おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。

>向井秀徳さん プロフィール

向井秀徳(Mukai Shutoku)

1973年生まれ、佐賀県出身。1995年、福岡市博多区にてNUMBER GIRL結成。1999年「透明少女」でメジャー・デビュー。2002年解散後、2003年ZAZEN BOYSを結成。自身で設立したスタジオ「MATSURI STUDIO」を拠点に活動。また、向井秀徳アコースティック&エレクトリックとしてソロ活動を行っている。2009年、映画『少年メリケンサック』の音楽制作を手がけ、第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。2010年、LEO今井と共にKIMONOSを結成。2012年、ZAZEN BOYS 5thアルバム『すとーりーず』リリース。今作品はミュージック・マガジン「ベストアルバム2012 ロック(日本)部門」にて1位に選出された。2019年NUMBER GIRLを再結成。2022年再解散。2024年ZAZEN BOYS 6thアルバム『らんど』をリリース。今作品はミュージック・マガジン「ベストアルバム2024 ロック(日本)部門」にて1位に選出された。著書に『厚岸のおかず』『三栖一明』。

【公式HP】https://mukaishutoku.com/zazenboys.html
【X】https://twitter.com/MatsuriStudio
【Instagram】https://www.instagram.com/matsuristudio/
【YouTube】https://www.youtube.com/@matsuristudio

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第2回 ジゥスーとビースティーズ

──
書いた人がどういう人なのか、
その人柄が偲ばれるようなVOWがお好き。
向井
その意味では、
これも誤植っていったら誤植なんですけど、
お品書き、メニューに
「ジュウース1本100円」ってあるでしょ。
──
はい。「ジュース」ではなく。

『ベスト オブ VOW』より 『ベスト オブ VOW』より

向井
そう、「ジュウース」って手書きで、
ちょっとヨタヨタしような字で書いてある。
で、これはまた別のお店なんでしょうけど、
今度は活字で「ジゥスー各種」。
──
まさしく各種、いろんな「ジュース」が。

『ベスト オブ VOW』より 『ベスト オブ VOW』より

向井
これはわたしの想像に過ぎないけれども、
書いたのは高齢の方じゃないかな、
「ジュース」って、
それまで文字で表したことがなかったか、
もちろんね、
「ジュース」と声に出して言ったことは
当然あったはずだけど、
それを「文字」であらわすときには、
はたして
「ジュウース」なのか「ジゥスー」なのか。
──
ええ。
向井
考えてもみなかったんじゃないでしょうか。
思うに、これを書いた人の人生において、
「ジュース」というものが、
非常に特別なものだったんじゃないかなと。
──
そこまで思いを馳せますか!
向井
想像ですけどもね、たとえば戦後間もなく、
甘いジュースなんか影も形もなかったか、
あってもまったく手に届かない存在だった。
だから子どものころに飲んだこともなく、
この人にとっては、
甘いジュースというものが
とにかく「特別」だったのかもしれない。
──
ただただ、あこがれの存在だった‥‥。
向井
本当には、わからないですけどね。
あらゆるものが不足していた厳しい時代を
たくましく生きてきた、
どうですかね、おばあちゃんかなあ、
そういった人物像が浮かび上がってくるね。
──
ようするに
「ジュウース」や「ジゥスー」の文字から、
人それぞれのジュースとの向き合いかたが、
にじみ出ている‥‥と。
向井
そんな気がします。
──
深い。VOWの読み方として。
ちなみに、ここにあるのは、
みんなただの「ジュース」なんですけども、
これ「何ジュース」なんですかね?
向井
昭和の喫茶店だと考えれば、
やっぱりそれはオレンジジュースでしょう。
つまり「バヤリース」のことです。
おばあちゃんにとっては、
オレンジ色のオレンジジュースがジュース。
メロンジュースだとか
バナナジュース、
イチゴジュースなどは存在しないんですよ。
──
昭和レトロな喫茶店に入って
ジュウースとかジウスーと書いてあったら、
バヤリース・オレンジが出てくる。
しかと、肝に銘じておきたいと思います。
向井
新聞記事にも「いいVOW」がありますね。
──
いいVOWって、いいなあ(笑)。
はい、ぼくもけっこう好きです。新聞ネタ。
向井
真面目な記者さんが、
堂々と間違えてるってところがいいんだよ。
ビースティ・ボーイズが初来日したときの
ちっちゃい新聞記事があるんです。
たぶん一般紙の、
夕刊かなんかの文芸欄、コンサートの情報。
──
はい、ありました。
向井
おそらくイベンターとかレコード会社から
プレスリリースが届いて、
今度こういうグループが来日するので、
あなたのとこの新聞に載せてください、と。
で、文芸記者さんが「はい、わかりました」
ってパパっと書いた記事だと思うんだけど。
──
ええ。
向井
ようするに、新聞社の新聞記者って言ったら
ちゃんとした大学を卒業して、
すごく高い倍率の入社試験を突破してきてる。
とくに、そのビースティ・ボーイズの記事は
ずいぶん昔だと思うから、
新聞記者なんて、
相当な狭き門をくぐり抜けた人たちですよ。
そういう人が、
ビースティ・ボーイズ初来日の記事を書いた。
──
はい。書いた。
向井
どう書いたかって言うと‥‥
初来日ってことは、つまり、あれだな、
たぶん「Fight for Your Right」のときだな。
わたしもよく覚えてる。
ああ‥‥場所が大阪のサンケイホールとある。
つまり、この新聞は産経新聞なのかな、
わからないけども、
とにかくこの新聞記者は、こう書いた。
「男性3人組ビースティ・ボーイズ、
アメリカから初来日」。ここまではいいよね。
──
いいです。
向井
問題は次の一文。
「カラオケに合わせて大声でセリフも吐く。
9日大阪・サンケイホール」。
──
わはは、はい(笑)。
向井
ビースティ・ボーイズがね、
どういうグループかっていうのを説明してる。
1行半で。それが
「カラオケに合わせて大声でセリフも吐く」。
ヒップホップという言葉さえ、
まだ世間に知られていない時期だったからね。
おそらく記者の人、
この1行半を書くにあたっての資料として、
いわゆる「白盤」っつって、
レコード会社が
メディア向けに
資料と一緒にバラまくサンプルをもらってる。
──
ええ。
向井
紙資料を読んだだけでも書けるけど、
いちおう音も聴いとくかと、再生してみたわけだ。
するとキュッキュしたスクラッチサウンドと、
非常にシンプルかつ
強度の高いビートサウンドが鳴りはじめた。
AメロBメロサビみたいな、
聴き慣れた曲構成ではなく、
永遠にリフレインするビートに載せて、
ビースティの3人が
代わる代わるラップを吐き散らしていた、と。
──
そして、なんじゃこりゃと思いながらも、
そのさまを‥‥。
向井
「カラオケに合わせて、大声でセリフも吐く」
と、描写した。
──
つまり‥‥言ってることは正しいんですか?
向井
正しいですね。
──
わはは、正しいんだ!(笑)
向井
その人・A記者にはそう聞こえたわけだから、
正しいんでしょう。
「カラオケに合わせて大声でセリフも吐く」。
新聞記者の顔が浮かび上がりますね。
──
また浮かび上がりますか(笑)。
向井
浮かび上がります。
──
真面目そうな人ですかね、やっぱり。
向井
真面目な人ですね。

『ベスト オブ VOW』より 『ベスト オブ VOW』より

(つづきます)

2026-02-13-FRI

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