
おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
成相肇(なりあい・はじめ)
東京国立近代美術館主任研究員。戦後日本の前衛芸術を中心に、ファインアートとその周縁に流動する視覚文化を研究。著書『芸術のわるさ』(かたばみ書房)に瞠目すべしだ。
- ──
- なるほど、おもしろいです。つまりは
超芸術トマソンとは「名付けの芸術」だった。
- 成相
- そこで仕事はほぼ終わっていると言えます。
- 以降は、名付けた概念を強化していくために、
「蒐集する」という行為を重ねていくだけ。
- ──
- 赤瀬川さんたちは、
街に遺棄されたような「無用の長物」‥‥
たとえば四谷あたりで
上がって下るだけの無意味な階段を見つけて、
「四谷階段」と名付けたわけですが。 - つまり「トマソンという概念のおもちゃ」を
つくりあげたことこそが、ことの本質。
- 成相
- そう。その概念で、みんなで遊んでるんです。
- VOWの場合も、同じだと思います。
かつて、VOWという概念を見出した瞬間に
クリエイティブは終わっている。
そのVOWなる概念がおもしろかったから、
投稿人たちからの投稿が
「これってVOWだよね!」と集まってくる。
文化現象としてのVOWを考える際には、
そこに最大の力点が置かれるべきだと思います。
- ──
- いやあ、成相さんのVOWについて考察、
めちゃくちゃおもしろいですね。 - いま、XはじめSNS上には
おもしろ画像を集めたbotみたいなのが、
たくさん存在していますけど、
その意味でいうと、
「VOW」って名前が付いているだけで、
アドバンテージがあるってことですね。
- 成相
- そうだと思います。
- VOWという笑いのスタイルを収める袋が、
そこに存在しているということですから。
- ──
- 名前が付いた途端に輪郭がくっきりして、
ボールみたいに、
投稿人とVOW総本部との間で、
投げたり打ち返したりとかできますしね。 - ああ、40年も続けてきた甲斐があるなあ。
雨の日も風の日も。うれしいです。
- 成相
- あとぼく、これも好きなんです。
「タンスに魚を入れないでください」。
ぜんぜんわからないから、意味が。 - で、あまりにわからなすぎて、
投稿人も、当時のVOW側のコメントも、
どっちも冴えないんですよ。
『VOW2』より
- ──
- わはは、直言! ありがとうございます。
- 成相
- 勝った負けたでいえば、
完全に、この看板を立てた人の勝ちです。
投稿人もVOW総本部も、
ネタを超えることができていないので。 - わたしたちが何かを「笑う」ときって、
そんな気なくても、
笑う側が上に立ってしまうことがあって。
上下の関係が生じがちなんですが、
これは「ネタの勝ち」なんじゃないかと。
- ──
- なるほど。
- 上下関係って、
成相さんならではの視点だと思います。
ちなみに2代目総本部長の古矢徹さんは、
その点に気を配っていた人でした。
- 成相
- あ、そうなんですか。
- ──
- ゴールデン街の2軒目か3軒目で、
「人の揚げ足取りはしたくないな、俺は」
ってずっと言ってたことがあって。 - 街のヘンなモノだとか新聞雑誌の誤植を
ありがたいと思ってるし、
もっと言えば愛してるんだよね‥‥って。
- 成相
- たしかに、誰かの失敗や誤植を見つけて
「ここ間違ってるじゃないか!」
みたいな攻撃的な部分もありませんしね、
VOWには。なるほど。 - あとは、閉店のお知らせ系も好きですね。
長く続けたお店をやめるとき、
理由が切実だったりもして、
文面もグッとくるものが多かったりする。
でも、よくよく読むと、
何ともいえないおもしろみが漂っている。
- ──
- ですね。
本気とか真剣のなせるワザっていうか。
『VOW 30周年スペシャル』より
- 成相
- そう。書いている本人は本気なんだけど、
本気なだけに、どこかおもしろい。 - どうしてそんなことまで書いたのかなあ、
みたいな閉店のお知らせ、ありますよね。
- ──
- ありますねえ。
- 自らの半生を、振り返ってしまいがち。
気持ちはわかります。
人生の大半を捧げた店なわけですから、
思いがあふれてしまうんでしょう。
- 成相
- 手書きだったりするしね。
- ──
- そうそう。ああ、つまり「手紙」なのか。
- お客さんに対してだけじゃなく、
自らの生きた時代とか
自らの人生そのものに対する手紙‥‥!
- 成相
- そうなんでしょうね。
- ──
- ちなみに、VOW的な文化というものは、
海外にもあると思うんですけど。
- 成相
- ええ、きっとあるでしょう。
- たまたま、おもしろい方向へ転がった
誤植や失敗は、とくにSNS以降、
世界中で消費されていると思いますよ。
- ──
- いわゆるネットミームになったりして。
- ただ、VOWネタの場合は、
けっこう日本語への依存度が高いから、
世界を爆笑の渦に陥れるような
オータニクラスのネタとか、
なかなか出ないだろうなと思うんです。
- 成相
- ああ、出ないでしょうね。
- ──
- その点、赤瀬川さんたちのやってた
超芸術トマソン、
あちらは、どうだったんでしょうか。 - 海外の人へのわかられ度というのか。
- 成相
- たしか、海外の人には通じにくい、
おもしろがりどころが伝わりにくいと、
赤瀬川さん、おっしゃってました。 - やっぱり街の中にある「無用な長物」を
給料が高いのに活躍できなかった
プロ野球の助っ人外国人の名前‥‥
つまり「トマソン」と呼ぼうという
日本的な文脈があって、
はじめて、おもしろがれるものですから。
- ──
- 文脈。そうかあ。なるほど。
文脈と名付け、重要ですね。 - VOWには「さんりお」という、
1000年後の未来まで残りそうな名作が
あるんですけど、
あれだって、
もともとのキティちゃんを知らなければ、
ただの「凶悪そうなネコ」ですし。
- 成相
- そうですね。
- パロディというものは、
元ネタに対する知識を求める文化なので。
そもそも「元」を知らなかったら、
まあ、なんにもおもしろくないわけです。
- ──
- あの「さんりお」といえども。
- 成相
- 凶悪そうなネコがいるんですねえ‥‥で、
終わりだと思います。
(つづきます)
2025-04-13-SUN
