アマゾン川。世界最大規模の河川。
教科書で習ったような気もするけれど、
よくは知らない、この川に、
何度も訪れて貴重な写真を撮影している、
フォトグラファーの山口大志さん。
その一枚の写真を撮影するのに、
数ヶ月かかることもあるという。
待てる力の源は何なのか、
そこまで魅了するアマゾンとは、
いったいどんなところなのか、
たくさんの写真をみながら
教えていただきました。
担当は、しもー（下尾）です。
- ──
- まず私と山口さんが佐賀県唐津市出身で、
地方の方言がうっかり出てしまうかもしれません。
と、伝えてから始めたいです。
- 山口
- そうね。つい唐津弁で、しゃべってしまうけんね。
- ──
- ふふ、そんなに通じらんところは、ないと思いつつ、
お話を進めていければと。 - 山口さんはフォトグラファーで、
『AMAZON 密林の時間』という写真集を出されています。
他にも輝かしい経歴をお持ちなんですけれども、
今日は、この本にまつわるお話をお伺いできればと思います。 - まずは、アマゾン川って、どのへんにあるとですか（笑）。
- 山口
- 南米ですね。
アンデス山脈を源流に大西洋に流れる、
世界最大の流域面積を持った川。
それがアマゾン川です。
その巨大な水系はブラジル、ボリビア、
ペルーなど８ヵ国に広がっています。
- ──
- そんなに国をまたいでいるんですね。
- 山口
- まるでヘビのように、うねりながら、
たくさんの支流が本流に注ぎこみ
川が、どんどん大きくなっていきます。
面白いのは土地がすごく平坦なんですよ。
ジャングルに覆われた大平野です。
- ──
- えっ、そうなんですか！？
- 山口
- 高い山は、河口から4000〜5000キロ離れた
アンデス山脈まで、ほとんどありません。
実にゆったり流れていくとがアマゾン川の特徴です。
- ──
- もうちょっと想像するために、
こちらの写真をご覧ください。
こちらは、空から見たアマゾン川ですか？
- 山口
- ネグロ川というアマゾン川の大きな支流のひとつで、
セスナから空撮した写真です。
これは、狙って撮りにいきました。
熱帯地方には乾季と雨季があって、
写真はちょうど雨季が終わるころです。
川の水がいっぱいになり、
ジャングルが沈んでしまいます。
- ──
- えっ、ジャングルが沈む？
じゃあ、木の途中まで
川があがってくるとですか。
- 山口
- そうです。その水位の高低差は
およそ10メートルぐらいあります。
例えば、日本の街の中だったら
乾季のときには歩道や信号機が出てきて、
雨季になったら水没してしまうという感じです。
- ──
- また乾季に、空から撮ったら
全然違うってことなんですね。
- 山口
- 水が引いて陸地っぽいところが、
もっと出てきますね。
- ──
- これ、海じゃないってことですよね。
全部が川なんですか？
- 山口
- 見たことがない人には、
アマゾン川は、まるで海のように見えます。
なぜなら河口に九州がすっぽり入る大きさだから。
- ──
- ちょっと全然想像がつかんです（笑）。
- 山口
- わからんですよね。
広大な水と緑の世界です。
- ──
- へえー、すごかですね。
さっきセスナの話がでましたが、どうやって撮るんですか。
飛行機から身を乗り出すとですか？
- 山口
- 身を乗り出すと落ちるけんですね。
飛ぶ前から、もうドアをとっとくとですよ。
窓ガラスごしやったら
鮮明な写真が撮れんけんですね。
命綱のシートベルトは、しています。
ちなみに、ここは滑走路から
50キロメートルぐらい飛んでいます。
- ──
- えっ、その間ずっとドアが、なかとですか？
- 山口
- なかですよ。強風で機体がゆれるばってん、
この景色が、ずっと出てくるから、
なんといったらいいんだろうか、
来ちゃいけない世界に来たな、
ってすごく感動しました。 - 今はどこもかしこも人間が地球を壊しとるけど、
アマゾンだけは、
地球の裏までジャングルが続いてるようで、
まだ未来があるなと思うんです。 - そんな見たことのない美しい世界が広がるから、
窓はない方がいいぐらいです。
「スカッと晴れて、水と森と雲が美しく映る風景」
を撮りたかったけん、これは、うまくいきましたね。
- ──
- すごくキレイですもんね。
次の写真にいきますね。
これはどういう状況でしょうか。
- 山口
- ふたつの川が合流するところです。
右の黒い川は、さっきのネグロ川で、
ベネズエラから流れてきます。
左の白く濁った川はソリモンエス川で、
ペルーのアンデスから流れてきます。
- ──
- ふたつの色が真ん中で分かれていますね。
- 山口
- 水の性質が違うとですよ。
黒い方は酸性ですね。
ジャングルの枝や葉が川に落ちて、
その成分が出てくるわけです。
お茶みたいなもんですよ。
お茶も煮たらエキスが出てくるでしょ？
その量が半端じゃないから、
こんな色のブラックウォーターになるんです。
左の方はアンデスから勢いよく流れてくるので、
泥土が、たくさん混じって濁ります。
左が中性、右が酸性、水の質が違うので、
すぐには混じらんとですよ。
でもやがてはブラックコーヒーとミルクが混じって
カフェオレみたいになって大西洋に流れていきます。
- ──
- 最終的には一緒になるんですね。
- 山口
- ここから、どうかな、
1,000kmぐらい下では、だいぶ混じってますよ。
- ──
- はー、果てしなかですね。
これは今、空からの写真ですけど、
船でも、このあたりは行ったことがあるとですか？
- 山口
- もちろん、移動のときには船にも乗っています。
写真のぽつんと見える白い船。あれは大きな旅客船ですよ。
何百人も乗る大きな船ですけど、
川が大きいから小さく見えますね。
ああいうのに乗って、あっちこっち行きました。
- ──
- 川って、どういう匂いがするんですか？
海だと磯の香りのイメージがありますが。
- 山口
- いや匂いは、なかですよ。
現地は湿潤なので、感じるのは湿気のほうですね。
だけど日本の６月の梅雨の感じとは、
またちょっと違うし。
ムンっと湿気を帯びた熱帯の空気が漂っています。
- ──
- そうなんですね。
つづいて、こちらは、
コーラみたいな色をしていますが。
- 山口
- これはネグロ川の浅瀬です。
底が砂地のところは、こういう赤い色をしています。
黒く見えているのは流木です。
ここは水が透き通っていたから、
すぐ水中メガネをつけて、魚を探しに行きました。
泳いで、潜って、観察する。
- ──
- 簡単におっしゃってますけど、
危ない魚はいないんですか？
- 山口
- たまには、おるけど、
意外と魚たちは臆病だから大丈夫です。
何かあったら、そのときは、そのときで。
もちろんピラニアもおるし、とくに
ワニには気をつけないといけないですね。
- ──
- でも潜りたい気持ちのほうが勝ちますか？
- 山口
- そうそう。
やっぱり見たことのない世界が、
ここにあるけんね。
- ──
- こちらも、とても鮮やかで、すてきです。
- 山口
- これは写真には大きく写っているけど、
体長2.5センチぐらいのゴキブリです。
- ──
- ゴキブリ？ めっちゃきれいですけど。
- 山口
- きれいですねえ。私たちが知らないだけで、
世界には、いろんな種類のゴキブリがいるんですね。
名前は、グリーンバナナゴキブリです。
ヘリコニアの花の蜜が染み出ているのか、
それを食べているところです。
- ──
- ヘリコニアは、おいしいんでしょうか？
いい匂いもしそうです。
- 山口
- これを輪切りにして汁をなめてみたんですが、
キュウリのような味や香りがしました。
- ──
- 花が赤いから、とっても甘いのかと思いました。
- 山口
- 自然の中には、お菓子のような
強烈な甘さのものはほとんどありません。
ぼんやりした感じのものが多かですね。
ジャングルの果物を拾って食べてみても、
そう甘くはなかったです。
- ──
- 確かめずにはいられないんですね（笑）。
植物にも面白いものがたくさんありそうですね。
- 山口
- 例えばこれはブロメリアっていう
パイナップルの仲間で、
南米には、いろんな種類があるんです。
アフリカやアジアにはないから、
ジャングルの景観がより面白くて美しい。
この写真のように木に着生しています。
- ──
- え？ 他の木にくっついているんですか？
- 山口
- 他の木が育っている上に生えています。
この植物は、
少し標高のあるところに多く生えていて、
葉と葉のすき間に水が溜まるから、
乾季の水が少ない時期には、
鳥やサルが、そこで水を飲むような
オアシス的な役目を果たしています。
この小さな水たまりには
カエルの仲間が卵を産んだりすることもあります。
- ──
- すごい。命の循環ですね。
- 山口
- 生き物たちは何でも利用して生きていますね。
この植物、意外とデカいものもあります。
木の上から落ちたひと株と
人を比較して撮りました。
大きさは１メートルぐらいあります。
これもブロメリアの仲間です。
- それから、有名なマチュピチュの古代遺跡。
あの辺りにも、撮影のついでに何回も行ってますけど、
この仲間が岩壁にビッシリついとって、すごかったです。
遺跡もすごいけど、
数百メートルもある切り立った崖に
何千株ってついとるけんですね。
人が住むずっと以前から、この植物はここで生きてますから。
すごかとです、ほんとに。
（つづきます）
2025-05-29-THU
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今回ご紹介した写真は、ほんの一部で、
世界にはまだ見たことがない景色が、
こんなにも広がっているんだと驚かされます。
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