
アマゾン川。世界最大規模の河川。
教科書で習ったような気もするけれど、
よくは知らない、この川に、
何度も訪れて貴重な写真を撮影している、
フォトグラファーの山口大志さん。
その一枚の写真を撮影するのに、
数ヶ月かかることもあるという。
待てる力の源は何なのか、
そこまで魅了するアマゾンとは、
いったいどんなところなのか、
たくさんの写真をみながら
教えていただきました。
担当は、しもー(下尾)です。
- ──
- この動物は?
- 山口
- カピバラです。
- ──
- え。カピバラって、
こんなに激しくジャンプするんですか。
- 山口
- 野生のカピバラは走りますよ。
手前に小さいワニがいますけど。
突然でビックリしたんじゃないですかね。
このときは、カヌーで川を移動してたんですよ。 - すると、ドドドドドッて
なんか緊張感のある音がしてきました。
やがてカピバラたちが
目の前をターン、ターン、と川をジャンプして
対岸へ逃げるように去っていったんです。
何かに追われていた感じに見えました。 - このあたりには、カピバラはどこにでもいて、
日本の動物園みたいに、
日光浴してボーッとしているのもいます。
だけど野生のカピバラの耳はいつも立ってますよ。
まわりに危険がないか常にチェックしてますから。
- ──
- 敵がきたと思ったら、すぐ逃げるってことですね。
この写真は、強烈ですけど。
- 山口
- クロガオクロクモザルが
地面で土を食っているところです。
- ──
- 土? またミネラルですか?
- 山口
- ジャングルのなかには、
動物たちが土を食べにくるところがあります。
鳥、バク、シカやヤマアラシの仲間まで。 - それで研究者の方にも話を聞いてみたら、
謎だらけだったんです。
動物がよく食べている場所の土と
それ以外の土を分析器にかけたところ、
土の成分は、ほとんど変わらなかったっていうから。
- ──
- ええーっ。
- 山口
- だから他に考えられるのは菌か、また別の何か。
動物たちにしかわからない、何かが、あるんですよ。
だって観察していると、うまそうに食べてましたから。
で、どんなものかと自分も味見したけど
全然おいしくなかった。
- ──
- 土も食べちゃったんですね(笑)。
- 山口
- だって、日本に帰ったら、もうわからんけんね。
試食では、やっぱり土の味で、
ザラザラした食感で、とても食えなかったです。
何回食べてもダメでした。
- ──
- ふふ。土ですもんね。
このサルは、どのくらいかけて撮ったんですか?
- 山口
- 3ヵ月かかりました。
このサルは、ものすごく用心深くて、
ひと月に2~3回しかやってきません。 - 木の上から地面に下りる途中で帰るときもあるし、
雨が降ったら、もちろん来ない。
やっと来たと思っても、ジャガーを怖がっているので、
地面に降りるまで、
だいたい4時間ぐらいかかっていました。 - こっちは、その様子を
ヤシの葉っぱでカモフラージュした、
隠れ小屋からずっと見ていました。
- ──
- え、3ヵ月間、その小屋におるとですか。
- 山口
- そう。朝6時から夕方6時まで、ずーっと。
で、決定的によく撮れたのは1枚だけでした。
- ──
- 目が合ってますもんね、これ。
- 山口
- クモザルが土を食う様子は、
まるで人間みたいで驚きましたよ。
- ──
- 本当ですね。
そして山口さん、こんな格好で、撮影してたんですね。
これ、全身黒くないですか?
- 山口
- そうです。
このジャングルに住んでいるマチゲンガ族の人たちが、
子どもに何か塗っているのを見たんですよ。
それは何かと聞いてみたら、虫よけだって言うんです。
で、全身が真っ黒だった。 - 動物を撮影するときは、
なるべく目立たないように、
できるだけ黒っぽい格好にしています。
明るい色だと目立つから、
これは都合がいいなと思ったとです。
虫よけとカモフラージュの一石二鳥。 - やり方は、ウィットという木の実をすりつぶし、
水を混ぜ、その汁を塗るんです。
翌朝には、肌が黒紫色になっていました。
自分でも起きてビックリ。
- ──
- これは、どのくらいで落ちるんですか。
- 山口
- 3週間ぐらいで落ちてきます。
まだら模様になるんですけど。
1ヵ月でだいぶ落ちて元どおりになります。 - 帰国まで、あと2ヵ月半あるから
それもよく考えて変身しました。
もとの顔に戻らないと出入国のときに
トラブっては面倒ですから。
- ──
- 何でも挑戦されるんですね。
そして、そんなに長持ちするんですね。
- 山口
- そうです。だけど蚊には刺されました。
このジャングルでは蚊との戦いでした。
蚊を叩くと、
その音でサルが逃げていくから叩けないんですよ。
虫よけスプレーも、
薬の匂いで動物が逃げるような気がしたから、
それもできない。
だから蚊を見つけたらスッと手でキャッチ。
静かに握りつぶすんです。
3ヵ月の間に、ビールジョッキから、
こぼれるくらいの量の蚊をとりました。
- ──
- うわあ。静かなたたかいですね。
待ってる間は、他に何をするんですか。
- 山口
- スケッチです。
木の実とか花とか拾ってきて、ひたすら描く。
でも撮影に来たから、描きながら耳は立てています。
動物が来たかどうかは、
音でわかりますから。
- ──
- すごい集中力ですね。
これもすっごく、きれいですね。
- 山口
- これも土を食べに集まってきてるんですよ。
ベニコンゴウインコというインコの仲間。
羽を広げた大きさは1メートルぐらいあります。
この鳥も子どもの頃から、
見たい鳥のひとつだったんです。
撮影は、ずいぶん遠くまで行きました。
- ──
- 羽の音が聞こえてきそうです。
- 山口
- それも聞こえるし、鳴き声も大きい。
ギャーギャーって響いて聞こえます。
こういう一斉に飛んでいるところを撮りたかったので、
何回も行きました。
急に雨が降りだして鳥が来ないことや、
晴れても何故かいないこともあります。
- ──
- このとき、一斉に飛び立った理由はなんですか。
- 山口
- 猛禽類の仲間が来ると、
怖がって飛んでいくんですよ。嫌なんでしょうね。
インコの方がずっと大きいのに、と思いましたけど。
1羽が飛び出すと、あわせて一気に飛びます。
すごいですよ、色の鮮やかさが。
多いときには200羽くらい集まりますからね。
- ──
- そんなに!?
これは、何ヵ月くらいかかったんですか。
- 山口
- ひと月半くらい。
ジャングルの風景や昆虫の撮影をしながら、
6、7回この場所には行きました。
その度にボートを出さないといけない場所で、
どうしても費用が高くつきます。
この1枚を撮るために、何十万も使いました。
- ──
- セスナや、ボート、ガイドの方とか、
他にも、お金をいっぱい使いますよね。
1回行くのに、いくらぐらいかかりますか?
- 山口
- 300万くらいは、かかるんじゃないですかね。
スーツケース5個分くらいの
撮影機材もあり交通にも追加料金を払いますから。
もちろん撮影地によって波がありますけど。
- ──
- でも1回行っただけじゃ
撮れないこともあるんですもんね。
この本を1冊つくろうとすると?
- 山口
- あー、どうだろう、
家が建つぐらいかかってるんじゃないですか。
- ──
- ひ〜っ。
- 山口
- アマゾン撮影の初期のころはですね、
節約しながら取材していたんですけど、やっぱりダメ。
最前線に行くときは、
少し高くても代金を払って飛行機を飛ばし、
いいエンジンのついたボートで遡上しないと、
いつまでたっても、たどり着けないです。
そういうのがわかってから
お金は可能性だなって思うようになりました。
それも大事なことでした。
- ──
- 応援してくださる方がいるとありがたいですね。
- 山口
- ありがたいですねえ。本当に面白いとこなんで。
いつかアマゾンに住んでいる魚の生態を
まとめた1冊を出したいんですよね。
- ──
- わあ、楽しみです。
山口さんのアマゾンでの撮影は基本的に全部長いですね。
- 山口
- 最長は半年ほど行きました。
そのときは、ずっとジャングルってわけでもなく、
街にもいたし、遠くの川にも、たくさん潜りました。
好条件の撮影地を探すのにも時間を要しましたから。
だけど自分には3ヵ月ぐらいが、
ちょうどよかったですね。
取材をくり返していくうちに、
長すぎる滞在は感度が落ちて、
すべてが当たり前になってくるんです。
慣れとは、怖いものですね。
区切って行った方が集中できました。
- ──
- それも、何回も行ったことで学ばれたことなんですね。
最後の写真です。とても美しいですね。
- 山口
- これは2羽のハチドリがケンカをしているところです。
アンデスよりのジャングルで、
このハチドリを見つけました。
綺麗な鳥をただ撮るだけでは面白くないから、
しばらく観察をしていると
偶然にも2羽がケンカしているところを見て、
面白い、これだ! と。
しかし、いつケンカが起こるかは分からないので、
また待つしかないなと思いました。
- ──
- これは、どのくらい待ったんですか?
- 山口
- およそ、ひと月です。
この作品は、画面から羽根が、
ちょっと出ちゃったけど、
これ以上ねばったら
いつ日本に帰れるかわからんと思って(笑)。 - これでいいのか葛藤はありましたが、
ほかに撮りたい生き物の撮影もありましたし、
ハチドリが興奮する面白さが写っていたからOKです。 - 目の横の飾り羽が、ピッと立っているのがわかります。
うわっ、こんなことやってるのかとビックリしました。
こんな瞬間は人の目には見えません。
生き物の面白い生態写真は、
やっぱり時間がかかりますよね。
- ──
- 山口さんって、
どうしてそんなに待てるんですか。
- 山口
- 遠い国の憧れの生き物が目の前にいる。
それだけで楽しくて面白いですからね。
ユニークな写真を撮るには、
チャンスがあると思ったら、待つしかありません。
とくに子どもたちには、
このような写真をきっかけに生き物のことを
知ってほしいなと思います。
だって、私たちも自然の一部だから。
(おわります)
2025-06-02-MON
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今回ご紹介した写真は、ほんの一部で、
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