
数々のヒット作品を世に送り出してきた
マンガ編集者の江上英樹さん。
じつは大の鉄道ファンとして知られ、
ジグザグ線路「スイッチバック」のことを
こよなく愛しているといいます。
そんな江上さんがとくに惚れ込んだのが、
島根県の奥出雲にあるスイッチバック。
その圧巻のスケールを体験するため、
現地までいってみることにしました。
木次線のこと、スイッチバックのこと、
江上さんの熱いお話もたっぷりお届けします。
現在、TOBICHI東京では
「ジオラマと鉄道マンガ展」も絶賛開催中です。
江上英樹(えがみ・ひでき)
漫画編集者、合同会社部活代表
1958年、神奈川県生まれ。
小学館入社後、『ビッグコミックスピリッツ』など
青年誌の編集を担当。
2000年に『ビッグコミックスピリッツ増刊IKKI』
(2003年から『月刊IKKI』)を立ち上げ編集長に就任。
スピリッツ時代、IKKI時代を通して、
数多くのヒット漫画、名作漫画を世に送り出す。
2020年7月「部活」を設立。
鉄道分野では「スイッチバック」をこよなく愛し、
「I love switchback」なるHPを管理している。
現在は、その集大成として
『スイッチバック大全(仮)』を編集中。
・公式サイト:I love Switch Back
・ツイッター:@TETSUHEN
- 江上さんとめぐる奥出雲の旅、
これで最終回になります。
最後は巨大ジオラマを見ながら、
江上さんの思いをたっぷりうかがいます。
TOBICHIでの展示は8月13日まで開催中です!
▲このときは島根県雲南市の「チェリヴァホール」で展示されていました。
- ──
- これが江上さんのジオラマですね!
おおぉーー、すごい!
- 江上
- じゃ、じゃーーん!
半年ぶりに見たんですが、
あらためてすごくないですか、これ!
よくつくったな、これ!!
▲出雲坂根のスイッチバックを完全再現!
▲あの「クロッシングポイント」も完全再現!
▲トンネルのようなあの「小屋」も完全再現!
- ──
- おぉぉ、超リアルじゃないですか。
自分が行った場所だけに、けっこう感動しますね。
え、実際に列車も走るんですよね。
- 江上
- 走ります、走りますとも!
このジオラマのポイントはね、
自動運転ってことなんです。
きちっと2列車がぶつかることなく、
交換していくっていうのはなかなかないです。 - 実際にいま、出雲坂根駅で
「奥出雲おろち号」と普通列車の交換がありますが、
それと同じことをジオラマ上で再現できます。
- ──
- おぉーー。
- 江上
- 下からの列車と上からの列車が、
出雲坂根駅で入れ違って、
上がり下がりが逆になります。
これをひとつのプログラムで
自動でできるようになっているんです。
- ──
- 信号も光ってますね。
- 江上
- 信号もポイントも自動で切り替わって、
列車も自動で動きます。
信号はちゃんと赤や青になります。
信号も連動してるというのは、
けっこうなかなかすごいことだと思います。
- ──
- そういう自動プログラムも、
江上さんがつくったんですか?
- 江上
- いやいや、ぼくじゃないです。
じつは東京の下町に
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の
ドクみたいな人がいるんですよ。
- ──
- ‥‥はい?
- 江上
- 東京の下町にUFOが刺さったビルがあって、
そこの1階に「UFOの修理します」って
書いてある工場があるんです。
‥‥これ、ホントの話ですからね。
- ──
- はぁ。
- 江上
- つまり、なんでもできる工場で、
木工でも金工でも溶接でも、
何でもできる道具がいっぱいあって、
ほんとうになんでもつくってくれるんです。
そこのご主人につくってもらいました。
- ──
- そのご主人というのが‥‥ドク?
- 江上
- そうです。
すでに半分引退してるんだけど、
いまでも周囲からいろいろ頼まれては、
忙しくされています。
なので、ぼくも頼んじゃうわけです。
「スイッチバックの自動運転をやりたいんですけど」って。
- ──
- なんだかよくわかりませんが、
江上さん、すごい人を味方につけましたね‥‥。
▲UFOというワードに「チェリヴァホール」のルナさんも興味津々。
- 江上
- もうほんとに感謝してます。
今回のシステムまわりは、
その方がいなかったら完成してなかったです。
- ──
- じゃあ、そういう部分以外は、
江上さんが設計図を描いたりして。
- 江上
- そうです、そうです。
線路を買って並べたりして、
最初はフリーハンドで駅や道路の配置を決めて。
- ──
- 地形を測量するだけでも大変ですよね。
- 江上
- そこまで完全じゃなくて、
けっこうデフォルメしてるんですよ。
横幅3メートル60センチあるんですけど、
厳密にやると5メートルは超えます。
だからちょっとだけコンパクトにしました。
- ──
- そういうデフォルメもあるんですね。
- 江上
- それでいうと、二段目にあるS字カーブ。
実物は単純に同じ向きのカーブが続いてます。
でも、あえてジオラマの中では
クニャッとS字カーブを入れています。
なんでそうしたかっていうと、
このほうがかっこいいから(笑)。
- ──
- わかりやすい(笑)。
- 江上
- クネクネ曲がったほうがかっこいい。
そういうデフォルメは若干入ってます。
基本は本物に合わせてますけど、
そういう遊びも多少入れたりしてます。
- ──
- S字カーブ、注目ポイントですね。
- 江上
- 動いてるのを見ればわかると思いますけど、
やっぱりクネッていうのがかっこいいわけですよ。
撮り鉄ってけっこう好きなんです。
こういうクネクネしたところ。
- ──
- ところどころに
ミニチュアの人がいるのもいいですね。
- 江上
- なんとなく物語がありそうな感じにね。
たとえば、この桜のところに
男の子と女の子がいるんですけど、
これね、たぶん告白なんじゃないかと。
- ──
- それは気になるシチュエーションです。
- 江上
- 女の子が木の下で待ってて、
そこに男の子が駆けつけてるんですよね。
なんかわかんないけど、甘酸っぱい。
甘酸っぱい予感がする。
- ──
- ちょっと離れた場所で女の子たちが見てます。
- 江上
- そうそう、ここもなんかドラマがあるよね。
- ──
- 近くで見るといろいろ想像が膨らみますね。
- 江上
- おまけのようにいうとね、
ここのガードレール、ぶつかった跡があるでしょ?
- ──
- たしかに、ちょっとゆがんでます。
- 江上
- 現地もここだけゆがんで錆びているんです。
ここは最初から再現したかったところ。
でも、これが悲惨な事故だったら嫌じゃないですか。
- ──
- たしかに。
- 江上
- それで一応調べてみたら、
除雪車が誤ってぶつけた跡みたいで。
幸いケガ人もいなかったので、
ジオラマの中でこうやって再現してみました。
- ──
- いわれないと気づかない(笑)。
- 江上
- ま、知らない人にとっては、
どうでもいい情報なんだけどね。
▲島根県名水百選のひとつ「延命水」も完全再現!
- ──
- このジオラマをTOBICHIで展示するんですね。
どんな反応があるかたのしみです。
- 江上
- ぜひ見に来てほしいです。
できればジオラマを運転する日に来てもらって、
「スイッチバックってこんな感じなんだ」
ってのを知ってもらいたいですね。
- ──
- 日本では貴重なZ型ですもんね。
- 江上
- このジオラマを見て、
現地に行ってみたくなったとか、
スイッチバックってかっこいいなとか、
そんなふうに思ってもらえたら最高ですね。
- ──
- それにしても昔の人はすごいですね。
こんな斜面にこんな方法で鉄道を通しちゃうなんて。
- 江上
- しかもあの急勾配は、
前の駅からずっとつづいてますからね。
ほんとうにすごいです。
当時は蒸気機関車だったわけで、
スイッチバックしない限り、
どうがんばっても無理だったんでしょうね。
- ──
- つまり、苦肉の策ってことですよね。
スイッチバックは。
- 江上
- そうそう、まさにそうなんです。
できることなら、スイッチバックなんて
やりたくないんですよ。
機関車をバックさせて逆走させるなんて、
そんな面倒なこと誰もしたくない。
でも、そうしないとその先には行けなかった。
- ──
- それ、すごい決断ですよね。
- 江上
- すごいと思います。
きっとスイッチバックの採用を決めた会議があったはず。
その内容を知りたいですよね。
- ──
- そういう記録は見つかってないんですか。
- 江上
- 見つかってないんです。
でも、きっとそういう会議があったと思う。
どうやって決めたかわかりませんが、
「しょうがない、1回戻ろう!」って。
そうやって決断した瞬間が愛おしいですよね。
- ──
- 「ここまで行って、ちょっと1回戻りましょう」と。
- 江上
- この駅と三井野原までって、
直線距離で1kmちょっとなんです。
そんなに遠くない。
でも、線路の長さは6km以上あります。
つまり、それだけ山間を
ぐるっとまわってのぼっているんです。
- ──
- あ、そんなに遠まわりしていたんですね。
- 江上
- 当時は長いトンネルは掘れなかったから、
小さく刻んで山をのぼるしかなかったんです。
つまり、スイッチバックというのは
昔の人の「つなげたい」「登りたい」
「先に行きたい」という、
そういう思いが詰まったものなんです。
- ──
- できることなら、
いつまでも残ってほしいですね。
- 江上
- ほんとにそう思います。
こんなすごいものは、
もう二度とつくれませんからね。
スイッチバックもここの美しい風景も、
いつまでもこのまま残ってほしいですよね。
(奥出雲取材は、これでおしまいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!)
2023-07-25-TUE
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江上英樹さん渾身の巨大ジオラマは、
8月13日(日)までTOBICHI東京で見られます。Z型のスイッチバックはもちろん、
出雲坂根の駅舎や周辺の景色まで、
実物そっくりなNゲージの鉄道ジオラマです。会場でオリジナル切符(100円)を購入し、
改札口で日付を入れてからご入場ください。
巨大ジオラマの他にも、
松本大洋さんの未発表の原画、
木次線が登場する
鉄道マンガのパネル展示もおこないます。実際に列車が走るところは、
週末に開催予定の「運転会」で見られるとのこと。
運転会の日程、時間については、
TOBICHI東京の公式サイトまたは、
公式ツイッターをごらんくださいね。たくさんのご来場、お待ちしておりまーす!