愛らしいハンドメイドアイテムの数々を販売する、
スコットランドのお店『トレジャートローブ』。
その名前のとおり、
宝物がぎっしりつまった秘密の洞窟のようなお店です。
そこにあるのは、すべて血のかよった生身のひとの手が
つくりだしたものだけ。
なので、棚にならんだあみぐるみのひとつひとつも、
いまにも動き出しそうな、いきいきとした顔つきです。
おうち時間を一緒に楽しめる、そんなあみぐるみたちを、
スコットランドから直輸入し、販売することにしました。

せっかくならば、素敵なお店のことをたっぷり紹介したい!
三國さんの英国取材と買いつけ旅行の
コーディネートを担当してくださった
ライター・編集者の安田和代さんにお願いし、
日々、このお店を支えるひとびとと
つくり手さんにお話を聞いてもらいました。

文・写真/安田和代

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第2回 女王陛下も買ってくださいます。 運営委員代表・ジリーさんのお話

トレジャートローブを運営するチャリティ団体、
ロイヤル・エディンバラ・レポジットリー
&セルフ・エイド・ソサエティの
運営委員代表を務める
ジリー・オーグルビー=ウェダーバーンさん。
代表の仕事について、
また、団体のユニークな一面などについて、
お話をうかがいました。


今日はお時間をつくっていただき、
ありがとうございます。
ジリー
こちらこそ、お目にかかれて嬉しいです。
あなたたちのことは、ずいぶん話を聞いていましたから。
たしかに、前回お会いしたのは、
ジリーさんの前任者のエリザベスさんでした。
いつからいまのポジションに就かれたのですか?
ジリー
2年半前からです。
ちょうど前の職場のしごとが落ち着いて、
なにか新しいことを始めようかしら、と
思っていたところに
このチャリティ団体の運営委員である友人が、
新しい代表を探しているんだけど、
興味はありませんか、と声をかけてくれたのです。
その前から、このお店のことはご存知だったのですか。

ジリー
エディンバラに住んでいるので、存在は知っていました。
でも、お店に入ったことはなくて、
詳しいことは知りませんでした。
この話がきてから、いろいろ知って、
素晴らしいなと思いましたね。
長い歴史のある団体なのですよね。
ジリー
そのとおりです。もともとは19世紀後半に
ふたりの姉妹が自宅で始めたチャリティです。
当時は年に一度、フェアを開催して
生活に困っていた人々の手づくり品を集めて、
売り上げを彼らの生活の助けにするという
現在とほぼ同じシステムで売っていたようです。
ところが姉のほうが病気で長期休暇をとって
戻ってきた時に、
経営上のあらぬ不正で職を追われてしまい、
新たに自分で団体を設立したのです。
それで「ロイヤル・レポジットリー」と
「セルフ・エイド・ソサエティ」という
ふたつの団体ができたわけです。
そのふたつが、再び一緒になったということですか?
ジリー
そうなんです。
この建物は1946年に建造されたときに、
セルフ・エイド・ソサエティが購入し、
1階を店舗にしましたが、
すぐ近くにロイヤル・レポジットリーの出している
お店もあったのです。
それが、1977年に合併して、ひとつになりました。
長い名前の理由がよくわかりました。
いまでは、トレジャートローブの名前が
定着していますよね。
ジリー
そうですね。でも、高齢の方のなかには
いまでも「レポーズ」と呼ぶ人もいます(笑)。
代表の主なお仕事というと、
どういうことが挙げられますか。
ジリー
ボランティアで構成されている運営委員の代表で、
この団体がちゃんと本来の目的に則した活動……
つまり、生活に困難を抱える人々から、
彼らの手でつくったものを預かり、
それらを販売することで、
彼らの生活をサポートしていることを、
しっかりと見守るのがいちばんの仕事です。
実際のところは、私が現職についてから、
予想外のことがいろいろありました。
パンデミックがあって、
お店を長期間閉めなければいけなかったり、
老朽化した建物の屋根を直さなければならなかったり、
洪水の被害に遭って、メンテナンスが必要になったりと、
ほんとうに大変でした。
でも、とてもやりがいのあるしごとです。
スコットランドも、
2回ロックダウンがありましたよね?
ジリー
はい。それぞれ数ヵ月間ずつ店を閉めなければならず、
急いでオンライン化を進めました。
オンラインショップを新しくして、
集客しようとしましたが、
私たちのお店は、オンラインには向いていないんですよね。
一点ものが多く、品数が膨大なので、
ひとつひとつ写真をとって、説明を加えて……
という作業がまず追いつかなくて。
InstagramとFacebookに掲載した
写真に対する反応のほうがよくて、
そちらから注文がくるようになって、
少しずつ挽回していった感じですね。
新たなメンバーの募集には、
ウェブサイトが、大変役に立っていると思います。
メンバーになるには、どのような過程を踏むのですか?
ジリー
作品のサンプルを2点添えて、申請をしてもらいます。
メンバーに相応しいかどうかは、
運営委員全員で相談して決定しますが、
英国内に住んでいることや
一世帯としての収入が一定以下であること、
売れるクオリティのものをつくれること、
ほかの商業施設で販売していないことなど、
いくつか条件があります。
一度審査に通ってメンバーになると、
個人の番号が割り振られ、そこからは一生メンバーです。
自由に好きなものをつくって、自分で値段をつけて、
お店に持ち込んでもらうか、郵送して納品してもらいます。
ものが売れたら、値段の10%のみが引かれますが
90%は、報酬として受けとることができます。

毎月どのくらい出品しなければいけない、
というような義務もないのですね?
ジリー
まったく個人に委ねられていて、義務はありません。
でも、高齢化や状況の変化によって、
制作活動ができなくなったメンバーには、
ベネボレント・メンバーという枠組みで、
年に2回の給付金を出しています。
スタッフは非常にまめにメンバーと連絡を取り合って、
なにか困っていることがないか、元気にしているか、
確認していますね。
とてもユニークなシステムのチャリティ団体ですよね?
ジリー
はい。現在ではメンバーの手しごとを販売することで、
生活を助けるというチャリティ団体は、
英国内でも、私たちだけだと思います。
ユニークといえば、我々と王室とのつながりも、
ちょっと珍しいかもしれません。
ヴィクトリア女王の時代から、王室とのつながりがあると
ウェブサイトで拝見しました。
ジリー
そうなんです。エリザベス女王のお母さまにあたる、
故王太后が、我々のパトロンだった関係で、
毎年夏の間、エディンバラのホリールード宮殿に
エリザベス女王が滞在される時期に、
特大サイズのダンボールに
お店の商品をたくさん入れてお持ちするのです。
セーターとか、あみぐるみとか、靴下とか、
ジャムやお菓子などあらゆるものを入れます。
すると、女王と王室メンバーの数人が、
その中から気に入ったものをとって、
お支払いくださるシステムなんです。
去年はパンデミックのため、お休みしましたが、
今年はまた再開して、ご購入いただいたんですよ。
自分のつくったものが、女王に買ってもらえるなんて、
とってもスペシャルな感じがします。
ジリーさん、ご自身もなにか手芸をされますか?
ジリー
昔は自分の洋服は、全てお手製でしたが、
いまは、カーテンをつくるくらいですね。
あと、いまでもタペストリー刺繍は好きで、
ロックダウン中は、いろいろつくりました。
これは、孫息子のためにつくったものです。

お店にも小さいお子さんが喜びそうなものが
たくさんありますよね。
ジリー
そうなんです。個人的に購入するものは、
全部孫のためのものばかりです。
なので、手元には残っていないんですよね。
今日も、ウサギのあみぐるみを
孫のために買って帰ることになっています(笑)。
それはまた喜ばれそうですね。
今日は興味深いお話をどうもありがとうございました。

(つづきます。)

2021-11-26-FRI

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  • 12月2日(木)午前11:00 販売スタート!

    「トレジャートローブ」から、
    4種類のあみぐるみが“来日”します。
    表情がひとつひとつ異なる、
    愛嬌たっぷりのあみぐるみたちです。