
おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
成相肇(なりあい・はじめ)
東京国立近代美術館主任研究員。戦後日本の前衛芸術を中心に、ファインアートとその周縁に流動する視覚文化を研究。著書『芸術のわるさ』(かたばみ書房)に瞠目すべしだ。
- 成相
- 最近、オノマトペから言語を考える
『言語の本質』という本を読んだんです。 - そこに「言い間違い」というものは、
非常に興味深い現象だって書いてあって。
- ──
- VOWでも、ひとつのカテゴリーですね。
言い間違い、書き間違いの類は。
- 成相
- これはVOW的ではないんですが、
たとえば「お風呂に入る」って言う子が、
お風呂から出るときにも「入る」と言う。 - でも、よくよく考えると、
ある場から移動することが「入る」なら、
「入る」も「出る」も大差ない。
でも、われわれは使いわけていますよね。
つまり、その「言い間違い」から逆に、
どうしてわれわれは、
わざわざその2語を使いわけているのか、
その点の考察に及んだりするんです。
- ──
- なるほど‥‥子どもの言い間違いからも
なにか学べることがある、
ただ笑ってるだけじゃもったいない、と。 - VOWネタにも、
もしかしたらそんな展開があるのかなあ。
大学でVOW講義とか。
先代の総本部長はやったことあったかも。
- 成相
- VOWネタが学術的な資料になるのかは
ぼくにはわかりませんが、
言い間違いは言い間違いで、価値がある。
どうして人は言い間違えるのか、
書き間違いやすい言葉には
いったいどのような特徴があるのか‥‥。 - VOWを読んで、
そんなことを考える人が出てきても
おかしくはないと思います。
- ──
- おお、すごい。そして、おもしろい。
見る人が変わると、話題も一変しますね。 - いつのまにやら
VOWのインタビューとは思えない話で、
それが一周まわって非常にVOW的。
- 成相
- ちなみにVOWにも
名作、名作じゃないがあるんだとすれば、
それって誰が決めてるんですか。
- ──
- 決めている人はいませんが、
ひとつには「引用の数」じゃないかなと。 - ネットで頻繁に引用されて
それこそミーム化してるおもしろ画像が、
初出をたどるとVOWだった、
みたいなことが、けっこうあるんですよ。
- 成相
- あー、なるほど。
- ──
- 見目麗しい美少年キャラクターの
「おちこんでる」というセリフを、
「おちんこでる」と
あられもない誤植をしでかしてしまった
少女漫画とか。 - そういうのが、
たぶん名作なんじゃないかと思います。
- 成相
- それこそVOWを知らない人も知ってる
殿堂入りみたいネタが名作である‥‥と。 - 名作、伝説的なネタと言えば
「ハンドル」と「インド人」を間違えて
とんでもないことになったやつ、
あるじゃないですか。
- ──
- ええ。
- 成相
- 「ハンドルを右に」と打つべきところ、
「インド人を右に」‥‥って。
- ──
- はい。
- 成相
- ゲーム雑誌の伝説的な誤植ですよね。
- 手書き原稿をタイピングする段階で
オペレーターの方が、
間違えちゃったんだと思うんですが。
- ──
- そうなんでしょうね。
- つまり「ハンドル」という書き文字を、
タイプする役目の人が
「インド人」と読んでしまい、
そのまんま打ち込んでしまったという。
- 成相
- そうそう。
- ──
- 誤植としては、ただただすごい。
不世出と言っていいレベルです。 - そして、間違いのうまれかたとしては、
ある時代の特有のものなのかも。
いまってパソコンによる作業ですから、
原稿を書くライターと
原稿をタイピングするオペレーターは、
同一人物なので。
- 成相
- 異なる人間と人間との間に
作業が発生するときのミスですよね。 - どこかで生まれたエラーが
そのまま、生き残ってしまったケース。
- ──
- 伝言ゲーム的な。
- 成相
- そうですね。
- まず、「イ」と「ハ」を読み間違えて、
「ンド」は共通、
さらに「ル」と「人」を読み間違えた。
- ──
- 結果として「ハンドルを右に」が、
「インド人を右に」‥‥って、魔改造か。
- 成相
- 「ハンドル」が「インド人」になるとは、
たぶん、これまで誰も、
思い浮かべたことさえなかったはずです。
- ──
- 素直に感心します。
もう、クリエイティブさえ感じてしまう。
- 成相
- 自動車のゲームを紹介する文章のなかで
「ハンドル」は
「ハンドル」としか読めそうもない。 - でもそこで「インド人」と読んでしまう。
- ──
- ミラクルすぎますよね。
われら人間の可能性の果てしなさを感じます。 - 言い間違いや書き間違い、誤植の持っている
おもしろさの可能性って、
その絵が思い浮かぶところ、じゃないですか。
- 成相
- そうそう。ただ単に間違えてるだけじゃなく、
そこに
思いも寄らない物語やストーリーがうまれて、
まったく別の文脈を形成する。 - そこに、
何とも言えないおかしみが、うまれますよね。
- ──
- アクセル全開! 危ない! ぶつかる!
インド人を右にぐるぐる回す! - 回されてるインドの人が
ナマステ~‥‥なんて言うわけないけど、
言ってる場面まで想像しちゃう。
- 成相
- 言うわけないけど、はい(笑)。
- ──
- その意味では、絵が思い浮かぶかどうか。
そこが名作の条件なのかもしれません。 - これはダジャレにも言えることですけど。
- 成相
- 逆に言えば、
絵の浮かばないただの単なる間違いでは、
おもしろくないでしょうね。
- ──
- VOWにも載らないと思います。
- 成相
- ですよね。
『VOW 30周年スペシャル』より
(つづきます)
2025-04-14-MON
