愛らしいハンドメイドアイテムの数々を販売する、
スコットランドのお店『トレジャートローブ』。
その名前のとおり、
宝物がぎっしりつまった秘密の洞窟のようなお店です。
そこにあるのは、すべて血のかよった生身のひとの手が
つくりだしたものだけ。
なので、棚にならんだあみぐるみのひとつひとつも、
いまにも動き出しそうな、いきいきとした顔つきです。
おうち時間を一緒に楽しめる、そんなあみぐるみたちを、
スコットランドから直輸入し、販売することにしました。

せっかくならば、素敵なお店のことをたっぷり紹介したい!
三國さんの英国取材と買いつけ旅行の
コーディネートを担当してくださった
ライター・編集者の安田和代さんにお願いし、
日々、このお店を支えるひとびとと
つくり手さんにお話を聞いてもらいました。

文・写真/安田和代

前へ目次ページへ次へ

第3回 374人のメンバーを、一番に考える。 マネージャー・ルイーズさんのお話

すてきなハンドメイドアイテムがいっぱいの
トレジャートローブで、
つくり手である「メンバー」のみなさんの
窓口役を務めるルイーズ・オリバーさん。
ルイーズさんの日々のお仕事について、
また編みもの体験についてうかがいました。


▲右の女性がルイーズ・オリバーさん。 ▲右の女性がルイーズ・オリバーさん。

ルイーズさんには、
2014年の『編みもの修学旅行』を
きっかけにお会いしてから、
その後の買いつけや作品のお願いなども
ずっと担当していただいています。
トレジャートローブで働きはじめて、
どのくらいですか?
ルイーズ
ここで働きはじめたのが2008年の9月ですから、
かれこれもう13年になりますね。
その前もほかのチャリティ団体で働いていて、
ちょうど転職を考えているときに
ここの求人を見つけたんです。
役職は「チャリティマネージャー」の募集でしたが
それまで、この団体の存在も知らなかったので、
「えっ、このお店がチャリティ?」と、驚きました。
いままで私の知っているチャリティ団体の世界とは、
またひと味違って、
そのユニークさやお店のクオリティは嬉しい発見でした。
ここのスタッフは、私だけじゃなく、
長く勤める人が多いんですよ。
だから、公私ともに仲良くなって
いいチームでしごとをさせてもらっています。
たしかに、英国で「チャリティショップ」というと、
一般的には、寄付された家庭の不要品を売るお店ですものね。
新品や手づくり品に特化したこのお店は、
私の目にもたいへん珍しいものに映りました。
「チャリティマネージャー」というと
具体的には、どのようなお仕事なんでしょう?
ルイーズ
主な仕事は、このチャリティ団体の認知度を高めること、
メンバーからのニーズにこたえることと、
彼らの作品の販売促進、そしてスタッフ管理です。
とはいえ、私も含め全スタッフのなかで、
「メンバー第一」の考え方は、徹底していますね。
現在、全登録メンバーは374人いて、
そのなかでアクティブに活動しているのは171人です。

メンバーとの日々のやりとりで、
特に気をつけていることはありますか?
ルイーズ
私たちの団体では、とにかくメンバーと
密に連絡をとるようにして、
誰がどのような状況に置かれているのかを
把握するように努めています。
長年連絡をとりあっていると特に
誰がより助けを必要としているかがわかるので、
ロックダウン中も、なるべく電話をして
様子を聞くようにしていましたね。
加齢や病気などで制作活動ができなくなった方には
「ベネボレント・メンバー」という枠組みで
サポートを続けるという話を聞きました。
ルイーズ
そうなんですよ。
「ベネボレント・メンバー」は46人います。
高齢や、精神面で問題を抱えたメンバーには、
特に気にかけて連絡するようにしていますね。
90歳をこえて耳が遠くなってしまった
メンバーもいて、電話をして
「ハロー、ルイーズよ」と言っても
「WHO? 誰?」と聞き返され
一段と大きな声で「ルイーズよー」と叫んでも
「は? ポリース? 警察がなんの用だい?」
「ポリースじゃなくて、ルイーズよ!」
「……グッバイ」(ガチャ)
というようなこともあって(笑)、
そんなときは手紙を書きます。
みなさんとの密なやりとりが、
ルイーズさんの日常の一部なのですね。
作品づくりに助言することはありますか?
ルイーズ
基本的には、メンバーが好きなものをつくり、
好きなように値段をつけて出します。
ただ、彼ら向けのニュースレターで、
来月はハロウィーン向けの飾りつけをします、とか、
現在、マフラーは十分な在庫があります、とか、
そういった情報は発信しています。
それでも、大きな袋にいっぱいのマフラーを
編んでもってくるつくり手もいて、
「あっ、ニュースレター見ませんでした?」
「見ましたけど、編みたいから編んじゃった」
なんていう会話が繰り広げられることもあります。
あと、新しいメンバーの場合、
値段のつけ方があまりにも低いことが多くて、
そういうときは、アドバイスしますね。

お店で売られているものを見る限り、
とてもリーズナブルな値づけに
なっていると思うのですが、さらに低い値段を?
ルイーズ
そうなんです。売れないことを恐れて、
安くつけてしまうのでしょうね。
あるメンバーが、とってもすてきなニットの
アドベントカレンダー
(12月1日からクリスマスまで、
仕掛けを楽しみながら日数を数えるカレンダー)
をつくってきたんです。
ちいさなポケットがいっぱいついていて、
そこにお菓子が入れられるようになっているものです。
それに8ポンド(約1200円)の値段がついていたので、
「それは安すぎるわ!」と言ったら
「じゃあ、10ポンド」
「ダメダメ安すぎ。25ポンドでどう?」って
まるで、逆値切り合戦のようになってしまって(笑)。
結局25ポンドで売ったのですが、
あっという間に売り切れました。
私も、ひとつ買ってしまいましたし。
ほかにもルイーズさんが個人的に購入されたものは、
いろいろあるようですよね?
ルイーズ
いくつか持ってきましたよ。
ブランケットに袖がついているような
このニットは、とっても暖かいんです。

すごくユニークですよね。
編みごたえもありそうです。
もう1点のこちらもすてきですね。
ルイーズ
このデザイン、すごく着やすくて快適なんですよ。

世界でひとつしかないものを
身近で購入できるのは、うらやましいです。
お店では、どういったものが一番売れますか?

ルイーズ
フェアアイルのニットウェアは、特に人気があります。
帽子でもマフラーでもセーターでも、です。
なので、入荷するとすぐに売れてしまいますし、
フェアアイルものを制作するつくり手には、
年間通じて、常に注文が入っている状態です。
あと、赤ちゃん用のカーディガンも人気があります。
私自身も、実は挑戦したことがあるんですよ。

ルイーズさんご自身が編まれたのですか?
ルイーズ
ふふふ、そうなんです。
もともとまっすぐ編み以外はできなかった私が、
同僚と一緒に、ネットで編み方を探して、
やってみよう、ということになったんです。
とにかくシンプルなパターンをメンバーのひとりに
選んでもらって、つくり目は、YouTubeで学びました。
パターンを選んでくれたメンバーも、
ときどき立ち寄っては
増やし目とか減らし目を教えてくれたんです。
そのうち、私たちも調子に乗ってしまって、
店先に椅子を置いて編むようになりました。
ところが、どこかで目を落としてしまったのか、
目数が合わなくなって、でも初心者だから、
どうやって直していいのかわからないわけです。
教えてくれるメンバーさんが、
都合よくいつもそばにいるわけではないですものね。
ルイーズ
それで、そこにいたお客さんに
「すみませーん、編みもの、されますか?」って
声をかけて、お客さんに教えてもらいました(笑)。
そんなふうに、皆さんに助けてもらいながら、
まぁ、なんとかできあがったのがこれです。
えっ、これ2枚ともルイーズさんが?
すごくかわいいです!

ルイーズ
ケーブル編みもはじめての挑戦だったんですよ。
息子に、結婚して子どもができたら、
着せてねって、いまから言っています(笑)。
メンバーのみなさんとの関係性もそうですが、
トレジャートローブのお店に来られる
お客さんとの暖かい交流も伝わってきます。
たのしいお話をどうもありがとうございました。

(つづきます。)

2021-11-29-MON

前へ目次ページへ次へ
  • 12月2日(木)午前11:00 販売スタート!

    「トレジャートローブ」から、
    4種類のあみぐるみが“来日”します。
    表情がひとつひとつ異なる、
    愛嬌たっぷりのあみぐるみたちです。