
ちょうど、こっちを向いたところを
パチって撮りました。
このナマケモノの大きさは、
頭から尻尾まで、50~60cmくらいかなぁ。
撮影のあと枝先の葉っぱを食べていました。
ここは、眺めがよかったですよ。
向こう側に見えるのは、
ずーっと、アマゾン川ですからね。
──
木に登ることでも、
アマゾンをもっと満喫できるんですね。
これは?

山口
これ、俺ですねえ。
でも大したことなくて。
手前の木に登ってます。細い木のほう。
このうしろにある大きな木はカポックツリーっていう、
高さ30~40メートルくらいになる木です。
板状根(ばんじょうこん)っていう
ロケットの発射台みたいな根っこになるんですよ。
幹がデカすぎて、掴むところがないから登れない。
それで手前の木に登って下りてきたところです。
──
やっぱり、裸足ですね。
山口
木登りするときは、
枯れ木や虫の食った枝に
足をかけてしまうと落ちます。
裸足だと、足をおいた瞬間に、それがわかるんです。
だから靴を履いて登るのは、イヤですね。
だけど、困ったことに沢山のアリがいる。
──
危ないですよね。
山口
すごく刺すのがいて、あまりの痛さに、
木の上で気絶しそうになったことがあります。
──
ええーっ。そこまで?
山口
アリは、ハチと同じ仲間なので
毒針を持っていて刺されると痛いです。
木の上のブロメリアの撮影で、
10mくらい上がってバランスを取ろうと
隣の木に足をおいた瞬間、もう大変でした。
凶暴なアリに大量に刺され、
体温が5度くらい上がる感じがしましたね。
──
でもそのまま木から手を放したら
落ちてしまいますよね。
どうやって乗り切ったんですか。
山口
元々いた木に身体ごと引っ込んで、
足に食いついてきたアリを全部払って。
で、あとは耐える。
身体に問題ないのが分かったら、
夕方のいい光が来るのを待ちました。
また撮りたいクソ根性です。
──
アリがいるのに?
山口
いい場所では撮りたいから。
もちろんダメなときもありますけどね。
アリのなかでも、アステカアリが、
自分の場合は鞭で打たれるぐらい痛かった。
大きさは5ミリぐらいだけど、
5回以上、刺されたら気絶するかもしれないです。
だから、うっかり植物を触ったりできないです。
まずアリがいないか、よく確認してから触る。
アリと毒ヘビには注意ですね。
──
ここは、人が住んでいる場所ですか?

山口
はい。シロウアカリがいた近くの村です。
50世帯くらいあったと思います。
大きな木はブラジルナッツの木です。
夕方、撮影が終わって川岸で休んでいたら、
村の人たちが大木のそばに集まって
世間話をしてるんですよ。
物語にでてくるような美しい景色でした。
ところで、木の幹に、
黒い線が入っとるの、わかりますか?
──
はい、木の真ん中あたりに。
山口
このときは乾季ですが、
雨季の満水期には、
うしろに見える川の水が、
あそこまで上がるんです。
──
雨季は、村が沈むんですか?
山口
そうです。水辺の家は沈んでましたよ。
そのときは、高台につくった高床式の
もうひとつの家に引っ越してましたね。
乾季になったら、また水辺に引っ越す。
自然にあわせた暮らしですね。
ほんとに自然の中で生きてるって感じがしました。
──
自然の中で暮らす怖さはないんですか?
山口
ジャガーがこの村には、よく来ていました。
夕方、みんな騒いでるなと思ったら、
ジャガーに飼ってるニワトリを食われたからと、
猟銃を持って探しに行っていましたよ。
見に行ったら足跡がついててね。よかとこですよね。
こんな家のすぐそばに、本物のジャガーが来るなんて。
──
えー、怖すぎます。
でも山口さんはワクワクしちゃったんですね。
山口
なんかちょっと厳しくて危ないところが、
自然には必ずあるじゃないですか。
そういうところも含めて美しいと思っています。
──
この写真も、きれいですね。ホタルみたい。

山口
これですねえ。
光ってるのは、全部ワニの目です。
──
えー、信じられない量のワニ!
怖くないですか?
山口
はい!
このワニは、魚を主食にしている
おとなしい性格なので。
ブラジルのパンタナールっていうところで撮りました。
ワニの目には車のライトが反射しているんです。
──
それで、こんなにキラキラ輝いてみえるんですね。

(つづきます)

2025-06-01-SUN

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