
アマゾン川。世界最大規模の河川。
教科書で習ったような気もするけれど、
よくは知らない、この川に、
何度も訪れて貴重な写真を撮影している、
フォトグラファーの山口大志さん。
その一枚の写真を撮影するのに、
数ヶ月かかることもあるという。
待てる力の源は何なのか、
そこまで魅了するアマゾンとは、
いったいどんなところなのか、
たくさんの写真をみながら
教えていただきました。
担当は、しもー(下尾)です。
- ──
- これは見たことがある気がします。
- 山口
- この魚はネオンテトラです。
もうほんと、ザ・熱帯魚の代表やけん、
知っている人も多いと思います。
大きさは3cmぐらい。
ネオンというだけあって、
青が光ってきれいですよね。 - 撮影はペルーのアマゾン川の上流です。
そこまで探しに行きました。
子どもの頃、熱帯魚が好きで、
最初に飼った魚のひとつだったんです。
- ──
- 佐賀県唐津市にネオンテトラがいたんですね。
- 山口
- そうです。
近所に唐津水族館っていう熱帯魚屋さんがあって、
自分にとって聖地でした。
親に買ってもらったことをきっかけに、
そこから熱帯への憧れがスタートしています。 - 水槽の魚や図鑑の生き物たちが
現地でどういう生活をしているのか、
どうしても自分の目で確かめたくて、
いつか探しに行こうと思っていたんです。
- ──
- なかなか、そうは思っても
本当には、探しに行けない気がします。
大きくなっても、思い続けたからこそ、
小っちゃいときの夢が叶えられた瞬間ですね。
- 山口
- そうですね。
道中いろいろありましたが、
がばい(=とても)感動しました。 - このときはイキトスっていうね、
ペルーの町に行って、
市場とか、いろんなところで
撮影したい魚の写真をみせて、聞き込みをしたんです。 - そこでラッキーにも「俺の村に、この魚いるぜ」
っていう兄ちゃんを見つけることができて、
「よし! 一緒に連れていってくれ。
もちろん日当も払うよ」と交渉成立。 - すぐ宿に帰って撮影の準備をしてから、
彼と約束した時間に船で待っていたのに‥‥
その兄ちゃん、来んかったとですよ。
- ──
- えーっ!?
- 山口
- そして船はアマゾンらしく遅れて出航。
おいおい、来なかったな、あいつ‥‥
と思いながら、美しい夕日を眺めていました。
まあ、彼に悪気はなかとですよ。
南米はすべてルーズですから。 - だけど、さあどうする?
そういえば、なんとか村って言ってたなと、
それで船長に、この村に行きたいんだけどって聞いたら、
手前で乗り換えないとダメだぞと教えてくれて。
うわっ、ややこしいと思いつつ、
まあいいや、なんとかなるだろう、
翌朝、中継地に着いてから考えようと寝ていたら、
真夜中に、船長がやってきて、
突然降りろって起こされました。 - えっ、と思う間もなく真っ暗の川岸に降ろされて、
懐中電灯をつけてみたら村が見えました。
ホテルどころか、民宿すらない小さな村。
野宿するにも、地面ではさすがに寝られない。
アマゾン一帯にはヒアリの仲間が、
うっとおしいぐらいおるし、刺されたらそりゃ痛いけん。
近くの家に「泊めてください」って言いにいきました。
- ──
- 知らない民家に突然ですか?
- 山口
- そうです。夜中の1時。
南米は強盗も多いけんですね。
旅人がそれと間違われて銃で撃たれたりするんで、
そのへんは特に気をつけました。
緊張しながら、コンコンとノック。
カタコトのスペイン語でお願いしたら
ありがたいことに快く部屋を貸してくれることに。
ああ、よかったと。
ホッとしてドアをあけたら、なんと土間でした。
ニワトリのうんことか、散らばっていて
とてもじゃないけど、これ寝られんやろと。
で、困り果てながら思い出したのがハンモックでした。
携帯用のをリュックに持参していて、
マジでよかったです。
それをテラスに吊るして寝ました。 - その翌朝、村のはずれの川の上流に
目的の村があることを教わり、
小さな木彫りの船に乗り、
また何時間か移動して、ようやく着きました。
そこでまた、ネオンテトラを知っている人を
イチから探すことに。
- ──
- 大冒険ですね(笑)。
- 山口
- 半日聞きこんで、
知ってるよというおじさんをみつけたので、
その村人とカヌーで支流から
また別の支流に入り、
ジャングルを歩いて歩いて、
また川があって、そこに、やっといました。
- ──
- ようやく!
- 山口
- 水深が30センチぐらいの、
足をいれたら、ズボーッて、
積もった落ち葉に沈むような小川。 - ここには他にも、いろんな熱帯魚がいっぱいいて、
ハチェットやテトラの仲間、
ナマズのコリドラスとかも出てきて、もう大興奮!!
- ──
- ほんとにいたー! ってなりますよね(笑)。
- 山口
- 至福の時間やったね。
何かがいそうなところは水中メガネですべて見ました。
アナコンダもいたけど別に気にしない! そりゃいるでしょ。
すべてが面白くて、しばらくは夢中で観察を楽しみました。
こんな塩梅で、ようやく撮れたっていう感じですね。
撮影は上からストロボを入れ、
魚が美しく写るように工夫しました。
- ──
- 実際に見て、どうでしたか?
本物がそこにいるっていうのは。
- 山口
- いやあ、もう野生の色は美しかったです。
形もスマートな体型をしているなって。
天然物と養殖物は違いました。
- ──
- 体験できて、よかったですね。
- 小さいときは昆虫採集にも夢中になったそうですが、
チョウの捕まえ方のコツはありますか?
- 山口
- ピュッピュッて動きよったら、虫は逃げるけん。
じゅわぁーっていくような感じ。
- ──
- いっちょん(=全然)わからんとですけど(笑)。
- 山口
- こちらの小刻みな動きは生き物には
なんかバレるとですよ。
だから山に落ちる影のように
スーッとゆったりと動く感じ。
ああいう気持ちで、動くと逃げにくいかな。
- ──
- 自然と一体になった気持ちで、
察されないように動くんですね。
アマゾンでもチョウの写真を撮られていますね。
- 山口
- これはね、甲羅干しをしているヨコクビガメに
チョウが集まってきた写真です。
水からカメが出て来たら、
不思議とチョウが集まってくるんですよ。
それをよーく見ていると、
チョウはカメの鼻水を食べている。
- ──
- へーっ。何で鼻水を食べるんでしょうか。
- 山口
- 塩分やミネラルなど、
花の蜜では取れない養分があるんでしょうね。
- ──
- ミネラルって、
アマゾンの生き物にとって大事なものなんですね。
- 山口
- 人も、世界中の動物も、塩分やミネラルが必要です。
特にジャングルには、葉や果物は豊富だけど、
それらは少ないようです。
だから、動物の死体、糞や尿、汗や鼻水さえも
動物たちは食べています。
あらゆるものを利用して生きているのです。
- ──
- 生きようとする力が、すごいですね。
このチョウは、とても美しいですね。
- 山口
- これは、モルフォチョウですね。
動物の糞尿を吸いに地面にきたところです。
大きさは、アゲハよりも少し大きいぐらいです。
これもやっぱり見たかったですねえ。美しいですから。 - 子どものころ、大好きな昆虫や鳥の図鑑を
親から買ってもらって、
1日1ページ、模写していました。
写すうちに、分布や説明も自然に覚えるじゃないですか。
現地への憧れと、いつかそこに行こうぜって想いをもって、
大人になって行ってみただけです。
- ──
- これもアマゾンにいるぞって
小さいときに図鑑を見ていたから、わかったんですね。
絶対に、そこに行きたかったんですね?
- 山口
- そうです。
まずは現地の空気を知りたい。
本やテレビ、YouTubeでもそれは体感できないから。
自分の目と肌で触れたい。
野生のモルフォの生きている輝きは
行かんとわからんけんね。
実際に、翅のすみずみまで体液が流れている
生きた姿は本当に美しかった。標本とは輝きがちがう!
【※翅(はね):昆虫類のはねを表す漢字】
- ──
- 翅が開いたところを撮ろうと思って行くんですか。
- 山口
- すごくいい質問ですね。
これが、なっかなか開かんとですよ。
空から着地し、餌を食べようとするときに、
フワッ、フワッと、2〜3回、翅を開く。
そのあとはピタッと閉じたままです。
タイミングをみてスーッと
近づいて撮らないといけない。
興奮すると、それが以心伝心して逃げてしまうから。
- ──
- テンションがあがったら、バレちゃうんですか?
- 山口
- 見たい、撮りたいって思うほど
逃げる感じがするから、心を静かに撮ります。
面白いのは、このチョウは
翅を閉じると裏は地味な茶色です。
だから飛ばないと、なかなか見つけられんとですよ。
- ──
- キラッとしないと、わからないですね。
- 山口
- そう。飛行中はカメラのフラッシュみたいに
キラッと光ってよく目立つから、
それをずっと目で追って探して撮ります。
- ──
- 気長な作業ですね。止まらないと撮れないから。
- 山口
- んー気長かな。なかなかいい時間ですよ(笑)。
- ──
- わあ! そうか。
飛んでいるのを見ているだけでも
楽しいってことですね。
- 山口
- もうほんとに、面白い。
このチョウが発生する時期は
乾季から雨季に変わるころです。
ジャングルの湿気が高くなると
サナギから出てきて、
わりと見られるようになりますね。
- ──
- そういうことは、
何回も行くことで学んでいくんですか。
- 山口
- そうです。ダメだったらまた、
違う季節にも行こうぜみたいなノリです。
- ──
- 他にアマゾンの昆虫に、特徴はありますか?
- 山口
- アマゾンに限らず、熱帯にいけばいくほど、
昆虫は、体のサイズが、大きくなります。
カブトムシとかカミキリムシとか、
やたらでかくなりますよ。
- 山口
- ジューって果汁をすするように食べていました。
デッカいカミキリ虫。これ、村の人が飼っていて。
それを撮らせてもらいました。
- ──
- 飼うって、カゴか何かに入れて?
- 山口
- いや、テーブルの上に、ほったらかし。
- ──
- それ飼ってるっていうんですか(笑)?
- 山口
- 飼ってるんじゃない?
だってエサあげてたから(笑)。
体が13センチくらいあって、ただでさえ大きいのに、
触覚はそれよりもずっと長かったですね。
めちゃくちゃカッコいい虫。
(つづきます)
2025-05-30-FRI
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