アマゾン川。世界最大規模の河川。
教科書で習ったような気もするけれど、
よくは知らない、この川に、
何度も訪れて貴重な写真を撮影している、
フォトグラファーの山口大志さん。
その一枚の写真を撮影するのに、
数ヶ月かかることもあるという。
待てる力の源は何なのか、
そこまで魅了するアマゾンとは、
いったいどんなところなのか、
たくさんの写真をみながら
教えていただきました。
担当は、しもー（下尾）です。
- ──
- どういうふうに夢が叶っていったのかを
教えていただきたいです。
高校を卒業してすぐ、
カメラマンの道に進んだとですか？
- 山口
- いや、違いますね。
地元の工業高校に通学していたのですが、
みんな就職するというタイミングで
熱中していた音楽の道か、
好きな南の島の生き物と関わる道か、
漠然と悩んでいました。すると友達が
「こんなのあるよ。おまえにピッタリじゃない？」と
石垣島のダイビングの専門学校を勧めてくれたんです。
今はもうなくなってしまったけど、
知れば知るほど自分にぴったりでした。
親にも相談して、そこに進学しました。
- ──
- 親御さんはビックリしなかったですか。
- 山口
- そのときは「ま、よかっちゃない（＝いいんじゃない）？」
という感じでした。
あんまりダメって言われたことは、なかですね。
- ──
- 専門学校の間は、ずっと泳いでいたんですか。
- 山口
- そうです。
もう自分のやりたかように過ごしました。
ダイビングの授業で、海に行けるでしょう。
それ以外も休みの日は、
釣りにシュノーケリング、山にも登って虫とりも。
とくに昆虫採集にはハマってしまい、
ほかの離島にも遠征しました。 - チョウを採りに、
波照間、竹富、小浜、黒島、与那国へよく行きました。
あんな面白い体験はないっていうぐらい充実してました。
もう１回やりたかですね。 - 海が元気だったのも印象に残っています。
今はサンゴが少なくなってるけど、
当時はビーチから沖まで
足の踏み場がないほどサンゴが生えていました。
それはもう美しいひとときでしたね。
- ──
- 最高ですね。
- 山口
- ほんっとに、よかったです。
で、ほかの離島のなかでも西表島は違いました。
授業の一環で行ったとです。
環境省の西表野生生物保護センターで
特別天然記念物のイリオモテヤマネコの痕跡を探したり、
うんこを分解して
何を食べているか調べたりする授業でした。
そのときに西表島の自然にノックアウトされました。
人が少なくて海と森とマングローブだらけで。
日本で、こんなに自然が残ってる島は
ないんじゃないかと感動したんです。
同時に、この島にしばらく住んでみたいなと思いました。
- ──
- 次元が違ったんですね。
- 山口
- それで学校を卒業するというときに、
保護センターから求人の連絡があって、
「オレ行きます」と言いました。
- ──
- そんなことあるとですか！？
- 山口
- タイミングがよかったとですね。
それでイリオモテヤマネコの
調査研究員になりました。
- ──
- 調査研究員とは、具体的には何をするんですか？
- 山口
- ヤマネコの生態調査です。
ヤマネコを捕まえて、発信機をつけて追跡し、
島のどんなところを利用しているのか
調べる仕事でした。
- ──
- サラッとおっしゃいましたけど、
捕まえるってすごく難しくないですか。
- 山口
- 最初は難しかったんですけど、
職員に哺乳類の専門家がいて教えてもらいました。
それでも難しかったですね。
まず、けもの道がわからないですし。
それが見えるようになったのは、
イノシシ狩りの猟師に弟子入りしてからです。 - この島には「リュウキュウイノシシ」という
小型のイノシシがいて、
それをワナでとる猟師さんがいるんですよ。
猟期には島ナンバーワンの猟師さんと一緒に
山へ行っていました。
- ──
- 師匠から何を習ったんですか？
- 山口
- けもの道の読み方を習得しました。
森には動物が歩く道がたくさんあります。
そのなかに必ず通る道っていうのがあるとですよ。
師匠はモノトリの天才で、
イノシシのかすかな痕跡を見つけ、
そこにいた時間や、次の行き先を予測することができる、
すごい感覚の持ち主です。 - ３年ほど弟子入りしましたが、
ここで学んだことは、とても大きいです。
おかげでヤマネコの通り道も、
自然にわかるようになってきました。
アマゾンでも、その経験が、
すごく活きているっていう感じですね。
- ──
- めちゃくちゃつながってきましたね。
そのまま自分が好きなことに
忠実に生きていくうちに、
カメラマンになっていくんですか？
- 山口
- そうですね。石垣島にいるときから
カメラには興味を持ち始めて、
そのあと西表島に住んだら、
もっと島の自然を撮りたい衝動にかられて、
ポジフィルムで好きなように撮っていました。
この島には、いろんな人がやってきます。
研究者やマスコミ関係者も、
必ず野生生物保護センターに立ち寄ります。
撮りためていた写真を
ある雑誌の編集者に見せたら、
それが雑誌の表紙になったこともありました。
- ──
- え、表紙！？ すごいですね。
- 山口
- 当時はネイチャー系の雑誌やグラフ誌が、
元気だった時代ですね。
写真を使ってもらえたら面白くなって、
さらに撮影に、のめり込みました。
カメラの使い方は適当に
自分で覚えていったって感じですね。
- ──
- 最初は、独学やったとですね。
誰かに教えてもらったのはいつですか？
- 山口
- 西表島を出たあとです。楽園写真家で有名な、
三好和義さんのところに弟子入りしました。
- ──
- なぜ三好さんだったんですか？
- 山口
- 三好さんの写真は作品が生きている感じがしました。
時々、西表島から東京に行ってたんですよ。
ついでに写真や絵画の展覧会を見に行っていたのですが
三好さんの写真展だけ会場の空気感がちがう。
それがすごく印象に残っていました。 - ある日、知り合いの編集者の人が、
「明日、楽園（三好和義さんの事務所）に
用事があるけど、おまえも行く？」
と連絡をくれました。
すぐに返事をして
西表の写真を持参し見てもらいました。
この頃は、きちんと写真を学びたい
という気持ちが強かったですね。 - そういう経緯で、三好さんの助手になりました。
これはまた面白そうな世界だと思いましたよ。
そういう、いいタイミングやったですね。
- ──
- ご縁ですね。
そして、そこから
カメラマンになっていくんですね。
- 山口
- 楽園を卒業してからフリーランスになって、
自分だけの作品を撮りたいなと思いはじめました。
いよいよ、行くか、アマゾンへって感じでした。
- ──
- アマゾンの話に戻りますね。
これ、ビックリしたんですけど、
鳥がいるの、わかりますかね？ 何の鳥ですか？
- 山口
- これですねえ、ヨタカっていう鳥の仲間なんですけどね。
普通の人には見つけるのは困難かもしれません。
撮れたのは偶然かもしれませんが、
なんかこういうのね、見えるんですよ。
- ──
- 西表島の師匠に学んだからですか？
- 山口
- それもあるし、どちらかと言えば
少年時代の魚や虫とりの経験から、
鳥がいることに自然に気づく感覚です。
野外では歩いているだけで
「あ、いる！」って見えてきます。
例えば、河原でもチドリの卵とかよく見つけます。
- ──
- これは、どのくらい近くにいるんでしょうか。
- 山口
- わりと近いです。
あんまり近づいたら逃げるし、驚かしたくないから、
望遠レンズで静かに撮っています。
それにしても、見事な保護色。
落ち葉になりきったように見えますよね。
- ──
- このカエルも見つけたんですか？
- 山口
- アマゾンツノガエルですね。
夕方、ジャングルを散策中にいました。
大きさは、そんなになくて、手に乗るぐらいです。
これは魚眼レンズで寄っているので大きく見えます。
- ──
- どのくらいの距離で撮ったんですか。
- 山口
- 目と鼻の先です。
生き物は少しでも近づくと逃げるのもいますが
これはその反対でした。じっとしてましたね。
生き物にも、それぞれ性格があるんですよ。
- ──
- ということは、アマゾンツノガエルが
逃げにくいわけじゃなくて、
この子が逃げにくかったんですか？
- 山口
- かもしれませんね。
アマゾンには何度も行っとるけど、
このカエルは今まで一度しか見たことがないです。
現地で両生ハ虫類が好きな人にも尋ねたんですけど、
なかなか見られないようです。
面白いのは、口が大っきいですよね。
ヘビの赤ちゃんとか、口に入るものは
何でも、のみ込んで食うらしいです。
- ──
- ええっ。びっくりです。
愛嬌があって、そうは、見えないですね。
この写真、とても好きで、ずっと見ていられます。
- 山口
- 人気の写真のひとつですね。
でもこの撮影中は
ヌカカに刺されまくって疲弊しました。
それはもう耐えられないくらいに。
この虫は日本の渓流にもいて
糠のように小さい蚊という意味で、そう呼ばれます。
刺されると、じーんと熱をもって、
ものすごく腫れるんですよ。
夕方になると、この虫が
霞（かすみ）のように、群れて飛んで来る。
- ──
- いい写真の裏側で、そんなに大変なことが！
こんなふうに生き物を近くで撮影するときに
工夫していることってあるんですか。
- 山口
- よく観察することですね。
これはフラッシュを使っていますが、
被写体が美しくなるように、
ライティングは工夫して撮っています。
光と影のバランスを考えないと
作品にならないと思っとるけんですね。
- ──
- ひとつひとつ、丁寧に撮られているんですね。
（つづきます）
2025-05-31-SAT
-
今回ご紹介した写真は、ほんの一部で、
世界にはまだ見たことがない景色が、
こんなにも広がっているんだと驚かされます。
ページをめくるたびに、
生命力あふれる生き物たちに出会えます。Amazon.co.jpの販売ページはこちら
フジフイルム スクエア 企画写真展
希望（HOPE）
～みんなで考える動物の未来～山口さんを含む自然写真家
９名による写真展が開催されます。
夏休みには参加無料の
自由研究イベント「動物と環境のふしぎ」も
あるそうですよ。2025年7月25日（金）～8月14日（木）
（最終日は14:00まで） FUJIFILM PHOTO SALON
Space1 / 2 / 3 / MINI GALLERY