一之輔

そういえば、『笑点』に対する三連発、
みたいなページもありましたよ。

いわゆる新聞への投書、テレビ批評の。

──

ええーっと、大丈夫でしたか、つまりその、
そちらのほうでも、
何か失礼なネタを掲載してたりとか‥‥。

一之輔

いや、おもしろかったです。ここです。

視聴者からのご意見なんだけど、
真面目に『笑点』をとらえてるんですよ。
「大喜利では、大月だ、秩父だと
出身地をめぐる争いのワンパターン。
黄色の着物の落語家のボケも相変わらず
ちっともおもしろくない。
もっと頓知を利かせた答えを期待する」。

──

舌鋒鋭いとは、まさにこのこと（笑）。

一之輔

最高だよ。

──

投稿人は70歳、東京都在住の男性。

一之輔

この人、筆に勢いがついちゃったのか、
さらなる「苦言」も呈しているんですよ。

「司会者の体や頭のことで
笑いを取ろうとするのは、
いいかげんにやめたらいかが」とかって。
悪かったな、まだやってるよ！（笑）

──

わはは、それでこその「笑点」ですもんね。
ちなみに、このときの「司会者」って。

一之輔

歌丸師匠でしょうね。文脈からしても。

──

ですよね。「文脈」って（笑）。
こっちの投書も、非常に味わい深いですね。

「『ザブトンが!?　番組開始48年初の事件』
と番組欄にあったので何事かと思ったら、
大喜利で座布団を
一枚も出さなかっただけのこと」って（笑）。

一之輔

期待はずれだったんでしょうなあ。

そこからさらに続けて
「そのため、みんな足が痛そうで
気の毒だった」と書いてある。

──

「なぜそうしたのか不可解で、
司会者に説明してほしかった」。

どうして、ザブトンをあげられなかったのか。
それはもう、
あげられなかったとしか言えない気が（笑）。

『VOW 30周年スペシャル』より

一之輔

どれも、何だか「かわいい」んですよね。
怒ってるのに、なぜか。

──

みんな『笑点』が大好きなんでしょうね。

一之輔

テレビに対する投書って、おもしろいんですよ。
うち東京新聞を取ってんだけど、
けっこう本気の怒りのご意見を載せるんです。

バラエティ番組なんてもんに対して
「くだらない、許せなかった」って、真剣に。

──

それだけ見てるってことですよね。

一之輔

そう。大好きなんだよ。
「型通り、いつも同じことばっかりやって」
とか、やたら詳しいんです。

──

バラエティのパターンを熟知してる（笑）。

一之輔

見てるから。

そもそも、テレビ局への怒りのご意見を
テレビ局に送るんじゃなくて、
わざわざ新聞社に送ってる時点で変でしょ。
何でそんなに遠回りしてんだ。

──

たしかに（笑）。直接言えばいいのに。

一之輔

知ってほしいんでしょうね、オレの意見を。
つまり、載りたいんです。
自分の意見を世に問いたいわけです。

そういうところふくめて、何だかかわいい。

──

で、結果として、その新聞だけじゃなく、
VOWにも掲載され、
さらには、こうして「ほぼ日」にまで‥‥。

一之輔

ねえ。どんどん広まっちゃって。

──

こんなこと言うと失礼千万なんですけど、
ぼく、VOWって、
どこか寄席っぽいなと思うことがあって。

一之輔

ほう。

──

寄席に行くと、世の中の出来事に対して
けっこうな毒舌を吐いたり、
不祥事しでかしちゃった人なんかを
いじったりするじゃないですか。

あれ、会場にいるお客はとくに悪意なく、
というか、
そのいじられている人が
好きとか嫌いとかいう次元じゃなく、
師匠たちの
話しぶり自体をおもしろがって笑ってる。
あの雰囲気に、どこか似ている気がして。

一之輔

ここだけの話ですよ、ってやつですよね。
いま笑った人は同罪ですよ‥‥みたいな、
そういうニュアンスを込めて、
ちょっと危ない話をするみたいなことが、
ぼくら、けっこう多いですよね。

演者とお客さんとの共犯関係というかな。

──

まさにそれです。

一之輔

ぼくも、ひとりの寄席の客だったころは、
そういう話が聞きたくて、
木戸銭払って、通ってましたし。

いま、ここの場だけでしか聞けない話を、
噺家の口から、
噺家の言葉で聞きたかったというか。

──

なるほど、なるほど。

VOWも、総本部と投稿人と読者の三者の間で
「これ、おもしろいよねえ」って笑い合う、
みたいな共犯関係でやってきたと思うんです。
だから、師匠がおっしゃった
「ここだけの話ですよ」感はすごくあるなあ。
納得しました。

一之輔

だから正直なところ、読んでるところを
他人に見られたくないときもあるんです。

──

わかります（笑）。

ちょっと前にこのコーナーに出てくださった
レ・ロマネスクのTOBIさんって人は、
部屋に彼女や友人が遊びに来たら
思わず隠してました‥‥って白状してたし。

一之輔

そうでしょう。でね、思うんですけど、
VOWがおもしろいし、愛らしいなと思うのは
間違ったり誤植したりしてる側が
全員「真面目」だからなんですよ。

四角四面な大新聞に、
大真面目な「笑点」批評が載ったりね。

──

おっしゃるとおりです。

あと、こちらも真面目な話で恐縮ですが、
ぼくがまだ十代で一般の読者だったころに
VOWに痛快を感じていた理由のひとつは、
権威あるものだとか偉ぶっている人を
「ちょっと笑ってやる」みたいなところで。

一之輔

ああ。

──

先代の総本部長・古矢徹さんは、
99.999％はバカバカしいことを書きつつ、
５年に１回くらい
政治に対して真面目に一言言うみたいな、
そういうところがあったんです。
自分は、その「５年に一回」に
「この人は筋が通っている」と感じていて、
だからこそ「99.999％はバカ」でも、
VOW全体には、
どこか「真摯さ」みたいなものが、
ほのかな匂いとして残る気がしています。

で、それと同じような空気を、
寄席にも感じることがあるんです。

一之輔

反お上っていうのかな、
強いものを気持ちよく笑い飛ばす視線ね。

談志師匠なんて、その最たるものですよ。
「この人だったら、なんて言うんだろうな」
って、みんなワクワクしてましたもんね。

──

さらに、寄席や落語の場合は、
弱いほうの側にいる人たちに対しては、
笑いにしつつまなざしはやさしい、
みたいな部分がありますよね。
実在したら「VOW人間」みたいな
与太さんなんかも、
落語では愛されキャラじゃないですか。

一之輔

たしかに。

──

その点は、憧れてます。

落語とか寄席のあたたかさみたいなものは、
そのあたりに出ているんじゃないかと。

一之輔

寄席もVOWも、
人生に不要な情報の宝庫だと思うけど、
何の役にも立たないものこそ、
人生に
余白を与えてくれるっていうのかなあ。

──

余白。

一之輔

うん。
そういうものが大事だと思いますけどね。

人生ってものにはね。