
おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
成相肇(なりあい・はじめ)
東京国立近代美術館主任研究員。戦後日本の前衛芸術を中心に、ファインアートとその周縁に流動する視覚文化を研究。著書『芸術のわるさ』(かたばみ書房)に瞠目すべしだ。
- ──
- 赤瀬川原平さんたちによる超芸術トマソン、
路上観察学会の活動については、
まことに僭越、まことに失礼、
怒られるんじゃないかとビクビクしながら
申し上げますと、
わたくしどものVOWと、
どこか似ているところがある、ような‥‥。
- 成相
- ええ。
- ──
- もし、もしも似たものがあったとするなら、
いつかその「異同」について
識者にうかがってみたいと思ってたところ、
成相さんのご著書『芸術のわるさ』に、
赤瀬川さんについて、
おもしろい考察が掲載されていたので‥‥。
- 成相
- あ、書いてますね。
- ──
- 本日は、そのあたりまで
お話いただけたらうれしいなあと思いつつ、
まずはVOWのこと、
成相さんなら当然ご存じでした、よね?
- 成相
- はい、読んでました。
- 高校生から大学生にかけてくらいの時期に。
買った覚えはなくて、立ち読みでしたけど。
- ──
- やっぱり! 同世代ですものね。
- そしてやっぱり! 「立ち読み」なんですね。
この取材をしていると、
買わずに本屋で立ち読みをしていた、
友だちから借りた、
部室にあったのが回ってきた、
道ばたに落ちてたのを拾って読んだ‥‥とか、
つまりは
買わずに済ましていた人が多いんですよ。
いかにもVOWらしく、
誇らしい気持ちです。
- 成相
- すみません(笑)。気軽に立ち読みできるし、
読めばすぐ笑えるし、
ちょっとした気分転換によかったので。 - 当時は雑誌の投稿コーナーに、
おもしろいものが、たくさんありましたよね。
『ジャンプ放送局』とか。
あの流れで、VOWも読んでいたんです。
- ──
- さすがは同世代。100%共感です。
- ぼくも、『ジャンプ放送局』は大好きでした。
恥ずかしながら投稿もしていたくらい。
ただのいちども採用はされませんでしたけど。
- 成相
- VOWの場合は、定番ネタがあったり、
過去のコメントを受けてのコメントがあったり、
好きな人にはわかるネタ‥‥みたいな、
適度にクローズドな、
ひとつのコミュニティに属してる感じがあって。
- ──
- 本当におっしゃるとおりですよ。
- 成相
- そのときどきの話題とか流行りもののネタも
あったじゃないですか。
当時のCМやテレビ番組にツッコんでたり。 - だから、いまの若い人が見たら、
あまりピンとこないものもあるんでしょうね。
- ──
- まさに。
- 掲載媒体が『宝島』という雑誌だったので、
「時代の空気を閉じ込める」感が、
VOWにも、色濃くあったんだと思います。
- 成相
- ですよね。
- ──
- 他の読者投稿コーナーに比して
VOWならではの特徴があるとするなら、
街で変なモノを見つけたり、
新聞・雑誌の誤植を発見した投稿人が
コメントつきで投稿してくる、
それに対して、歴代の総本部長という人が、
ツッコんだりボケ返したりする‥‥という。
- 成相
- その「様式」こそがVOWの実体ですよね。
- まずネタがあり、
それに対する読者のツッコミやボケがあり、
それに対する、VOW側からの
さらなるツッコミやボケ返しでできている。
- ──
- いやあ、うれしいなあ。
こんなに「わかってもらえている」ことが。 - それでは、成相さんのお気に入りのネタを、
さっそく教えてください。
- 成相
- ぼくは爆笑するような感じじゃないネタが
けっこう好きなんです。
たとえば、この飛び出し坊やの看板とかね。 - 飛び出し坊やといえば滋賀が有名ですけど。
- ──
- あ、そうなんですか。滋賀。
『VOW 30周年スペシャル』より
- 成相
- たしか発祥の地だったりするんです。
ここに掲載されているネタは岡山県ですね。
一箇所に大量発生していることに対する
ツッコミだと思うんですが、
ぼくは「飛び出し坊やの看板じたい」が、
おもしろい文化だなあと思います。 - あとこれ「立ち小便禁止 座ってもダメ」。
注目は「鳥居のマーク」です。
- ──
- おお、「座ってもダメ」の部分ではなく。
- たしかに、鳥居の絵が描いてありますね。
何でだろう、近所にあるのかな。
『VOW 30周年スペシャル』より
- 成相
- これは「バチが当たりますよ!」っていう
無言の圧なんですよ。
- ──
- そうなんだ! 神さまはお見通しですよと。
知らなかった‥‥勉強になる。
- 成相
- 昔から、立小便禁止の看板には、
鳥居のマークをつけるという文化があって。 - おもしろいですよね。
- ──
- そんなこと‥‥ぜんぜん知らなかったなあ。
- 成相
- 気が引けるじゃないですか。
- 鳥居のマークが描いてあるようなところで、
その‥‥。
- ──
- ジョボジョボジョボ‥‥とはね、たしかに。
いま音を出す必要はありませんでしたが。
- 成相
- 言葉がなくピクトグラムで表現してるのも、
警告の方法としては興味深いです。 - もっと直接的に書く手もあると思うので。
- ──
- ああー、たしかに。
「立ち小便禁止。死後、裁きにあう」とか。
縮こまりそう。何かが。 - 鳥居のマークだけのほうが、
日本の歴史や文化の文脈を知ってる人には、
効果的だという判断もあるのかな。
- 成相
- ただ、将来的に
鳥居に象徴される歴史文化への畏敬の念が
薄らいでいくとしたら、
いずれは消えていく表現だと思いますが。 - あと、立ち小便しないですよね。いまどき。
- ──
- しないですね‥‥(笑)。
立ち小便は、なかなかしづらい世界線です。 - かくいうわたしも「道ばた」でというのは、
もう、だいぶ、しばらく。
- 成相
- この美容院の人形の看板もいいです。
- これ、作者の「本気」が伝わってきますよ。
突き抜けた表現だと思うなあ。
『VOW 30周年スペシャル』より
- ──
- おお、日本におけるモダンアートの殿堂・
東京国立近代美術館の主任研究員にして
美術評論家の成相肇さんに
そう言わしめるとは。
床屋さんも、さぞかしうれしいでしょう。 - 投稿人も、
「発見した瞬間にVOWネタだと思った」
と書いています。
- 成相
- そう、それが「VOWということ」なんです。
VOWという
ひとつの概念をうみだしたことが、すべて。 - 赤瀬川さんの超芸術トマソンも、同じです。
街で見かける無用の長物を、
今後は「トマソン」と呼ぼう‥‥と決めた、
その瞬間に「発明」のほとんど、
クリエイティブの大半が凝縮してるんです。
◎今週の地域一番店
👉️職場近くの居酒屋さんの看板です。夜に撮影したので怖さが際立ってしまいました。ペンキが乾くまで我慢できなかったんでしょうかね?(京都府/自転車)
♨️わはは、店主のダイイングメッセージか。いまわの際に「当店は……安い、旨い」。ずっと言えなかったのかも。いい店と言えよう。
(つづきます)
2025-04-12-SAT
