愛らしいハンドメイドアイテムの数々を販売する、
スコットランドのお店『トレジャートローブ』。
その名前のとおり、
宝物がぎっしりつまった秘密の洞窟のようなお店です。
そこにあるのは、すべて血のかよった生身のひとの手が
つくりだしたものだけ。
なので、棚にならんだあみぐるみのひとつひとつも、
いまにも動き出しそうな、いきいきとした顔つきです。
おうち時間を一緒に楽しめる、そんなあみぐるみたちを、
スコットランドから直輸入し、販売することにしました。
せっかくならば、素敵なお店のことをたっぷり紹介したい!
三國さんの英国取材と買いつけ旅行の
コーディネートを担当してくださった
ライター・編集者の安田和代さんにお願いし、
日々、このお店を支えるひとびとと
つくり手さんにお話を聞いてもらいました。
文・写真/安田和代
すてきなハンドメイドアイテムがいっぱいの
トレジャートローブで、
つくり手である「メンバー」のみなさんの
窓口役を務めるルイーズ・オリバーさん。
ルイーズさんの日々のお仕事について、
また編みもの体験についてうかがいました。
- ─
- ルイーズさんには、
2014年の『編みもの修学旅行』を
きっかけにお会いしてから、
その後の買いつけや作品のお願いなども
ずっと担当していただいています。
トレジャートローブで働きはじめて、
どのくらいですか?
- ルイーズ
- ここで働きはじめたのが2008年の9月ですから、
かれこれもう13年になりますね。
その前もほかのチャリティ団体で働いていて、
ちょうど転職を考えているときに
ここの求人を見つけたんです。
役職は「チャリティマネージャー」の募集でしたが
それまで、この団体の存在も知らなかったので、
「えっ、このお店がチャリティ?」と、驚きました。
いままで私の知っているチャリティ団体の世界とは、
またひと味違って、
そのユニークさやお店のクオリティは嬉しい発見でした。 - ここのスタッフは、私だけじゃなく、
長く勤める人が多いんですよ。
だから、公私ともに仲良くなって
いいチームでしごとをさせてもらっています。
- ─
- たしかに、英国で「チャリティショップ」というと、
一般的には、寄付された家庭の不要品を売るお店ですものね。
新品や手づくり品に特化したこのお店は、
私の目にもたいへん珍しいものに映りました。
「チャリティマネージャー」というと
具体的には、どのようなお仕事なんでしょう?
- ルイーズ
- 主な仕事は、このチャリティ団体の認知度を高めること、
メンバーからのニーズにこたえることと、
彼らの作品の販売促進、そしてスタッフ管理です。
とはいえ、私も含め全スタッフのなかで、
「メンバー第一」の考え方は、徹底していますね。
現在、全登録メンバーは374人いて、
そのなかでアクティブに活動しているのは171人です。
- ─
- メンバーとの日々のやりとりで、
特に気をつけていることはありますか?
- ルイーズ
- 私たちの団体では、とにかくメンバーと
密に連絡をとるようにして、
誰がどのような状況に置かれているのかを
把握するように努めています。
長年連絡をとりあっていると特に
誰がより助けを必要としているかがわかるので、
ロックダウン中も、なるべく電話をして
様子を聞くようにしていましたね。
- ─
- 加齢や病気などで制作活動ができなくなった方には
「ベネボレント・メンバー」という枠組みで
サポートを続けるという話を聞きました。
- ルイーズ
- そうなんですよ。
「ベネボレント・メンバー」は46人います。
高齢や、精神面で問題を抱えたメンバーには、
特に気にかけて連絡するようにしていますね。 - 90歳をこえて耳が遠くなってしまった
メンバーもいて、電話をして
「ハロー、ルイーズよ」と言っても
「WHO? 誰?」と聞き返され
一段と大きな声で「ルイーズよー」と叫んでも
「は? ポリース? 警察がなんの用だい?」
「ポリースじゃなくて、ルイーズよ!」
「……グッバイ」(ガチャ)
というようなこともあって(笑)、
そんなときは手紙を書きます。
- ─
- みなさんとの密なやりとりが、
ルイーズさんの日常の一部なのですね。
作品づくりに助言することはありますか?
- ルイーズ
- 基本的には、メンバーが好きなものをつくり、
好きなように値段をつけて出します。
ただ、彼ら向けのニュースレターで、
来月はハロウィーン向けの飾りつけをします、とか、
現在、マフラーは十分な在庫があります、とか、
そういった情報は発信しています。
それでも、大きな袋にいっぱいのマフラーを
編んでもってくるつくり手もいて、
「あっ、ニュースレター見ませんでした?」
「見ましたけど、編みたいから編んじゃった」
なんていう会話が繰り広げられることもあります。
あと、新しいメンバーの場合、
値段のつけ方があまりにも低いことが多くて、
そういうときは、アドバイスしますね。
- ─
- お店で売られているものを見る限り、
とてもリーズナブルな値づけに
なっていると思うのですが、さらに低い値段を?
- ルイーズ
- そうなんです。売れないことを恐れて、
安くつけてしまうのでしょうね。
あるメンバーが、とってもすてきなニットの
アドベントカレンダー
(12月1日からクリスマスまで、
仕掛けを楽しみながら日数を数えるカレンダー)
をつくってきたんです。
ちいさなポケットがいっぱいついていて、
そこにお菓子が入れられるようになっているものです。
それに8ポンド(約1200円)の値段がついていたので、
「それは安すぎるわ!」と言ったら
「じゃあ、10ポンド」
「ダメダメ安すぎ。25ポンドでどう?」って
まるで、逆値切り合戦のようになってしまって(笑)。
結局25ポンドで売ったのですが、
あっという間に売り切れました。
私も、ひとつ買ってしまいましたし。
- ─
- ほかにもルイーズさんが個人的に購入されたものは、
いろいろあるようですよね?
- ルイーズ
- いくつか持ってきましたよ。
ブランケットに袖がついているような
このニットは、とっても暖かいんです。
- ─
- すごくユニークですよね。
編みごたえもありそうです。
もう1点のこちらもすてきですね。
- ルイーズ
- このデザイン、すごく着やすくて快適なんですよ。
- ─
- 世界でひとつしかないものを
身近で購入できるのは、うらやましいです。
お店では、どういったものが一番売れますか?
- ルイーズ
- フェアアイルのニットウェアは、特に人気があります。
帽子でもマフラーでもセーターでも、です。
なので、入荷するとすぐに売れてしまいますし、
フェアアイルものを制作するつくり手には、
年間通じて、常に注文が入っている状態です。
あと、赤ちゃん用のカーディガンも人気があります。
私自身も、実は挑戦したことがあるんですよ。
- ─
- ルイーズさんご自身が編まれたのですか?
- ルイーズ
- ふふふ、そうなんです。
もともとまっすぐ編み以外はできなかった私が、
同僚と一緒に、ネットで編み方を探して、
やってみよう、ということになったんです。
とにかくシンプルなパターンをメンバーのひとりに
選んでもらって、つくり目は、YouTubeで学びました。
パターンを選んでくれたメンバーも、
ときどき立ち寄っては
増やし目とか減らし目を教えてくれたんです。
そのうち、私たちも調子に乗ってしまって、
店先に椅子を置いて編むようになりました。
ところが、どこかで目を落としてしまったのか、
目数が合わなくなって、でも初心者だから、
どうやって直していいのかわからないわけです。
- ─
- 教えてくれるメンバーさんが、
都合よくいつもそばにいるわけではないですものね。
- ルイーズ
- それで、そこにいたお客さんに
「すみませーん、編みもの、されますか?」って
声をかけて、お客さんに教えてもらいました(笑)。
そんなふうに、皆さんに助けてもらいながら、
まぁ、なんとかできあがったのがこれです。
- ─
- えっ、これ2枚ともルイーズさんが?
すごくかわいいです!
- ルイーズ
- ケーブル編みもはじめての挑戦だったんですよ。
息子に、結婚して子どもができたら、
着せてねって、いまから言っています(笑)。
- ─
- メンバーのみなさんとの関係性もそうですが、
トレジャートローブのお店に来られる
お客さんとの暖かい交流も伝わってきます。
たのしいお話をどうもありがとうございました。
(つづきます。)
2021-11-29-MON
-
12月2日(木)午前11:00 販売スタート!
「トレジャートローブ」から、
4種類のあみぐるみが“来日”します。
表情がひとつひとつ異なる、
愛嬌たっぷりのあみぐるみたちです。